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バッドエンドコレクション

そんな君が僕は好きだ

作者: 湖城マコト

 頬を濡らし、目を腫らしている泣き顔。

 それが、初めて出会った時の彼女の表情だ。


 その時の彼女は、幼い時から一緒に育ってきた飼い犬が死に、大きなショックを受けていた。


 高校への登校中にたまたま見かけたそんな姿が気にかかり、初対面ながらも声をかけた。

 それが、僕と彼女の出会い。


 通っている学校こそ違ったけど、生活圏が重なっていたから、それからも彼女と顔を会わせる機会は何度もあった。今まではお互いに意識していなかっただけで、きっとこれまでにもすれ違ったりはしていたのだろう。


 顔を会わせる度に挨拶をするようになり、自然と連絡先を交換して、休日にも会うようになって、いつの間にか、僕達は恋人どうしとなっていた。


 彼女にとっては悲しい出来事だったと思うけど、僕と彼女が出会えたのは、あの時彼女が飼い犬の死を悼み、泣いていたからだ。




「……なんで、なんでこんなことに!」


 そんな彼女が、また泣いている。

 今回は犬が死んだ時の比ではない。彼女は大声を上げ、瞳からは大粒の涙がとめどなく溢れ続けていた。

 日常の中でこんな表現を使う時が来るとは思わなかったけど、こういうのを慟哭どうこくというのだろう。


「……」

 

 僕は無言で彼女を抱きしめた。今の彼女にどんな言葉をかけていいのか分からないから、とにかく抱きしめた。




 昨日、彼女の姉が死んだ。

 死因はネクタイで首を絞められたことによる窒息死。警察は殺人の疑いで捜査を開始している。


 彼女のお姉さんはとても優しい人だった。人に好かれることはあれど恨まれることなんて無い。お姉さんは知る人なら、誰もがそういう印象を抱いているはずだ。

 誰からも愛される心優しき女性の死。この大事件は、僕達の住むこの小さな町に、大きな衝撃を与えていた。


「少し休んだ方がいい。ジュースでも買ってくるよ」

「……そばにいてよ」

「すぐに戻るよ」


 目を腫らした彼女の頭を撫でてやり、僕は一度彼女の自宅を後にした。

 三軒隣にある町内会の集会場の敷地内に自動販売機がある。僕はそこで、自分用に緑茶と彼女用にオレンジジュースを購入した。


「酷い話しよね。あんなに優しい子が」

「まだ凶器も見つかってないんでしょう? 警察は何をやってるのかしら」


 集会場の近くで近所の主婦たちが事件について語らっていた。近所の人達にとってもやはり衝撃は大きかったのだろう。


「早く犯人が捕まるといいけど――」


 主婦たちの会話を最後まで聞くことなく、僕は彼女の待つ家へと戻った。


「ジュース買ってきたよ。オレンジジュース、好きだったよね」

「うん、ありがとう……」


 彼女はオレンジジュースを受け取り、ぎこちなく笑って見せたけど、その表情は痛々しい。


「いいんだよ。無理して笑わなくても。感情のままに泣くことも大切だ」

「うん……」


 僕の言葉を受けて、彼女は再び大粒の涙を浮かべて泣き出した。

 僕はただ、隣でその姿を見守り続ける。




 ――ああ、やっぱり彼女の泣き顔は最高だ。


 初めて出会った時、彼女の泣き顔の美しさに僕は一目惚れした。

 付き合い始めてからも何度か彼女の泣き顔は見てきたけど、初めて会った時ほどの素敵な泣き顔を見ることは出来なかった。


 そこで僕は考えた。身近な者を喪ったなら、あの時のような素敵な泣き顔を彼女はまた見せてくれるのではと……


 だからこそ、彼女ととても仲が良かったお姉さんをこの手で殺した。


 結果は僕の待ち望んだ通りのものとなった。今の彼女の泣き顔は出会った時以上のもので、僕はとても満足している。

 僕はまるで、彼女にもう一度恋をしたかのような心地だ。


 でも、楽しみはまだ残っている。


 恋人である僕が大切な姉を殺した犯人だと知れば、彼女の表情は今度はどんな深い悲しみに染まってくれるだろうか?

 それこそが、僕の求める最高の美しい表情となることだろう。


 泣き顔がとても美しい。


 そんな君が僕は好きだ。




 了


一見爽やかそうなタイトルですが、こんな内容ですみません。


ホラー系の短編は何作か書いていますが、その中でも一番いかれてる主人公だと思います。





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