2-4 抗争……!?
異世界に来てみると、そこは月の光の降りそそぐ、だだっ広い草原だった。
この前チキンレースした場所とはちがうようだ。
羅愚奈落と赤モヒ率いる王我伐闘流は輪になってバイクを停めた。円の中央にヘッドライトを向ける。
その光の中にバイクを降りた暴走族たちは飛びこんでいく。
王我伐闘流が20人ほどいるのに対して、羅愚奈落は3人(俺除く)。とうてい勝ち目はないと思われたのだが――
「地獄の門のトビラ開けちまったゾ、テメー……!?」
マッハクンが掌から火の玉を放出する。あれは……火炎魔法だ。
「グオオオッ」
食らった相手は火に包まれ、地面を転げまわった。
「ッダラァ! ッゾォ、クソがァッ!」
ナイトが雄叫びをあげながら敵をブン殴る。殴られた男は5mほど吹きとんだ。
明らかに人間の領域を逸脱している。まさかさっきの声……戦士の咆哮か? ステータスを短時間だけ向上させるスキルだ。
フブキは3人の敵を相手にしている。
「オラアッ!」
彼女は手にした自転車のチェーンを振りまわす。
「ギャアアアアッ」
「ゲブァ……」
「ヒイィ……痛てェ……痛てーヨ……」
一瞬にして3人が血達磨になっていた。
あの動き……明らかに全体攻撃+2回攻撃だ。
地面に倒れた相手の顔をフブキはのぞきこむ。
「アレアレ~、ウチ何かやっちゃいましたァ、先パァイ……!?」
「グッ……ナメやがって……1年坊がヨゥ……!?」
相手が体を起こして殴りかかる。
だがフブキはすばやくそれをかわして逆に膝蹴りを叩きこんだ。
「オラアッ! 王我伐闘流こんなモンかヨォッ……!?」
こいつら、強い……。2年生を相手にして、しかも数的不利な状況で、ここまで圧倒できるとは……。
ていうかこれ、もはや暴走族の抗争とかいうレベルじゃないよね。
俺はナイトのバイクにまたがったまま拳と魔法のバトルを観戦していた。
そこへ背後から忍びよる者があった。
「テメー何のんびりギャラリー気取ってやがンだコラァ……!?」
ふりかえると、王我伐闘流の2人組が立っていた。さっきの赤モヒが鉄パイプを肩に担いでいる。そのとなりで太った男がニヤニヤ笑っていた。
「この喧嘩ァテメーが火ィつけたンだろーがヨ……!?」
「責任重いゼェ、ボクゥ…!?」
太った方が俺の首根っこを押さえ、赤モヒが鉄パイプを振りかぶる。
「死ィねやァァァァッ!」
「ヒィッ……」
俺はとっさに手で頭をかばった。そこに鉄パイプが叩きつけられる。
グシャッという音が響き、腕に痛みが走る。
――が、それはすぐに消えた。
殴られたところを見てみる。変色も腫れもない。
そうだ……俺は前の異世界から引きついだ能力のおかげで、防御力も常人のレベルをはるかに凌駕しているんだった。
「な、何……? 効いてねーンかコイツ……?」
俺の首をつかむ男が声に動揺をにじませる。
「コンダラァッ!」
赤モヒが今度は俺の頭を殴る。
やはり一瞬だけ痛いが、あとは引かない。
俺は赤モヒの顔を見てニヤリと笑った。
「いま何かしたのか?」