表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
英雄《しゅやく》になれない槍使い  作者: 笹木さくま(夏希のたね)
第5章・天を舞う竜は、地を這う獣の心を知らない
35/125

第30話 どんな時でも貴方は

「ひゃっはぁーっ!」


 光線を放つ直前、CEは横から飛び出してきた装甲車に轢き飛ばされた。


「……は?」


 唖然とする宗次の前で、装甲車から飛び降りてきた一人の少女が、撥ねられて半壊から全壊になったCEのコアに、トドメの一撃を見舞う。

 抜けば玉散る氷の刃、八犬士の愛刀・村雨を振るうのは、クラスメートの剣道少女、平坂陽向。


「兄弟、無事やったか!」


 そして、装甲車の運転席から飛び出してきたのは、女子にモテない親友こと遠藤映助。


「どうして……」

「ワテの家、農家やったからな、重機の運転なんて小学生の頃に覚えたわ」

「いや、そっちじゃなく」

「宗次さんっ!」


 ツッコもうとした宗次の胸に、女の子よりも美少女な少年が飛び込んでくる。


「どうしてこんな無茶をしたんですか! 僕、宗次さんの身に何かあったら……」

「……すまない」


 いつかのように、また大粒の涙を流して心配してくれる斑鳩一樹に、宗次はただ謝る事しかできなかった。


「落ち着け、落ち着くのよ私、相手は男なんだから……」

「お、男の子だからこそ、ライバルでぶふぅっ!」

「はい、ティッシュあげるから鼻血を吹きましょうね~」


 また良い所を奪われて必死に怒りを抑える陽向の横には、鴉崎神奈と小向井心々杏の姿もあった。


「皆、どうしてここに……」

「別に、宗次君を助けに来たわけじゃないわよ。群れから逸れたCEを退治していたら、たまたま通りかかっただけで」

「…………」

「まぁ、京子先生から『馬鹿が馬鹿してるから助けに行って』って頼まれたしね」

「ぷぷっ、ツンデレ乙です~。本当は自分から言いだ、むぎゅっ!」


 心々杏の余計な口を封じつつ、陽向は自分のヘッドセットを外して宗次の頭に被せる。


『何か言う事は?』


 耳元から響いてきた保科京子の底冷えする声に、宗次が思いついた単語は一つだけであった。


「ごめんなさい」

『はぁ……処罰は後で言い渡すから、今はとにかく帰っていらっしゃい』


 それだけ告げて、京子は通信を切った。


「盗んだ装甲車で走り出し、CEを壊して回った罰とか、考えるだけで怖いですね~」

「えっ、ワテらも罰っせられるんっ!?」

「当然だと思いますけど。装甲車の運転手さん、カンカンでしたよ?」

「あ~ぁ、前面がベッコリへこんでるじゃない。これ修理代何百万円取られるのよ」

「ほ、保険とかないですよね……」


 映助達は和気あいあいと話しながら、ふらつく宗次に肩を貸して装甲車に乗せた。


「皆、すまなかった」


 席に座り、改めて頭を下げる宗次に、陽向は軽くデコピンをくらわせる。


「謝罪はもういいわよ。宗次君が頑張ってくれなかったら、街の人達やクラスの誰かが死んでたかもしれないんだから」

「だが、俺は」


 戦いたいから戦ったのだ。ただのワガママで皆にまで迷惑を掛けてしまった。

 そう告げようとする宗次の口を、陽向は人差し指で塞ぐ。


「いいよ、どんな理由でも。君が皆を救ったのは本当なんだから、もっと胸を張って」

「……いいのだろうか?」

「いいのっ!」


 躊躇う彼の背を押すように、陽向は力強く言い切る。

 そんな感情任せの励ましが、ただ胸に温かくて、宗次は自然と笑顔を浮かべた。


「ありがとう、君と友達になれて本当に良かった」

「…………」

「何か拙い事でも言ったか?」

「いや、うん、嬉しい事は嬉しいんだけどね……」

「まぁまぁ、これで一歩前進ですよ~」

「ふぁ、ファイトです……」


 何故か項垂れて落ち込む陽向を、心々杏と神奈が慰める。

 それに首を捻っていると、運転席の方から声が上がった。


「うん? 何やろあれ?」

「どうした?」


 運転席まで身を乗り出した宗次に、映助は窓の外を指さす。


「ほれ、何か光ってるやろ、またヘリでも来たのかと思うて」


 確かに、西の空に星のような何かが光っている。

 だが、大きさ的に戦闘機やヘリコプターの類ではない。

 何より、宗次はその黄金色の輝きに覚えがあった。


「――っ!? 映助、止めろ」

「はぁ?」

「皆も伏せ――いや、椅子にしがみつけ」

「いきなりどうしたの?」


 凍り付くような怖気に襲われて叫んだ宗次を、皆は不思議そうに見詰める。

 しかし、二秒後にはその意味を理解する事になった。


 シュゴオオオオオォォォォ―――――ッ!


 聞き覚えのある津波のごとき音と共に、激しい光と衝撃が装甲車を飲み込む。


「まさ、ぎゃああぁぁぁ―――っ!」

「な、何ですかっ!?」


 装甲車が横転し、さながら回転車を回しすぎたハムスターのごとく、天地が何度もひっくり返る。

 そして、十回転もしたところで、近くの家に突っ込んでようやく止まった。


「み、皆無事か」

「これが無事に見えるんか?」

「う、うきゅ~……」

「お、重いです」


 映助はシートベルトで宙吊り状態、一樹は気絶した神奈の大きな胸に押し潰されている。


「痛たた、何が……えっ?」


 陽向はというと、宗次の胸にしっかりと抱きしめられていた。


「怪我はないか?」

「うきゃわっ!」

「大丈夫そうだな」


 真っ赤になって奇声を上げ、慌てて飛び退く元気な姿に、宗次はほっと胸を撫で下ろす。


「これ、ひょっとしなくてもアレですかね~」

「だろうな」


 コアラみたいに両手足で椅子にしがみ付いていた心々杏の予想に、宗次は頷きつつ後部扉を開けた。

 折れた家の柱や板が被さっていたのを、苦労して退けて外に出て、装甲がえぐれて大破寸前でひっくり返った装甲車の上に、どうにかよじ登って周囲を見渡す。

 巨大な筆で一の字を書いたように、綺麗に破壊し尽くされた住居や道路。

 その先へと目を向ければ、空に輝く黄金の光が嫌でも目に入る。

 全てを吹き飛ばす聖剣の輝き、それを手にして宙を飛ぶ、翼の生えた靴を履いた少年。

 それが誰かなど、言うまでもない。


「「「殺す気かっ!」」」


 味方もろともエクスカリバーで薙ぎ払った天道寺英人に、宗次達六人は聞こえないと知りつつも、揃って罵声を浴びせずにはいられなかった。


「ふざけんなや、マジで死ぬかと思うたわっ!」

「そもそも、何でここにあの人がいるんですか!?」

「助けに飛んで来たんつもりじゃないの~」

「それで味方に殺されたら世話ないわよっ!」

「ひ、酷いです……」


 訓練の時と同様、周りの迷惑も考えず、膨大な力をぶっぱなした天道寺英人に、皆はあらん限りの罵詈雑言を浴びせる。

 それを聞いている内に、宗次は堪え切れず腹を抱えて笑い転げた。


「く、ふふっ、あはははっ!」

「うおっ!? どしたんや兄弟、珍しいな」

「いや、可笑しくてな」

「オカシイのはあのスケコマシの頭やろ、金玉引っこ抜くぞあのガキャ!」


 タコみたいに顔を赤くする映助を見て、宗次はまた爆笑する。

 ただ孤独に槍を振るい、命のやり取りをしたい欲望が、胸から消え去ったわけではない。

 けれど、彼にはこんなにも愉快で頼もしい友がいるのだ。

 高い空から全てを見下し、民衆を救う聖剣使いには決して得られない者。

 時に助け、時に助けられ、共に横を歩いてくれる仲間達が。

 彼らが居るだけで、英雄などと褒め称えられずとも、自分は戦い続けていける。

 それが嬉しくて、宗次は青空に向けてただ笑い声を響かせた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ