2-1 中坊……!?
第2突堤 爆走純情戦乙女"悪糾麗" 咲かせてみせます恋の花!
コンビニに一歩足を踏みいれた俺は、ため息をついた。
なんてすばらしい場所なんだ。
壁には落書きなんてなく、床には煙草の吸殻ひとつ落ちていない。店の中を歩く人は唾を吐かないし、こっちにガンくれたりもしない。
そういうのを全部乗せしたカロリー高めの学校が俺の通う私立鯖ヶ崎高校だ。
校内で1日1回は殴りあいの喧嘩を目にするとか、俺のクラス入学式では40人いたけど4・5・6の3ヶ月で10人やめちゃったとか、よその学校の人に信じてもらえなさそうなエピソードがいっぱいある。
編入して1週間たつが、俺はいまだに慣れなかった。治安が悪すぎてとにかく疲れる。
俺の心を癒してくれるのは登校時に立ちよるこのコンビニだけだ。
菓子パンをひとつ取り、冷蔵庫の前で飲み物を選んでいると、背後から声をかけられた。
「あのー」
ふりかえると、中学生男子2人組が立っていた。どちらもDQN丸出しの茶髪だ。制服から見て、俺の卒業した海山五中の生徒ではない。
「な、何……?」
「これ、よかったら使ってください」
そういって彼らは籠を差しだしてくる。
なんだなんだ、いい子たちじゃないの。
すさんだ環境に身を置いているせいで、ついつい人を見かけで判断してしまった。
「ありがとね」
俺は籠を受けとり、手に持っていたパンをその中に入れた。
ふたたびジュース選びにかかる。炭酸が飲みたいけど、暑い教室に置いてたらぬるくなって不味くなるよな、などと考えていると、視界の端に何か違和感をおぼえた。
足元に置いた籠の中に入れたおぼえのないサンドイッチがある。
「ん?」
俺は顔をあげた。
先程の中学生2人組が焼肉弁当とカレーパンとシュークリームとポテチとコーラを運んできて、俺の籠に放りこむ。
「え? キミたち何やってんの?」
俺がたずねると、彼らはニヤニヤといやらしい笑みを浮かべた。
「おごってくださいヨ、先パイ……!?」
「俺ら中坊なンでカネないンすヨ……!?」
マジかコイツら……。
ふざけんじゃねえ! と怒鳴りつけてやりたいところだが、相手はどう見てもヤカラだ。喧嘩になったら確実に負ける。
何もいえずにいる俺を尻目に、中学生たちは籠の中に商品をどんどん入れていく。
こんなことがまかりとおるなんて許されんだろ……。この街には刑法って施行されてねーのか?
怒りに打ち震えていると、店の外からブオンブオンとけたたましい音が聞こえてきた。
中学生たちがそちらに目をやる。
「オッ、トッポい音出してンじゃねーの」
「見に行くベ」
彼らは雑誌コーナーの方に駆けていく。
その隙に俺は籠の中から弁当をひとつ取って棚にもどした。せめてもの抵抗である。
「オオッ、シルバーメタリックのZ400FX! シビー!」
「てことは、ひょっとしてあの人かヨ……!?」
彼らのいうあの人は店に入ってくるとまっすぐにドリンクコーナーへやってきた。
「オウ、カズゥ。どーヨ……!?」
そこに姿を現したのは、朝っぱらから横分けをビシッとキメた荒垣騎士だった。




