2-2 旗持ち……!?
「オウ、カズゥ。どーヨ……!?」
朝っぱらから気合の入りまくった荒垣騎士がコンビニに入ってきた。
以前の俺なら声をかけられた時点で死を覚悟していただろう。
「おはよう。どうしたの?」
「ちッと珈琲買いにヨ」
となりに立つとめちゃめちゃ背がデカい。おまけに胸板がめっちゃ分厚くて喧嘩したら強そうだ。
「そーいや羅愚奈落の旗ァ持ってきたかンヨ、オメー今日持って帰れよナ……!?」
「ああ、例の旗ね……」
どういうわけか俺は鯖ヶ崎高校編入初日、いきなり暴走族の旗持ちに任命されてしまったのだ。
「今度の土曜日の集会に持ってこいヨ……!? 俺のケツに乗っけてやるかンヨ、俺らの旗ァ夜の風にはためかせてヨ、初陣ビッとキメろヤ」
「ああ、うん……」
旗持ちって何なのかよくわかんなかったけど、本当に旗を持つんだな。親衛隊長であるナイトは親衛している様子がないし、特攻隊長の大和扶々稀は特攻なんてしてないので、旗持ちも名前だけの名誉職だと思ってた。
「むかしの軍人はヨ、旗ァ取られたら切腹したってゆーゼ……!? オメーもそーゆー覚悟で旗ァ守れよナ……!?」
「責任重大だな……」
国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄したい――俺は心からそう思った。
「ん?」
ドリンクコーナーの冷蔵庫を開けようとしたナイトが足元に目をやる。「オメー、ドエレー買ってンナ。ハラペコなンかヨ」
床に置かれた籠の中には弁当やらパンやらペットボトルやらが山積みになっている。
「ああ、これはあの子たちが――」
さっき俺に恐喝カマそうとした中学生2人組に目をやる。
すると彼らは腰を屈めてこちらにダッシュしてきた。
「イヤ、ちがうンスちがうンス!」
「俺ら全然そーゆーンじゃないンス!」
「アァ……!? 何ヨ、オメーら……!?」
ナイトが彼らをにらみつける。
彼らはその場に土下座する勢いで身を低くした。
「俺ら海山四中のモンッス。三中で伝説作ったナイトサンや羅愚奈落のみなさんに憧れてるンス」
「そんでみなさんに差しあげようと思って弁当とか買ってるンス」
そういって媚びるような視線をナイトだけでなく俺にも送ってくる。どうやらさっきオラついた件を黙っていてくれということらしい。
「でもよォ……オメーら中坊なンだから金ねーべ? 受けとれねーヨ」
ナイトは困惑顔だ。
「そこをなんとかオナシャス!」
「シャス!」
オラつき中学生たちは頭をさげつづける。
「カズゥ、どーするヨ」
ナイトが俺を見る。
「まあ、彼らもここまでいってるんだしねえ」
「ンじゃあ、もらっとくかナ」
そのことばにオラ中たちが顔をあげる。
「アザッス!」
「ッス!」
彼らは籠を抱えてレジへと走っていった。
「カズ、オメー歩きだベ? 俺のケツ乗ってけ」
「ああ、うん。ありがとう」
俺とナイトは連れだって店を出た。
「アイツら、最初はオメーにおごろーとしてたンだベ? 意外と人望あるじゃンヨ」
「いやあ、どうかな……」
ナイトがバイクのエンジンをかける。
俺は彼のうしろにまたがった。にょーんと伸びた背もたれがあって、意外と座り心地がいい。
オラ中たちがパンパンに膨れたレジ袋を手に走ってくる。ずっしり重いそれを俺は受けとり、膝の上に載せた。
「オメーら、何かあったら俺ントコゆってこい……!?」
そういってナイトはバイクをスタートさせた。
すこし行ってふりかえると、オラ中たちは丁寧なガソリンスタンドの店員みたいにまだ深々と頭をさげていた。
「カズゥ、ソコに旗あッからヨ。見てみろ」
長い背もたれに沿う形で1本の竿が立てられていて、そこに布が巻きついている。
「まだひろげンじゃねーゾ……!? 本番は土曜の夜だかンヨ……!?」
「ああ、うん……」
土曜の夜といえばニチアサのアニメに備えて早く寝るだけだったのにな……。
俺は平和な時代が終わりを告げたことを悟り、ため息をついた。