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第75話 余波

 宗次がそれに気付いたのは、スケベな親友の言葉が切っ掛けであった。


「何や最近、メイファンちゃんを見んな」


 朝食の卵かけご飯を食べながら、映助が不思議そうに呟く。


「えっ、そうですか?」


 女子の事は本当に良く見ているなと、一樹が感心半分、呆れ半分で食堂の奥に目を向ける。

 すると確かに、専用の高級テーブルで英雄を囲む少女達の中から、中国人転校生の姿が消えていた。


「それに、音姫ちゃんの姿も見んし」

「何っ!?」


 宗次は思わず驚きの声を漏らしながら、人が減って随分と寂しくなった一年A組を眺めるが、千影沢音姫と名乗る少女の姿も無かった。


(何かあったのか?)


 彼女と別れを交わしたあの夜から、既に三日が経っている。

 顔を合わせれば気まずいだろうと思い、彼女の居る一年A組の方は極力見ないようにしていたので、映助に言われるまで気付かなかったのだ。

 複雑な表情で俯く宗次を見て、シャロが不思議そうに訊ねる。


「宗次殿、ジャパニーズ・クノイチがどうかしたでありますか?」

「……いや、何でもない」


 宗次は明らかに何かある顔で誤魔化した。

 工作員のような事をしていたらしい彼女が、何か事件に巻き込まれたのではないかと心配したためだ。


(余程の事がない限り、天道寺英人の傍を離れるとは思えんのだが……)


 つまり、英雄の傍に居られないほどの怪我を負ったか、ひょっとすると――

 最悪の予想が過ぎり、表情を暗くする宗次を見て、ヘタレ系猪娘の方も真っ暗な顔で俯いていた。


「そ、宗次君、まさかあの女の事を……人型CEの時に助けてくれたから、ちょっと見直してたのに……っ!(ベキッ)」

「陽向ちゃん、物は大事にしましょうね~」


 泥棒猫めっ、と箸に八つ当たりする陽向を、心々杏が呆れ顔で注意する。

 宗次はそれに気付く余裕もなく、安否確認の方法を考え込む。


(事情を知っていそうで、話してくれそうな人は……)


 相手の顔は直ぐに浮かんだ。そして、自分から向かうまでもなく、一時間目にその人物から呼び出しを受けるのであった。


「また授業をサボらせてしまって、ごめんなさいね」


 地下一階の研究室で、京子はそう言って呼び出した宗次に謝った。

 要件はもちろん前回と同じ、ベルト型・幻想変換器の実験である。


「空知君が蜻蛉切以外の武器を生み出した時、その脳波パターンなどを記憶して、集中を解いても幻想兵器が消えない機構を組み込んでみたの。少し無理をしているから、メインの蜻蛉切と同じ性能は出せないけれど、サブウェポンとしては使えるのじゃないかしら」

「…………」


 誇らしげに自分の成果を語る京子だが、それを聞く宗次が暗い顔をしているのに遅まきながら気付く。


「どうかしたの? 気に入らなかったかしら」

「そんな事はないのですが……」


 聞いても大丈夫なのか、宗次は僅かに躊躇しながらも、結局は口にした。


「千影沢……いえ、『あいつ』は無事ですか?」

「――っ!? どうしてそれを……」


 彼女が千影沢音姫ではない事を知っている口ぶり。

 それに京子は驚愕しつつも、彼の真剣な眼差しに負けて、軽い溜息と共に答えた。


「無事よ。大怪我で入院しているのに、無事と言うのも変だけれど」

「そうですか」


 宗次は安堵の微笑を浮かべ頷いた。

 彼女は生きている、それが分かれば十分であったし、それ以上は踏み込む権利がない。

 どんな理由であろうと、彼女が差し出した手を拒んだのは事実なのだから。


「あの子と何かあったの?」


 特高の機密を守るため、という建前の元に京子は二人の仲を尋ねる。

 すると、宗次はまた少し悩んでから、結局は素直に答えるのであった。


「押し倒されて、抱いてくれと言われて、断りました」


 本人が聞いたら、腹の傷も別れの挨拶も忘れて、全力でぶん殴りに来る唐変木な台詞を。


「えぇぇぇ―――っ!?」


 あまりにも予想外すぎる答えに、京子の口から素っ頓狂な声が飛び出る。

 宗次の方はそれを気にした様子もなく、平然とした顔で用意されていたベルト型・幻想変換器を身に着けた。


「実験、始めましょう」

「あっ、うん、そうね」


 追及できる空気でもなくなってしまい、京子は言われるまま実験を開始する。

 ただ、その動揺が尾を引いた訳でもなかったが、ベルト型による幻想兵器の二重使用は、進展したものの完成には至らなかったのであった。

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