2-5 標的……!?
「いま何かしたのか?」
俺がいうと赤モヒは顔色を変えた。
「な……に……?」
完全にビビってしまったらしく、鉄パイプを持つ手をだらりとさげる。
俺は相手の胸倉をつかんだ。
「ほいっと」
軽く力をこめて投げとばしてやる。高々と舞いあがった赤モヒは、バイクのヘッドライトに照らしだされた合戦場の中央に落ちて動かなくなった。
あたりが静まりかえった。
激しく殴りあっていた羅愚奈落と王我伐闘流の面々が畏怖の目を俺に向ける。
「ウ、ウソだベ……さっきのダサ坊がヨ……!?」
「ドエレーパワーだ……」
「アイツ……バケモンかヨ……!?」
度肝を抜かれているご様子。路上で俺をボコボコにした人たちとは思えない。さっきもこういう展開だったらよかったのにな……。
「ナメンじゃねーゾ、クソガキャア……!?」
赤モヒの相方が殴りかかってきた。
俺はその拳を顔の前でつかんだ。
「これがパンチか? 止まって見えたぞ」
「な、何……?」
そのまま放り投げる。相手は赤モヒのとなりにドサッと落ちた。カーリングなら最高得点だ。
「ヨッシャア、俺らもカズに負けてらンねーゾ!」
マッハクンが仲間を鼓舞する。
「オウヨ! 羅愚奈落親衛隊長・荒垣騎士の喧嘩見したらァッ!」
「ウチが羅愚奈落特隊の大和扶々稀じゃあッ! 記憶と身体に刻印ンどけやァッ!」
ふたりがそれに呼応してさらに大暴れする。
王我伐闘流の皆さんは全員ぶちのめされて地面に伸びてしまった。
「カズゥ、オメーだいじょーぶかヨ……!?」
マッハクンが俺のもとに駆けよってくる。「現実世界でケッコーやられてたかンナ。いま治癒かけてやッからヨ」
「あ、ありがとう」
彼の掌から暖色の光が発せられると、俺の体から傷が消えていった。
「しッかしオメー、ドエレー強エーナ」
ナイトに肩を叩かれる。
「おとなしそーなカッコしてンのに意外とキレたらヤベーのナ。味方でよかったわ」
フブキが自転車のチェーンをぶらぶらさせながら笑う。
「いやあ、みんなこそ強いよ」
俺がいうと、マッハクンが照れくさそうな顔をした。
「ナーニ、あんなヤツらチョレーモンヨ」
この間、日の丸に署名して羅愚奈落の一員になったけど、いまようやく彼らに仲間として認められた気がした。
4人でさっきの喧嘩の感想戦を行っていると、ずるずると何やら不気味な音が聞こえてきた。
「なァにチャラついてやがンだ、1年坊がヨ……!?」
見ると、赤モヒが地面を這ってこちらにやってきていた。俺が投げとばしたときに足かどこかをやったらしい。
「オメーら今日から王我伐闘流の標的だァ。毎日おびえて暮らせヨ……!?」
「アァ……!? イツでもやったらァ!」
マッハクンが怒鳴る。
前の異世界でもこういう奴いたなあ。「ククク……私に勝って喜んでいるようだが、その程度で魔王様に太刀打ちできると思うなよ」とかいう中ボス。現実にもいるよね、試験終わってホッとしてるところに「でも本番は入試だからなあ」とかいって水注すバカ。
いや、そんなことより……コイツらに狙われるってのはまずいな。マッハクンたちとちがって俺は現実世界じゃクソ弱いんだ。
なんとかしてやめさせなければ。
そのためには……これしかない!




