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魔雪が召喚された世界――モグボルーツは様々な地域で成り立っている。
獣人族が多く住む『マルガ』。
魔人族が多く住む『ボルガ』。
エルフ族が多く住む『エルガ』。
精霊族が多く住む『アルガ』。
そして、人種族が多く住む『ガルガ』。
大きく分けてこの5つだ。
更にそれぞれの地域には大きな国があり、その国がそれぞれの地域を取り仕切っている。
『マルガ』の首都は『ラグール』。
『ボルガ』の首都は『サーツマジ国』。
『エルガ』の首都は『フォレツ村』。
『アルガ』の首都は『精霊国』。
『ガルガ』の首都は――。
「『アルデェンテェ』です」
「……アルデンテ?」
「麺の固さではありません」
「えっと、この町はそのアルデェンテェの一つなの?」
「んー、一応、そうですね。ですが、ガルガはとても広いのでアルデェンテェはあまり他の町に関与しようとしませんね」
因みにこの町の名前は『カルテン』である。
「へぇ……やっぱり、色々な種族がいるんだね。でも、精霊って何?」
「そうですねぇ……なんて言ったらいいんでしょうか? 体を持たない種族とでも言えばいいのでしょうか?」
「体を持たない?」
「体が魔力で出来てるんですよ。まぁ、触ることは出来るのですが……先ほど言った5つの種族の中で最も魔法が得意な種族です。獣人族は魔法が使えない代わりに身体能力が高く、魔人族は獣人族には劣りますが、体も丈夫で魔法も使えます。エルフ族は長寿で魔法も精霊族の次に得意としています」
「なんか、それだけ聞くと精霊族が一番、強そうだね」
魔雪の言葉に対し、ルフィアは首を横に振った。
「精霊族は繁殖出来ないのです」
「繁殖?」
「ええ……エルフ族さえも繁殖力は低いですが、一応あります。ですが、精霊族は死んだら終わりなのです。だからこそ、凄まじい魔力を秘めているのです」
「なるほどねぇ……因みに、人種族は?」
「強みは数ですね。他の種族よりも繁殖力が高いです」
「物量で戦ってるってことね」
人種族は身体能力も平凡で、魔力もそこまで多くない。しかし、それすら凌駕してしまうほど繁殖力が高いのだ。人種族はその気になれば年に1度ずつ、子供を産めるが、次に繁殖力の高い獣人族でさえ、3年に1度、産まれればいい方だ。エルフ族など10年に1ど、産まれたら儲けものである。魔人族は獣人族とエルフ族の間ぐらいだ。
「だからこそ、人種族の住む地域であるガルガが一番、広いのです」
ガルガを中心とすると
北側にアルガ。
南側にボルガ。
東側にマルガ。
西側にエルガ。
この5つの地域の中で一番、広いのはルフィアが言ったようにガルガである。そのため、他の地域からガルガに移り住む種族が多く、正直、ガルガは多種国と言われている。それほど、ガルガには色々な種族がいるのだ。
「なるほど。だから、エルフ族のルフィアもガルガにいるんだね」
「そうです。ガルガに住み始めてすでに100年は経っていますよ」
「100年っ!?」
中学生にしか見えない子に『100歳を超えています』などと言われたら驚いてしまうのも無理はない。
「ガルガは土地が広いので勇者の支配下に落ちている街や村は多くありませんが、他の地域はほとんど勇者の支配下になっています」
「あの精霊族も?」
「精霊族は別です。彼らは鉄壁の結界を張っているので勇者はおろか、勇者ではない種族でさえもアルガに入ることは出来ないのです」
「鎖国してるんだね」
「国を閉じていても彼らは食事を必要としないので問題ありませんから……っとここです」
魔雪は冒険者ギルドに向かう途中、ルフィアにこの世界のことを聞いていたのだ。しかし、話に夢中になっている間に到着してしまったらしい。
「……さて、マユちゃん。ここでマユちゃんには冒険者になって貰います」
「冒険者?」
「はい、ガルガはもちろん、他の地域の至る所に魔獣と呼ばれる人に危害を与える存在がいるのです。それらを退治する役割をするのが冒険者と言います」
「それと俺の実力を調べるのに何の関係が?」
「冒険者になった時に発行されるギルドカードにはその持ち主の情報が出て来るのです。そこにマユちゃんが使えるスキルや魔法が出て来ます」
そう言ってルフィアはギルドに入って行く。魔雪も真っ黒なローブを引き摺って中に入った。
「うわぁ……」
ギルドの中は意外にも綺麗だった。魔雪の想像ではいかつい戦士たちがギラギラと目を光らせながらクエストを選んだり、倒した魔獣の素材を売っていたりしていたのだ。
「あれ? ルフィ、どうしたの?」
ルフィアが一つのカウンターに行くと受付の女の人が気軽に話しかける。受付の女の人は人種族のようだ。
「こんにちは、アル。実はこの子を冒険者にしようかと思ってね」
どうやら、ルフィアの知り合いらしく、彼女は笑顔のまま、挨拶を返し魔雪の背中を押して受付の女の人――アルに紹介した。
「この子はマユちゃん。昨日、知り合ったの」
「……勇崎 魔雪です」
『マユちゃん』ではなく、魔雪はきちんと本名で言い直す。
「あら、随分と可愛い子ね。大丈夫? ルフィに何かされなかった?」
ルフィアがロリコンで変態だと言うことはカルテンの人たちには当たり前のことだった。アルもそれを知っていたのでまず、魔雪の身を案じたのだ。
「……エエ、ダイジョウブデシタヨ?」
思わず、片言で返してしまう魔雪であった。
「ちょっと、ルフィ! この子に何したの!?」
「何もしてないよ!? 身ぐるみを剥いでパジャマを着て貰って抱っこしながら寝ただけだよ!?」
「十分犯罪じゃない!? マユちゃん! こんな子と一緒にいたら貴女の貞操が危ないわ! 私の家に来なさい!」
「そう言って、マユちゃんの貞操を奪う気でしょ?!」
「そ、そんなわけ……ない、じゃない。ちょっとお風呂で洗いっこするだけよ」
アルもロリコンだった。よく、ルフィアとアルが仕事をサボって小さな子供の話をしているのはこのギルドでも有名な話だった。それを知っている周りの人たちは魔雪に同情していた。
「……とりあえず、登録してください」
「「ッ……あ、はい!」」
魔雪の恐ろしく低い声にロリコン2人は背筋を伸ばして元気よく返事する。
(演技すれば、脅すのも簡単だな)
わざと低い声を出して見事に2人の暴走を止めた彼は嬉しくて微笑んでいたのだが慌てて登録の準備をしているルフィアとアルは気付くこともなかった。
「……おい、あの子。笑ってるぞ」
「ああ……あの変態共を自由に操ってるから優越感に浸ってんだろ?」
「なんて、恐ろしい子なんだ」
こんな会話がギルド内であったとなかったとか。
「えー、準備が出来ました。じゃあ、マユちゃん、ここにお名前書いて。書けるかな?」
「書けるよ」
アルから紙と羽ペンを引っ手繰ってサラサラと情報を書き込んでいく魔雪。
(……ん?)
書いている間にとあることに気付いた。
「あれ?」
「ん? どうしたの、マユちゃん」
一生懸命、字を書いている魔雪をニヤニヤしながら見ていたルフィアが問いかけて来る。
「……文字が書ける」
「え?」
「ルフィア、おかしいと思わないの? だって、俺は異世界から召喚されたんだよ? それなのに、紙に書いてることは読めるし、字も書けるの」
「……確かに、おかしいですね。でも、それはギルドカードで確認出来ると思います。きっと、何かのスキルだと思いますから」
「あー、スキルね……わかった。とりあえず、書いちゃうね」
気になるが、ギルドカードさえ発行されればわかることなのだ。それからすぐに魔雪は書き終わってアルに紙を渡す。
「はい、確かに……可愛らしい字……」
「早く仕事しろよ」
今度は口調も一緒に変えて注意する。
「あ、ごめんなさい!」
「……なんか、この時点ですでにマユちゃんに魔王の素質があると思うのですが」
「これは単なる演技だよ。本当はあまり怒ってないから気にしないで」
「ならっ!」
「でも、やりすぎたら本当に怒るから」
「……はい」
上げて落すのが魔雪クオリティー。
「はい、これで登録完了です。あ、ギルドカードを渡す前にギルドについて説明する?」
「お願いします」
「ギルドではA~Gまでランクがあり、GよりもF。FよりもE。EよりもD。このような感じでランクが高いの。Aの上にはS。更にその上はSS。そして、最も高いのがSSS。依頼をこなせばランクも自然と上がるわ。でも、依頼毎にランクが決まってて受けられるのは自分のランクと、その1個上のランクだけ。自分と同じランクの依頼を15回、もしくは1個上のランクを5回、連続で成功させたら次のランクに上がるの。ここまでいいかな?」
アルの問いかけに魔雪はただ頷くだけで答えた。
「あそこにある掲示板に依頼が貼ってあるわ。で、やりたい依頼があったらここまで持って来てね。剥ぎ取った素材は隣の買い取りカウンターの人に渡してね。説明はここまでだけど質問はあるかな?」
「ないよ」
「わかったわ。それじゃ、はい。これがマユちゃんのギルドカード」
そう言いながら真っ白なカードを差し出すアル。
「何も書いてないよ?」
「このカードに魔力を流せば情報が出て来るわ。あ、情報は自分にしか見えないから安心してね。もし失くしちゃってもここに来てくれれば再発行するから。まぁ、その時はお金、取るけどね」
「ん。了解」
魔雪は冒険者になり、ギルドカードを手に入れた。
変態が増えました。