紙の上で生きる人。
大好きで大好きで大好きな人がいる。
でもその人と私が結ばれる可能性なんか
万が一にでも億が一にでもありえないことだ。
だって彼は、紙の上でしか生きていない人だから…………。
「かっこよく言ってるけど、ただ単にこじらせたオタクよね?」
「うるさいわ!!違うし!!私は本気で全くんが好きなの!!」
私の余りの剣幕にキョトンって顔をする真奈美。
可愛い顔してサラッと爆弾投げてくるのマジでやめてほしい。
冒頭からいきなり騒いですみませんでした。
私は 池辺 友里。18歳。
ある一部を除いて極々普通の女子高校生。
そのある一部とは。
私が本気で恋をしている相手が。紙の上で生きている人間。
っていうかぶっちゃけ漫画のキャラクターだっていうこと。
ただそれだけだ。
「友里ちゃんせっかく可愛いのにもったいないよ?」
「うるさいなぁ。いいの!私は全くんがいればそれだけでいいんだから。現実の男なんて眼中にないね。」
「あはは。痛ーい。」
「ほんとにうるさいよ!?」
こうやって毎日真奈美にからかわれているけど。
仕方ないでしょ。現実の男にときめいたりする前に。
漫画の中の全くんに。心をガッツリ奪われてしまったんだから。
はぁ〜あ。全くんが現実にいたらいいのになぁ…。
そんな不毛なことを思いながら、からかう真奈美を
無視して次の授業の用意を机の上に並べ始めた。