表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/21

二十一巻 辿り着いた化の岸

翠さんコメントありがとうございました!!すごく嬉しかったです。本文をお楽しみください。p(^-^)q

『春人さん……非常に重たいのですが…』


「いやいや、葉詩さん、そんなはずはないよ」


『いえ…めちゃくちゃ重たいのですが…春人さんのせいで…』


「いやいや、葉詩さん、そんなはずはないよ…」


『ですが春人さん…』


耳塞ぎの一件があってから、俺は半端なく…いや物凄くビビっていた。

足はすくむわ、手は震えるわ、おまけに体全体が硬直して、まともに身動きが取れない。


これじゃあ、いつ襲われたって俺は天国行きだ。

いや、もしかしたら

「罪を償いきれていない。」とか何やらで地獄行きかもしれない…


俺の人生、こんな汚れた場所で終わるのか!?

それも大っ嫌いな化け物の餌として…。


あり得ない。


絶対にあり得ない。


あり得ちゃいけない。


なんで俺が奴らの餌にならなきゃなんねぇんだ。

好きでこんな場所に来た訳じゃねぇし、矛盾しているだろう。

だいたいにして、『俺』は化け物を助けてるんだ。

邪魔をしたわけじゃない、奴らを陥れたわけじゃない、今まで何百、何千と助けてきたんだ。


そりゃあ前世の俺が奴らに何か酷いことをしたことは知っている。


だけど…


だけどさぁ…


俺は何にもしてないじゃん!!


恩を仇で返すようなこの状況ってどういうことなんだよ!!


『お気持ちはよく判りますがねぇ春人さん。

前世、現世、来世は繋がっているものなんですよ。

切っても切れない、持ちつ持たれずの関係。

つまりこの場でどう足掻こうと何も変わりは致しませんし、死ぬときは死ぬんですわ。

ですからどうか、わたくしから降りて頂け…』



「なんで俺の頭ん中聴いてるんだよっ!!」



今まで軽く傾けるように乗せていた体を、葉詩に食い込ませるように体重をかけた。

ついでに薄い羽のようなものを軽く引っ張ってやった。


『痛っ!!何するんですか!?

春人さん!?わたくしを殺す気ですか!?

痛めつける気ですか!?

お体を退けてください!!

羽根を引っ張らないでくださいまし!!』


葉詩は俺に潰されかけている体を小さな羽根でぱたぱたと上に持ち上げながら、じたばたともがいた。

ついでに腕や足で俺をこずくものだから、痛いわ、くすぐったいわで体勢があれよあれよと可笑しくなっていった。

そしてのし掛かったつもりが、そのためなんと木から落ちかけている猿のような無様な格好になってしまった。


「動くなよっ…落ちるじゃねぇーかっ」


『動き…ますわよ…落ちて頂かないとなりま…せんから……』


ぜぇぜぇ息を吐きながら、葉詩はぐいぐいと抵抗してくる。

その度に体が微かにふわりと浮いて、ついドキッとしてしまった。

あまりにも小さ過ぎるその体で、どうやって俺を落としているのか教えてもらいたいぐらいだった。


『……見くびら…ないで…くださいまし…わたくしはいちおう化け物なんですから…これぐらい……容易いことですわ…!!』


「え?」


瞬間俺はひらりと宙に浮いていた。

薄暗い汚ならしいこの空間を。

体が前につんのめり高い位置から一気に落下していく。


『見くびるなと言いましたでしょう』


なぜか冷えた葉詩の声が真上から聞こえる。


『小さいからって馬鹿になさると痛い目をみますわよ』


ついでに言えば揺り動かす微かな羽音までも聞こえる。


『さて、行きましょうか、春人さん?』


「行くって…うわあぁぁぁぁ!!」


急降下で体が落ちていく。

それはもう一瞬のうちに。

回りの景色なんて見えたもんじゃない。

視界は真っ白で頭も真っ白だ。


『あらあら…随分と無様なご様子で…』


葉詩が何か憎たらしい事を言ったみたいだが、全く判らない。

つぅーか聞こえない。

耳は風が生み出すゴォウゴォウと言う異常なうねり声と自分の叫びしか捉えてない。


「うわあぁぁぁぁ!!」


ヤバイヤバイヤバイヤバイ…


ヤバイって!!


俺死んじゃう!!

地べたにべっちゃってなって死んじゃう!!


ちょっマジで助けて!


『騒がないでください…大丈夫ですから』


気圧に空気が潰されて息が出来ない。

朝食べた食パンが胃から飛び出しそうだ。


『もうすぐ着きますよ。

どうせここから下に落ちていかなくてはならなかったんですもの。

荒業ですが、わたくしの上に乗って下さって助かりましたわ。

春人さん臆病者の顔をしてますから、飛び降りるのは無理だったでしょう。

きっと。』


喉もとまでパンが…いやそんな事より視界が薄らいで来たような…そうでもないような…


『そこまで頭が回れば大丈夫ですわ。

普通の方は気絶されますもの。

やはり丈夫な方ですわ。』


体は急降下したままみるみるうちに地面に近づいていく。

瞳には写らないが、気圧の変化からそれが判る。

それから多分側には呑気な葉詩が同じく落下している。

時折微かに話し声が聞こえるから、ぶつぶつ何か話しているのだろう。

そんな余裕があるならさっきの馬鹿力でこの落下を止めてくれ…

妙に頭がはっきりして、

気持ち悪いぐらいに冷静になってしまった自分をどうにかしてくれよ…


すげぇ怖いのに、状況を回避するように頭が働いて吐き気がする…もう食パンが口元まで…きて…るんだけど…


『はい。到着ですわ』


ふいに加速が緩み、体がふわっと宙に浮いた。


『やっとここまで来れましたわ。

お疲れ様でございました。

長い長い空中浮遊はいかがでしたか?』


視界がはっきりと見える。

色が…鮮やかな色がちゃんと見える…

もうぐにゃりと曲がった景色じゃない…


『お話を聞いてくださいませ…よく判らない事で感動されるのは結構ですが、そろそろ地に足をつけますよ?宜しいですね?』


「あ?」


またゆっくりと体が浮き、今度は滑らかに、息が出来る速さで地面に落下しいく。

少しずつ近づく地面がぼんやりと見えた。


『春人さん、ここからが本番ですから、油断してはなりませんよ。』


忠告らしき葉詩の声を聞きながら、一体何を言ってるんだろうと俺は考えて、ぼっーと真上を見上げていた。


あれはなんだろう…

大きな通気孔のような広い穴…


『ここからはわたくしたちの本拠地…何が起こるか解りません。わたくしから絶対に離れないでくださいまし。』


「んー…?」


ぼやっとベールに包まれるように瞳が揺らいだと思ったら、ぐらっと頭が傾き、鋭い痛みが頭蓋骨を刺した。


「うっ」


それから葉詩の手にもたれるようにして、いつのまにか深い深い眠りに落ちていった。


『あららら…人間はやはりか弱いですわね…今はつかの間のご休息を。』


意識が完全に閉じる前に、葉詩の柔らかな声が耳にするりと入ってきた。


『…アヤカシの世界へようこそ、春人さん』


瞼が閉じる直前、珍しく優しげな葉詩の微笑みを見たような気がした…。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ