【英雄という名の偶像・135ページより】
前述の通り、『聖剣使いの英雄伝説』を筆頭とした天道寺英人サーガを書いた書籍は、まるでノンフィクションのようなていを装いながらも、実際には創作ばかりなのである。
その際たる証拠が『千影沢音姫』である。
ご存じのように千影沢音姫は、『聖剣使いの英雄伝説』など殆どの天道寺英人サーガにおいて、幼馴染という立場からかメインヒロインとして扱われている。
(ただし、アメリカで出版された物はアメリカ人の、ロシアで出版された物ではロシア人と、外国ではメインヒロインを差し替えられているケースが多い)
そして、特高に千影沢音姫という少女が実在し、天道寺英人の恋人だったのも事実のようだ。
しかし、その千影沢音姫は巨大構造物型CEとの戦いから一週間ほど後に、特高から姿を消しているのである。
天道寺英人が倒したと誤解されている、人間型CEとの戦いで重傷を負った、または訓練中の事故で怪我をしたなど、様々な憶測が流れていたが、本当の所はよく分かっていない。
ただ、千影沢音姫が途中で歴史の表舞台から退場した事は、何人もの目撃者がいる事実なのである。
なのに、数々の天道寺英人サーガでは、さもそんな事はなかったとばかりに、千影沢音姫をヒロインとして最後まで登場させている。
これはもちろん、途中でヒロインを交代するなど物語の掟に反する、読者の反感を買うという事情からであろう。
であるならば、あくまでこの話は創作物だと、事実とは違うとハッキリ明示するべきだと、著者は重ねて告げたいのである。
余談だが、本書を執筆するにあたり、著者は千影沢音姫から話を聞こうと思い、その消息を探ったのだが、その中で不思議な出来事に遭遇した。
なんと、「自分こそが本物の千影沢音姫である」と名乗る女性に出会ったのだ。
彼女は戸籍謄本を見せてくれたが、確かに千影沢音姫という名前であった。
念のため近所の方々に聞き込みを行ったが、十数年前(彼女が当時九歳の時)に引っ越してきた千影沢音姫という少女だと、皆が口を揃えて太鼓判を押した。
そして、小学校の運動会で撮った物だと言って、幼い彼女と天道寺英人が揃って映った写真も見せてくれた。
CE戦争中に半壊したため、現在は取り壊されて新しく建て直された、天道寺英人の母校が映っていた事から、偽物の可能性は限りなく低いと思える。
つまり、彼女は本当に『天道寺英人の幼馴染であった千影沢音姫』なのだ。
しかし、彼女は『エース隊員であった一年A組の千影沢音姫』ではないのである。
自分と全く同姓同名、しかも天道寺英人の幼馴染を名乗る少女が、どうして特高に居たのか、彼女は全く知らず、『聖剣使いの英雄伝説』を読んだ時はたいそう驚いたそうである。
これを話すと読者諸氏に「そんな馬鹿な話があるか」と本書の信憑性を疑われるかと思い、最後まで書くか悩んだものの、事実を隠蔽すればそれは、著者の嫌悪する嘘を本物と言い張る連中と同じだと思い、勇気をもって発表させて頂いた。
はたして、エース隊員達が見ていた『千影沢音姫』とはいったい何者であったのか、残念ながら真相は不明である。




