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十六巻 寄り道と少年の悩み

「はる、また塩を盛っているの?」


ふいに母の声がした。

部屋のドアを見ると、買い物帰りの母が、袋を提げて立っていた。


「…塩の前に息子の早退を心配しろよ」



「どうせまた、気分が悪くなった、でしょ。

サボってばかりの息子を心配するほど、私は寛大じゃないの。」



語尾が荒く、少々、お怒りのご様子…これは下手に話さない方が身のためだな…


「寝るから。

夕飯になったら起こして」


上手く話を逸らそうとしたが、見事に突っ込まれた。


「そうやって話を逸らさないの。はるの考えていることなんてお見通しよ。

ちゃんと言ってくれないと判らないでしょう。

なんで塩を盛っているの?また憑かれたの?」



母は化け物を視ることはないが、その存在を認めている。

それは祖父母が亡くなる前に、憑き物払いをしていたのが関係しているのだろう。


逆に理科教師の父はそれを全面に否定し、

幼い俺を精神鑑定に連れていった。


父は悪い人じゃないから、あのとき黙って言うことを聞いたが、未だにそのことを後悔している。


あんなに恥ずかしい思いをすることは、もう一生ないだろう。


「はる?聞いてるの?

ちゃんと答えて。」


母の声で現実に引き戻された。


「前にも言ったけど、塩にも盛り方があるの。

それを間違えると逆に呼び寄せてしまうって言ったわよね?

はるが化の者に好かれる体質で、悩んでいることは知っているけど、勝手なことをしてはダメよ?」



母には、化け物に好かれやすいため困っている、としか話していない。


祖父に、あまり俺の使命を人に話すな、と言付けを受けたからだ。



「…ちょっと追いかけられたから…家に連れて来たくなかったし…

ごめんなさい。」



「判ればよろしい。

私がちゃんと直して置いたから、心配することはないわ。

今日は顔色が確かに悪いから、休みなさい。

あとで薬を持ってくるから」



なんだかんだ言って、母は優しい。

化け物のことを理解した上で、深く探ってこないことも、むやみに人にそれを話さないことも、非常に助かっている。



「母さん下に行くから、パジャマに着替えて寝るのよ?

そろそろ陽一が帰って来るから、うるさくなるから」

「母さん」


ドアに手をかけた時だった。


「なに?」


数分躊躇ったあと、恐る恐る聞いてみる。


「陽一は…俺が嫌いだよな」

顔を見られないように、母に背を向ける。

母はふっと息を吐き、ベッドに腰かけた。


「なんでそう思うの?」


不安げなその声に背中を押され、そっと呟いた。


「……陽一が視るようになったのは…俺のせいだから」


「……」


「だからきっと、あいつは俺が憎くて、嫌いだ」


きっと前みたいに話してはくれない。

兄ちゃん、兄ちゃん、って笑ってもくれない。

このままずっと避けられたまま、歳を重ねてあいつは大きくなる。


寂しい。


すごく寂しい。



俺はあいつの兄ちゃんなのに…



「春人、こっち向いて」



「…何?」


振り向くと、微笑んだ母がいた。


「今の陽一の目標を知ってる?」


「え?」


「弓道を始めるんだって、豊穣学園の中等部で」


母はにっこりと微笑み続ける。


「自分の身を守るそうよ、弓道で。なぜだか判る?」

「…あれが…怖いから…?」

首を傾げながら答えると、母は微かに笑った。


「ふふ。違うわ。

春人がそうしてるからよ。

弓道には邪を払う力があるんでしょう?

自分を守ることも出来る。

あのこは前に春人が話していたのを覚えていたの。

春人が一生懸命弓道を練習して、上手くなっていったのも知っているしね」



まさか…



「だから、兄ちゃんみたく強くなるんだよ、化け物に負けないように。

それに弓道で大会に出て、兄ちゃんと勝負したいんだ。

俺は兄ちゃんみたいに名手になりたい」



いつのまにか微かにドアが開かれていた。

驚いた母と顔を見合わせると、ランドセルをしょった陽一がそろりと入ってきた。



「何だよーその顔。

帰って来て、おやつ食べようと思ったら、お母さんいないんだもん。

玄関に兄ちゃんの靴があったから、二階に上がってみたら、二人で話してたから、待ってたんだよっ」



頬を赤く染めて、照れた陽一は怒りの声を上げた。


「べっ…別に立ち聞きしてたんじゃないからな。

お母さん待ってただけだからな…


それと兄ちゃん!」


ビシッと俺を指差す。


「俺、化け物のことで兄ちゃん避けてるんじゃないから!

兄ちゃんが佳奈ちゃんに余計なことしゃべったから、かず兄に相談してただけだから!」


「かな…ちゃん?」


頭に『?』マークが浮かんで、ぼけっとしていると、陽一が怒りを爆発させた。


「『かな…ちゃん?』じゃないだろぉー!!

兄ちゃんがこの前、うちに佐々木さんが来た、なんて佳奈ちゃんに話しちゃうから、佳奈ちゃんに嫌われたんだよっ!」



佐々木さん…?


佳奈ちゃん…?


誰だそれ?


「ハルは馬鹿か…?」



いつの間にか一也まで帰って来ていて、一部始終を耳にして呆れていた。



「早退したと思ったら、馬鹿なこと考えて、麻奈おばさんに迷惑かけて、

陽一怒らせて…全く」


麻奈おばさんとは母のこと。

母は麻奈美と言う。



「や、えーっと状況が…」


頭をかく俺に一也と陽一が

「馬鹿。一生悩んでろ」、

「兄ちゃんなんか化け物に連れて行かれちゃえ!」と捨て台詞を吐いて、リビングに降りて行ってしまった。



母だけが俺に、

「大丈夫。はるは少し鈍感なのよ」と

困ったように笑って、

「あとで二人に謝りなさい。あれでも心配してるんだから」と言った。



「何なんだ…?」


俺はぼけっと頭を働かせた。

長くなってしまいました…それもあまり話しに関係してないし…まぁ春人の日常的な感じで楽しんで頂けたら、嬉しいです。

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