表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ぼくのための子守唄  作者: 曲がった言の葉
3/7

適当男と7人の道化

きみは現状を、どう捉える?


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


天半 信濃(あめなか・しなの)──適当男

悲繰 めくり(ひくり・めくり)──ニート

任那 杯(みまな・さかずき)──几帳面

千々石 無罪(ちぢわ・なつみ)──学生

枝分 河垂(えだわかれ・かわだれ)──老婆

杖越 呼々(つええつ・こよ)──田舎者

土也 木肖(となり・こしょう)──嫌味

聖河原 聖(ひじりがわら・せい)──友好的


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


彼女の名前は悲繰めくりというそうだ。


専用の自販機を持っている20歳かそこらの小柄な女性。僕を突き飛ばした彼女。ジャージが誂えたように似合っている。


「あ、あの、すみません・・・!あの、その、わたひ・・・っ、わたし、あまり外に出たくないのでここに自販機を置いていて、紛らわしくてごめんなさい・・・。」


物凄い慌て様だ。


えっと、めくりさんはニートってことなのだろうか・・・。というか可愛いなこの人。ぺこぺこ頭を下げて謝っているのがなんだか小動物みたいだ、と思う。僕と歳は同じくらいに見えるけど、もしかしたらかなり下かも知れないな。

なんて思いつつ、自分では気付かない間に僕はかなり熱い眼差しを彼女に送っていたようだ。めくりさんは顔を真っ赤にして、


「な、な、なんっ・・・何でしょうかっ?!」


と言う。この人本当に人と関わるのに慣れていないんだな。そもそも人間が生きる上で他人と関わることは必須なので慣れるも慣れないもあったものではないが。


「いや・・・何でもないです。なんか小動物っぽいなと思って・・・」


いやいやいや、僕は何を口走っているんだ!初対面の女性に「小動物っぽい」って馬鹿なのか僕は!

しかしめくりさんは気分を害した様子は全く無かった。そして衝撃の一言。


「ええっ?そ、そうですか?それとは逆に干支は辰なんですよ!」


え?何て言ったかこの人?辰年生まれってことは僕と9歳違いってことになるよな・・・?僕は今年20歳になるからそれを基準にするとめくりさんは11歳?!さすがにそれは無い・・・。


────29歳?嘘だろ?


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


いつだったか、エインズワースの小説を読んで一目惚れなんかあるわけねーだろと毒づいたことがあった。しかし、自分がそんなことになるとは・・・。しかも9歳も上だったとは・・・。でも年の差なんて知ったことか、僕はめくりさんが好きだ!


そして今僕は自分の部屋に着いて荷物を置き、部屋のど真ん中に突っ伏している。

なんか、疲れた・・・。

窓の外を見ると雪は既に止んでいて、銀世界が取り残されているだけなのだった。都会育ちのせいもあるが、そういえばこんなに雪が積もっているのを見るのはこれが初めてかもしれない。こっちの子供達はかまくらなんか作って中で遊んだり飲食したりするのだろうか。ん?飲食・・・?


ここで僕は結局、板車(いたしゃ)に着いてから何も飲食していないことに気が付いた。すぐそこの自販機はめくりさん専用なので、仕方無く階下へと向かう。


「あ、君!お財布落としたよ?」


これは僕が話しかけられているんだよな?これで違ったら恥ずかしいぞ、と思いつつ声の主の方を見遣る。

そこにいたのは丸眼鏡を掛けた人相の良い長身の男性だった。僕は礼を言ってから財布を受け取る(しかし声をかけられるまで財布を落としたことに気付かない僕は何なんだ)。


「君は今日来たのかい?初めて見る人だね」

「ええ・・・ついさっき着きました」

「そうか、私は聖河原(ひじりがわら)(せい)だ。一番端の″柊″という部屋に泊まっている。」


僕もとりあえずは社交辞令として名前と部屋を聖さんに告げ、再度財布を拾ってくれた礼をしてから階段を下りる。


ロビーには自販機を囲むように談笑する、4人の人間がいた。すなわち僕、めくりさん、聖さん、そして階段で会った嫌味な男を除く宿泊客なのであろう。

大学生くらいの青年。まだ中学生に見える少女。上品そうな着物の老婆。萌黄色の襟巻きで顔が半分くらい見えていない女性。


僕はこんにちはと挨拶をしてから、自販機に120円を入れて緑茶を買う。買えない。商品が出てこない。詐欺だろ!何なんだよ!


「いひひ、おにーさん。その自販機は壊れてるのです。正確にゆーと表示されないのです。売り切れの表示が。無罪(なつみ)ちゃんが推測するには、もうオレンジジュースとメロンソーダしか残って無いのですよ?」


と、細い脚をぱたぱたさせながら楽しげに少女が言う。ううう、実を言うと僕は甘いものが大嫌いなのだった。飲むものが無い・・・だと?!どうすれば良いんだ僕は・・・。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


さあ、序章の始まりだ。


à suivre...


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ