第01話 平和な1日の変化
「あ〜 暇だぁぁ」
Bランク冒険者のソルはギルドの酒場で酒を飲みながらそう呟くのだった。
「暇なら仕事しろ、仕事!」
「マスタ〜 あのクエスト量でどうしろと?」
俺が指で示す先には依頼がほとんどないクエストボードがあった。
この街、ロザリオは平和です。
平和すぎて討伐依頼も採集依頼もほとんどないのです。
「はぁ、魔王でも誕生して魔物増えたら良いのに」
「物騒なこと言うもんじゃないぞ?
クエストが少ないだけでまだ残ってる」
「てかさ、なんでこの街ってこんなに平和なの?
さすがに平和すぎるでしょ?
もっと危機的状況でも良くないか?」
この質問をされると常人なら『は?頭逝ってるんじゃねぇの?』という反応になるが、冒険者という戦闘狂の一種である人たちからしたら結構重要な問題なのだ。
いや普通にクエストの有無は死活問題だ。
「知らん、けどローザが魔物に襲われないだけまだマシだ」
「んなこと言ったって仕事がなかったら死んじまうぞ」
「クエストボードに残ってるクエストを受ければ良いだろう?」
「あそこに残ってるのA++級とF−級しかないだろ?」
A++級 災厄級の魔物の討伐クエストで、ソロで挑むなんて真似をする奴は相当な馬鹿しかいない。
F−級は 訓練をしてない一般人でも頑張れば倒せるレベルの魔物の討伐クエストだ。
「良いじゃないか、どちらを受ける?」
「両方嫌だ。A++級とか命が幾つあっても足りないって」
「そんなことはないぞ? 私ならソロで半日あれば達成できるな」
「SSランク冒険者からしたら余裕だろうな!
こちとらBランク冒険者なんだ」
このギルドのマスターはSSランク冒険者だ。
言うまでもないが、クソみたいに強い。
「じゃあ、F−のクエストでいいよな?」
「受けるなんて言ってねぇよ!」
「じゃあ、A++の方にするのか?」
「そっちも嫌に決まっているだろう?」
「じゃあ、私と戦うか?」
「なんでそうなるんだよ!?」
災厄級の魔物以上にマスターのほうがヤバイって。
「じゃあ、F−でも受けておけ。 ほれ、お前なら直ぐに終わるだろう?」
マスターはこちらにクエスト用紙を渡してきた。
推定ランク F−
場所 ローザの東に位置する森
内容 東の森にいるゴブリンの討伐
成功報酬 十万 アルス
「おい、マスター。これ訳ありだろ?」
「ハッハッハー 当たり前じゃないか」
十万アルスはD級クエストの成功報酬と同じくらいである。
もちろん、F−級のクエストに付けられるような報酬額ではないのだ。
「こんなボロそうなクエストを張っておいたら誰かが受けてしまうだろう? だから私が持っていたのだ」
「そういうことじゃなくて、クエスト内容だよ。
F−級に十万アルスとか額がおかしいだろ?」
「まあ、気にするな。 もう受注済みだからな。
断るということはクエストリタイアということになる。 BランクがF−級をリタイアするんだ、降格するのは避けられないと思え」
「テメェこの野郎!!」
「まあ、落ち着け。 ほら、転生結晶やるから行ってこい」
転生結晶とは所持している者が生き絶えると、結合させておいた魔法陣の場所で生き返らせてくれるという結晶だ。
ギルド側から支給されることなんてほとんど無い。
「おいまて、転生結晶を持たせるほどのクエストとかおかしいだろ!?」
「優柔不断な男は嫌いだゾ!」
マスターが俺の頭に手を置く。
「ちょ、優柔不断とかじゃな——」
俺はその言葉を言い終わる前に、ローザの門外へ転送させられた。
クッソ、数年前の俺を止めてやりたい。
『生涯、永久にこのギルドに所属します!』なんてなんで言っちゃったんだろう?
はあ、仕方ない。 東の森だよな?
さっさと終わらせて、十万アルスで高い酒をがぶ飲みしよう。
俺は万年Bランクの冒険者だ。
この街に来たのは数年前だが、その理由は仲間の冒険者とギルドに捨てられたからである。
もともと、結構良い家の長男だ。
魔法学校にも行ってたし、卒業もした。
父親の友人の王宮騎士団の騎士長に剣術も教えてもらい、そこそこの腕前もある。
それを活かして冒険者になったのだ。
俺は組んでいたパーティはダントツで強く、何があってもぶっちぎりの強さで乗り切ったのだ。
しかしそんな日々は長くは続かなかった。
いつの日か、俺より弱かったパーティメンバーがいきなり強くなったのだ。
それも、反則級レベルに。
俺は仲間が禁忌を犯し、力を手に入れたことはすぐに分かった。
しかし、怒りは湧いてこなかった。
その禁忌の内容を知るまで の話だが。
「ああー! 思い出すだけでイライラするぜ」
東の森へ入る前に思わず声を上げてしまう。
森の中の魔物にはもう気がつかれただろ——
その瞬間、風が・・・・いや違う。
生物だ。
武器を持ち、フードを深く被った二足歩行の生物が横を通り過ぎ、俺の頰を剣で掠めたのだ。
「痛っ 何すんだテメェ!?」
すると剣を足を前後した状態で構える、という独特な構えで、こちらに向く。
無駄な動きがなく、隙のない独特な構えをするフードを深く被った二足歩行の生物と対峙する。
これが俺と彼女(?)の運命的で最悪な出会い方をした事を俺はまだ知らない。
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