【聖剣の英雄伝説・第6章・42ページより】
カランカランッ。
乾いた音を立てて、光を失った聖剣が英人の手から滑り落ちる。
「やっぱり無理だ、俺はもう……」
ピラーに敗北したあの日から、聖剣エクスカリバーは力を失ってしまった。
だからもう戦えないと、項垂れる英人の襟首を、音姫が掴み上げる。
「英人のバカっ!」
バチンッ!
乾いた音を立てて、英人の頬に平手が見舞われる。
叩いた音姫の目には、大粒の涙が浮かんでいた。
「そんな弱音を吐いて、お姉さんに、刹那さんに恥ずかしいと思わないのっ!」
「――っ!?」
「だからお願い、戦って……っ!」
「音姫……」
泣いて抱き着く音姫の肩を、英人は優しく掴む。
「そうだ、俺は姉さんの意思を継ぎ、この世界を救うって決めたんだ。たとえエスクカリバーが使えなくなったって、俺は最後まで戦ってみせる!」
「英人っ!」
気高い英雄の心を取り戻した英人の姿に、音姫の涙が温かなモノへと変わる。
頬を伝って落ちた清らかな乙女の涙が、地面に転がっていた聖剣に降り注ぐ。
その途端、くすんでいた刃に黄金の輝きが再び宿った。
「エクスカリバー、俺をまだ主と認めてくれるのか?」
英人の問いに答えるように、聖剣はさらに光り輝き、彼の背中にはいつの間にか、白銀の翼も戻っていた。
「音姫、俺行くよっ!」
英人は力強く頷き、青空に向かって飛び立った。
今、彼を失って苦境に立たされていた、仲間達を救うために。