十八巻 少年の決意
はぁー…はぁー…
荒い息を吐きながら、ぐったりと瞳を開いた。
体制をゆっくりと起こし、辺りに広がる景色を眺めた。
はぁー…はぁー…
瞳はおぼろげに自室を写し、右手首から走る痛みを捉えた。
「くっ…あぁ…」
いつもより寸断に腫れ上がったその傷に、体は耐えることが出来ず、悲鳴を上げた。
「…っう−…」
傷が癒えることを必死に願いながら、叫び出しそうな唇をきつく噛み締めた。
痛い…
痛すぎる…
はぁー…はぁー…
近くに転がっていたスポーツ飲料を手に取り、ぐっ。っと一気に流し込んだ。
はぁー…はぁー…
生ぬるい液体が喉を潤し、傷ついた体を癒していく。重たい体が楽になるまで、俺は体制を崩し、瞳を閉じた。
あれは一体………
なぜ俺が見えたんだろう…
今さっき起こった夢の中の記憶を、手繰り寄せるように引き出していると、ふいに聞き慣れた声が耳に響いた。
『お願いします…あのこを助けてください…』
幻聴と知りながら、その声に耳を澄ませる。
方位に塩を盛ったこの家に、化け物が姿を表すことはない。
結界を張られたこの家を彼らは視ることが出来ない。
『あのこを…あのこを助けてください…』
だが、その声はありありと耳に響き、俺を奮い起たせた。
あのこはまだ死にはしない。
声を上げ続ける限り、餌にされることはないだろう…
だけどそのあとは…?
声を上げられなくなった時は…?
頭の疑問を全て抱き抱え、俺はそっと自室の扉を開いた。
さっきまでじりじりと響いていた右手首の傷跡は、嘘のように真っ白な肌に戻っていた。
やっと春人が動き出してくれました(^_-)あー良かったです!(笑)また次回もお楽しみください!