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十七巻 迷い込んだ禁断の場所

『……て……けて』


濃紺の闇の中に、艶やかな光が見える。


『…けて……すけて』


異国の笑い声と割れるような音色。

一本のたいまつがもたらす艶やかな光は、化け物達を好調にし、興奮させた。

くるくると大きな輪を描けるように、化け物達は踊り続ける。

しきりに中心に置かれた等身大のたいまつをそろりと直視し、ニタリと顔を歪ませながら。



『たすけて…たすけて!!』


何かと、たいまつをちらりと見れば、あかぎれで血を流した痛々しい少年が叫び声を上げている。



『たすけて…たすけて!!』


麻で出来た粗末な服は微かに火の粉が移り、小さな小さな炎が少年を包み込んでいる。


よく見れば、手足に大きなみみず腫が出来ていて、怪しげな真っ赤な膿が、肌からだらりと零れていた。



『クク…叫べ!叫べ!』



『お前が声を枯らさない限り、炎は光を宿し続け、我らの祭は終わることはない。』



『お前の命も消えやしない。』



『高貴なものを奪った罰じゃ。存分に恐怖に溺れ、我らを悦しませておくれ…』


ゆらり…そろり…


叫び続ける少年に化け物は唄うように、言葉をかけた。

歪んだ笑いを張りつけて、恐怖に身を縮ませる少年を面白そうに眺めながら。



残酷だ…

これ程酷いことはない。


俺はゆっくりと木の影から足を踏み出し、そっと化け物達に近づいて行く。

気づかれないことを知りながらも、少年をなめまわす化け物の顔が恐ろしくて、そっと彼らの群れに入った。



『たすけて…たすけて!』


『叫べ!叫べ!』



『お母さん…お父さん…』


『良いぞ!良いぞ!

宴を盛り上げよ!』



いよいよ祭は盛り上がり、化け物達の狂気の声が響き渡った。

暗い森をいっそう闇で包み込み、艶やかな光をいっそう輝かせた。



そのなかを這うようにして進む俺に、化け物は一人として気づかない。


皆、愉快に唄を歌い続け、軽やかな足取りでステップを踏み続ける。



そっとだ…そっと…



俺は体を柔らかく折り畳み、たいまつの前へと輪をぬっていった。

背中に炎が煌々と燃えているが、魂の身体の俺には熱さなど感じることはない。


やっとたいまつの真ん前に辿り着き、くくりつけられた少年を眺めると、彼は驚いたように瞳を開いた。



『……なっ…なんで…!!』


俺は彼に見つめられていることに気づき、身を隠すため炎を飛び越えようとしたが、遅かった。



『待って…!!行かないで…!!』



「ぐっ…」



ふいに蔦のようなものが、少年のふところから伸び、俺の手足を縛り上げた。



『なんじゃ!なんじゃ!』


瞳をくるくると動かして、化け物達は俺を探すが、彼らの瞳には何も写らない。



いや、あのこにだって俺は写るはずはないんだ…


それなのに…なぜ…?


体をばたばたと動かし、

絡まった蔦を引き剥がそうともがいたが、頑丈な蔦はピクリとも動かない。



『お願い…たすけて!!』



少年は声を上げ続け、俺を必死に求め続ける。



『お願い…お願い…』



その声に耳を貸しそうになったが、右手の痛みに目が覚めて、俺は彼を振り切った。



「駄目だ…離すんだ…!!

俺は君を助けられない。」


『なんで…!!』



少年の瞳からは涙が溢れ、乾いた頬を湿らせた。


俺は急いで体を翻し、もと来た道へと歩を進ませた。


『なんで…

なんで裏切るのっ…!!』



煌々と炎は燃え続け、唄は止まない。

笑い声と賑やかな叫び声が聞こえる。


そのなかで少年の叫び声だけが、俺の鼓膜を支配していた…

最後まで読んで頂き、ありがとうございました(^O^)次回もお楽しみください!

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