2-7 シマ……!?
俺たちは一度現実世界にもどった。
時速150kmを超えて、例の光に包まれると、宮前交差点の北に出た。
王我伐闘流との衝突がなければ交差点の南に行くはずだったのだという。
羅愚奈落メンバーの話によると、現実世界の地図と異世界のそれは重なっていないらしい。つまり、先程は交差点の北からどこかの野原の真ん中に転移したが、次に交差点の南に行ってそこから転移しても、さっきの野原の南に出るわけではないということだ。
だから異世界に行く族それぞれお気にいりの転移ポイントを持っている。
羅愚奈落の場合は宮前交差点から南に50mほど行ったところだった。
加速して光を抜けると、また真っ暗なところに出た。だがさっきとちがって、遠くに明かりが見える。
「あれが俺らのシマ、ホルバロウの町だ」
マッハクンがいう。
シマ……。この人たちが異世界の人々を支配しているというのか。
まわりが野原なのはさっきとかわりないが、なかなか立派な道がある。さすがに舗装はされていないが、馬車2台がすれちがえそうなほど広い。バイクのヘッドライトに照らされる路面はよく踏みかためられていて、往来の盛んなことを想像させる。
前の異世界でしょぼくれた町をたくさん見てきた俺にとって、ホルバロウの町は明るすぎた。広場のまわりに石柱が立ち、その上で光るものがある。
「アリャー魔導石ッつーンだ。火ィつけると長い時間燃えるから、明かりや燃料になる」
ナイトがいう。
文明のレベルは俺のいたところとそうかわりないようだが、エネルギー事情はやや異なっている。
羅愚奈落の面々は、この世界としてはありえないレベルの騒音をブオンブオンとまきちらす。
そこへ町の人たちが集まってきた。
「オウ、どーヨ……!?」
マッハクンが彼らに声をかける。「あれからモンスターは来ねーかヨ……!?」
人のよさそうなおじさんがマッハクンに歩みよる。
「実はこのところオオカミがやってきて家畜を襲うんだ」
「そーかヨ。ンじゃ、俺らがやってやンヨ」
「そうしてくれるとありがたい。きみたちがいてくれて助かるよ」
おじさんがいうと、マッハクンは照れくさそうに笑った。
「俺らがはじめてココ来たトキ、ゴブリンの大群に襲われててヨ――」
俺の前に座るナイトがいう。「ソイツら撃退してからこの町の人らは俺らのコト世話してくれてンだ」
「それはいいことをしたね」
暴走族が正義の味方というのはなんだか変な感じだ。
町の人たちは羅愚奈落の面々に興味津々な様子だ。
具体的にいうと、若い女の子たちはマッハクンのところに集まり、はしゃいだ声をあげている。男たちはナイトを囲んで、喧嘩の武勇伝を語りあう。フブキのもとには小さな子供たちが群がって、バイクに乗せてもらったりしている。
一方、俺はといえば、なぜかキッタネー犬にギャンギャン吠えられていた。番犬としての能力をここぞとばかりにアピールしやがる。
なんか扱いに差があるな……。
ひとりのお婆さんが布のようなものを捧げもってナイトのところへやってきた。
「頼まれていたもの、できたわよ」
「オオ、サンキュー」
それを受けとったナイトは俺の方を向いた。「コレ、オメーのだ」
「俺の?」
手渡されたものをひろげてみると、みんなが着ているのと同じ上着だった。背中に「羅愚奈落」の刺繍。胸にはご丁寧に「海山」と住んでる街の名前が入っている。
俺こんな主張強い服着たことねーよ。
「オメーの特攻服だ。サプライズでオメーに渡せるよう、頼んどいた。アッチの世界で刺繍頼むと高ケーかンヨ」
「着てみろヨ、カズゥ」
フブキに促され、羽織ってみる。オーバーサイズで着る感じなんだろうか。サイズとかはまあいいとして、似合ってないねコレ。服に対して顔のオラつき度数が低すぎる。
「ビッとしてンじゃねーかヨ。一気に族っぽくなったゾ」
マッハクンは褒めてくれる。
「写真撮るベ」
フブキにいわれて俺たちは肩を寄せあい、写真に収まった。俺がもし芸能人になったり選挙に出馬するようなことになった場合、この写真が流出したら一発でアウトだろう。
「オウ、おばちゃん――」
ナイトが刺繍のおばさんに声をかける。「代金はすぐ持ってくるかンヨ」
「いつでもいいよ」
おばさんは人のよさそうな笑顔を浮かべる。
「この世界の通貨を持ってるの?」
俺がたずねると、ナイトは首を横に振った。
「持ってねえ。だからいまからモンスター攫ってカネの代わりにすンだヨ」
このいい方……やっぱ暴走族って悪の組織だわ。
「オーシ、モンスター狩りのドーグ用意すンゾ」
マッハクンがいうと、みんなはバイクを押して歩きだした。
村はずれにあるボロい小屋まで行く。ここは羅愚奈落が町の人から借りている建物だという。
「カズも好きなドーグ持ってけヨ」
対モンスター用のアイテムでもあるのかな、と思ったが、彼らの手にするものは剣や戦斧やメイスといった武器ばかりだ。ドーグって武器のことらしい。
他に防具も置いてある。見た感じ、あまりモノはよくなさそうだが、数は揃っている。
「これどうしたの?」
「ゴブリンからの戦利品ヨ」
マッハクンがいう。
「これ売ったらカネになるんじゃない?」
「この辺、商人いねーンだ。大きな町は遠いかンナ」
「そっか、それは残念。……いや待てよ。俺たちにはバイクがある。それを使ってモノを運べば、馬車なんか使ってる業者より有利だからこの世界の覇権を――」
手を打ちならす俺をマッハクンがにらんだ。
「ンなコトやってられッかヨ……!? 俺らァ走り屋だゾ……!?」
「う~む……」
~ バイクを使って異世界物流革命!! 完 ~
喧嘩とかナシでやっていく道が打ち切りエンドを迎えてしまった。あとはもう俺がこの族から追放される路線しかねーな。
仕方なく俺は小屋の中を物色しはじめた。前の異世界では神話級の武器・防具を扱っていた俺にとって、このレベルのものは手に取る気にもなれない。
床に落ちている指輪に目が留まった。人差し指にはめてみる。ぴったりだ。ふと思いたって小指にもはめてみる。これもぴったりだった。
どのサイズにも適合する――魔力を持つ指輪の特色だ。
「鑑定」
俺はアイテムの価値を調べる魔法を発動させた。
回復の指輪 毎秒HPを100回復する
レア度:A
予想価格:3000ゴールド
なかなかの拾い物だ。店で売れば一儲けできる。かさばるものでもないし、持っておこう。
「カズ、ドーグそれだけでいいンかヨ」
ナイトにいわれて俺はうなずいた。
「オーシ、ンじゃ出ッ発だァ!」
マッハクンの合図で俺たちはバイクにまたがった。




