十巻 怪し悲しき彼女の正体
「春人くん、行こう」
「へ?」
俺が呆然としていると、
いきなり文無月さんが腕を捕んだ。
「ね?行こう」
彼女はにこにこしながら、腕を引っ張る。
「行くってどこに…?」
「いいから、来て」
笑いながら、強引にどんどん腕を引きずっていく。
中間休みの今、教室にいるたくさんの生徒が面白そうに俺達を見ている。
なぜかいつもと雰囲気が違う気がしたが、気のせいか?
何か文無月さんらしくない。
「文無月っ…」
一也が困ったようにこちらを見ていた。
俺が困っているぐらいだから、当たり前か…。
「…。」
文無月さんは一也を無視して、どんどん進んでいく。
「…あやの・・・」
一也はそれを追いかけるように文無月さんの名前を呼んだ。
普段一也が文無月さんの名前を呼ぶことなんて、そうそうない。
それが今日は二回も呼んだ。
どうやら一也は酷く混乱しているらしい。
「何?瑞ノ江」
文無月さんは顔色一つ変えず、にこにこしたまま答えた。
「おま…」
「あとでね」
そして、今度こそ一也に背を向けてすたすたと教室を出て、廊下を歩いて行く。
その歩調は軽やかで、一也のことなど気にしてないようす。
ほら…
やっぱりいつもの文無月さんじゃない。
俺は小さくなる一也の姿をぼーっと見ながら考えた。
文無月さんが一也を無視することなんてないし、
名前を呼ばれて顔色を変えないはずがない。
やっぱり変だ。
「ちょっと強引でしたわね」
少し廊下を歩いて、文無月さんがぽつりと呟いた。
「ですが、しょうがなかったんですわ。お許しを。」
俺はきょとんと彼女の顔を見ながら、一人溜め息をついた。
そういうことか…
違うに決まってるじゃん、
馬鹿だ、俺。
「あと少しですから、お待ちくださいね。」
今、目の前で笑っているのは文無月さんじゃなくて、俺が大っ嫌いな化け物の…
「春人さん」
葉詩だから。
というわけで、綾乃は葉詩でした(^_-)☆
春人がまたまた可哀想ですが、しょうがありませんよ、やっぱり(笑)
瑞ノ江に誤魔化すのがまた大変だな、春人は…
次回は葉詩の依頼に深く触れ始めます。
またお願いしますね!