適当男と雪国
「お前はこの家の子なのに一人で食事も出来ないの」
僕は生後3ヶ月。
「お前はまだ満足に字を書くことが出来ないんだな」
僕は1歳半。
「お前はこんな易しい方程式も解けないのね」
僕は5歳。
「お前は遊んでばかりで全くどうしようもないな」
僕は9歳と2ヶ月。
「お前には何の取り柄もない」
僕は13歳。
「お前なんかこの家の面汚しだ」
僕は16歳。
「お前なんか居なければ良かった」
僕は18歳。
「お前は死ぬべきなんだ」
僕は───────・・・・・・
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
なんだか物凄く寒気のするつまらない夢を僕は見ていたようだ。
重い瞼をこじ開けて僕、もとい天半信濃は寝台列車の窓から外の景色を見てみる。
一面の雪景色だった。
どうやら僕が寝ている間に降りだしたのであろう雪は、1メートルほど積もっていた。
さすがド田舎……いや、雪国だ。
しかし僕は雪に見蕩れるほどの芸術的な感性は持ち合わせていないので、ポケットからスマートフォンを取り出して某無料音楽提供サイトを開き、適当に音楽を聞き始める。(今回は好きな声優のキャラソンにした)
補足しておくと僕はかなりのオタクだ。
ところで雪に見蕩れなくとも音楽を味わうなんて十分芸術的じゃないかとも言われるけど、僕はそう思っていない。(音楽を味わっている訳ではなく、ただ周りに音があるとなんとなく落ち着くから聞いているだけだ)
適当すぎるな、僕。
まあ良いや!適当とは″適度に当たってる″ことなんだと誰かが言っていた気がするし。(決して僕が勝手に言い出した訳ではない!)
ふいに腕時計を見る。目的地まであと5分も無いようだ。意外と早いものなんだな。(ちなみに1日半)
駅の名前は板舍という。
何だよ、すげー名前だな。
僕も資金があれば痛車の1台や2台くらい持ってたのにな・・・。
──まずい、話が逸れた。
さて、そろそろ電車を降りなくちゃな。
飲みかけの烏龍茶をゴミ箱に捨てて、僕は降車の支度をする。
車掌のアナウンスが入った。
「間もなく板舍、板舍です。お降りの方は───
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
板舍駅からさらに乗り合いバス(なんと7時間に1本だという!)で3時間のところに僕が泊まる旅館があった。
旅館の名前は《朽果荘》。
えーと・・・、これは僕が朽ち果てればいいってことなのかな?(実を言うと僕は旅館の下調べをするときにルートに必死になって名前を覚えていなかった、馬鹿だ。)
駅の名前といい宿の名前といい、本当にとんでもない町(郡?)だ。
嫌な予感しかしないな。
まあいいや!持ち前の適当パワーで行こうぜ!
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
ここで引き返そうとすまいと、辿る運命は同じである。
これは、ひとつの果ての物語。
à suivre...