第23話 懸念
他の一年生(A組を除く)の手も借りて、食堂の片づけを終えて教室へと戻った宗次達は、そこで気になる光景を目にした。
「何やあれ?」
不倶戴天の敵であるA組の面々が、天道寺英人を筆頭に固まって、ゾロゾロと教室から出て来たのである。
しかも、D組の教室前を通る時、「フッ」と勝ち誇るように笑ったのだ。
「本当、感じ悪い連中ね」
「あんな性格悪いと結婚できないですよね~」
「つまり、二人は独身を貫くんやな」
また余計な事を言った映助が、ダブルローキックをくらうのも気にせず、宗次は自分の席に着く。
そして少し経つと、担任の大馬が現れた。
「オーマイガー先生、A組の連中が何や連れ立って出てったけど、どないしたんや?」
「それは今から説明する」
「華麗にスルーッ!? ちゃんとツッコンでやっ!」
ボケ潰しは酷いと騒ぐ映助をこれまた無視して、大馬はしごく真面目に語り出す。
「A組は今日から作戦に参加する事となった」
「はぁ? そらまた急な話やな」
上級生達と一緒に出撃しなかったあたり、A組の面々も先程知らされたのだろう。
「大丈夫なのか?」
宗次の呟きは、D組の誰もが思った事であった。
特に厳しい授業を受けているD組ですら、集団での戦闘訓練はまだ行っておらず、分隊分けすらしていない今、個々の力はCEに劣らずとも、統率力のない烏合の衆でしかない。
なのに、幻想兵器の能力が優秀でも、普段から温い訓練しかしていないA組が、いきなり戦場に放り込まれたとして、果たしてまともに戦えるのだろうか。
「ええやん、ワテらがあいつらの心配してやる必要ないわ」
「ですね~、ハーレム君が蹴散らしてくれるんでしょ~」
映助や心々杏がやっかみ交じりに呟き、「それもそうか」と皆は安堵して頷く。
宗次もまた、口には出さないものの、別の要因から不安を拭いさる。
(千影沢音姫……彼女なら何とかするか)
宗次の背後を容易く奪い、カウンター技も避けてみせたあの体術は、明らかに厳しい訓練で培われた物だ。
それに、普段は普通の女子高生のように振舞いながら、あの夜に見せた仮面のごとき底が窺えない本性。
(特殊部隊……いや、忍者と言った方が近いか)
心を殺して刃に徹する、そんな影に生きる冷たい気配が彼女にはあった。
(まさか、他の女子も?)
天道寺英人をまるで神か何かのように妄信し、ひたすら褒めちぎる少女達。
彼女達も音姫と同じように、厳しく訓練された者達であり、誰かの命令で太鼓持ちを演じているとしたら、あの異常性にも説明はつく。
(……まさかな)
そんな事をする意味が分からず、宗次は首を振ってその妄想を追い払おうとしたが、何故か頭の片隅に引っ掛かってしかたがなかった。
「とにかく、A組は出撃したが、諸君らはまだ学校に残って授業だ。早く一人前のエース隊員になれるよう、午後の授業も厳しくいくぞ」
「「「えぇ~っ!」」」
生徒達のブーイングを聞き流し、大馬は授業を開始する。
彼の発言が撤回されたのは、それから一時間後の事であった。