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英雄《しゅやく》になれない槍使い  作者: 笹木さくま(夏希のたね)
第5章・天を舞う竜は、地を這う獣の心を知らない
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第28話 避難

 突如出現した小型のピラー、そこから湧いた新たなCEの群れ、その迎撃に現れた四機の攻撃ヘリが振らせたミサイルの雨。

 装甲車の中まで響いた爆音と地響きは、勝利の余韻から一転、地獄へと叩き落された一年生達の心をさらに抉った。


「ひ、陽向ちゃん……」

「大丈夫、大丈夫だから」


 泣きつく神奈をあやす陽向の言葉は、自分に向けて言い聞かせているようであった。


「…………」


 普段はよく喋る映助も、沈痛な面持ちで黙り込んでいる。

 彼の幻子装甲は既に赤信号が点灯しており、次にCEと戦えば間違いなく攻撃が貫通し、心を奪われ生きる屍と化すだろう。

 己の死を目前に突きつけられて笑えるほど、彼は豪気でもなければ狂人でもなかった。

 重苦しい空気に包まれていた装甲車が止まり、重い足取りで外へ出た彼らを待っていたのは、沈黙とは真逆の騒乱であった。


「皆さん、直ちに避難してください!」

「荷物は邪魔になります、置いていってください!」

「ママ、ママーッ!」

「ほら、泣かないで、急いで!」


 調整池の近くに建てられた中学校、周囲の人々が千人以上も避難していたそこでは、教師や市の職員と思われる者達が大声を張り上げ、泣き叫ぶ子供やその手を引く大人達を、必死に街の西側へと誘導していた。

 だが、その歩みはあまりにも遅い。

 僅か一㎞ほど先の地面から突如ピラーが出現し、続いて行われた攻撃ヘリによる爆撃。

 その爆炎により家や畑が吹き飛ばされ、焼け焦げる臭いが黒い煙と共に校舎にまで流れてくる。

 訳の分からぬ事態への恐怖、爆撃と火災という分かりやすい死の恐怖。

 二つの恐怖に縛られた人々の足が、竦み上がってしまったのも当然であろう。

 むしろ、パニックを起こさず避難しようとしているだけ、立派とさえ言える。


『皆、私達が指示するから、言う通りに避難を手伝うのよ』

「は、はい」


 陽向達は戸惑いながらも通信に従い、精一杯の声を上げた。


「皆さん、私達が来たからもう大丈夫ですよ!」

「お、落ち着いて逃げてください……」

「足の悪いお年寄りやお子さんはこっちに来てください、装甲車で運びます!」

「ほれ婆さん、ワテが担いでやるから早よ乗り」

「押さない、駆けない、喋らない、戻らないですよ~っ!」


 街の人々も特高の制服は知っており、それを見て少しは安心したのか、人の流れは僅かながら滑らかになる。

 とはいえ、事態が好転したわけではない。


(ヘリが攻撃してくれたけど、きっと残ったCEが……)


 いつ背後から敵が現れるか、陽向は必死に恐怖を噛み殺しながら、避難誘導を続ける。

 その最中に、ふと気付く。


「あれっ、宗次君?」


 頼れる槍使いの姿が、どこにも見当たらない。

 とはいえ、探し回る余裕などあるはずもなく、大勢の市民と共に中学校の前から離れていった。


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