【聖剣の英雄伝説・第5章・63ページより】
深夜、人の営みである電気の光が灯らない、真っ暗な大地の上を英人は飛び続ける。
そうして一時間と経たぬうちに、行く手から禍々しい光が見えてきた。
夜の闇にそびえ立つ、七色の光を放つ八角柱の結晶体。
スカイツリーすら超えるその巨大結晶こそが、人類の敵CEを生み出す元凶・ピラーであった。
「こいつが、姉さんを、皆を……っ!」
上空五百mでピラーと正対しながら、英人の顔には大切な姉を奪った敵への、激しい怒りと憎しみが浮かんだ。
それも一瞬の事で、英人は醜い感情を振り払い、聖剣を振りかぶる。
「怒りも憎しみも、全てここで終わらせる、唸れ、エクスカリバァァァ―――ッ!」
シュゴオオオオオォォォォ―――――ッ!
黄金の輝きを放つ聖なる光が、邪悪に輝くピラーに叩きこまれる。
だが、しかし――
「そんな、馬鹿な……っ!?」
英人の目が驚愕に見開かれる。
聖剣の光をまともに受けながら、ピラーは傷一つ付かず、平然とそびえ立っていたのだ。
「頼む、エスクカリバー。今こそ力が必要なんだっ!」
英人は諦めず、再び聖剣の光を放つ。
しかし、何度繰り返そうとも、ピラーはこゆるぎもせず、禍々しい光を夜の闇に放ち続けるのだった。
「聖剣が、エクスカリバーが効かない……っ!?」
人々の希望、英雄の象徴が、災厄の元凶たるピラーには全く通じない。
それは、天道寺英人の敗北であり、人類の敗北でもあった。