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お久しぶりです。1年以上更新が止まって申し訳ありませんでした。
今回から前と同様、週1更新……と言いたいところですが不定期更新となります。気長に待っていただけたら幸いです。今後とも幼女魔王をよろしくお願いします。
魔雪を抱きしめたルフィアは狼の背中を叩く。その合図で狼は肉団子から離れ、人型になった。肉団子の対策を立てるので人型の方が相談しやすいのだ。
「……マユ、大丈夫?」
「うん、何とかね。それでどうする?」
魔雪の視線の先には魔雪たちに向かって転がって来る肉団子の姿があった。この広場はかなり広いので彼らに激突するまで数十秒ほどかかるだろう。
「メモにはミッションを達成させるとありましたが……」
ルフィアの言ったメモというのは数日前に猿耳の少年とぶつかった時に交換したものだ。そう、魔雪はラグールタワーの前で狼に向けて暗号を伝えていたのだ。
太陽孤児院を出る際、ルフィアたちに『ただ頭を使うのだけは確定だね。どうにかして中央広場にある『ラグールタワー』に行くから』と言い残した。この時に言った『頭を使う』は『難しい暗号にするからよく考えて』と言う意味ではなく、『言葉の頭を使う』というものだったのだ。魔雪が王宮に行った日から狼は魔獣型の姿で毎日、ラグールタワーに通っていた。そして、チャーリーを使った買い物を提案した魔雪は引率という形でラグールタワーに行き、狼の姿を見つけ、言葉を選んで子供たちと会話していたのだ。それを狼が記憶し、孤児院で待機していたルフィアに伝えたところ、すぐに魔雪の暗号に気付き、彼の指示を聞いて行動していた。行動といっても『明日、メモを渡す』という指示を聞いて猿耳の少年にルフィアが調べたことをまとめたメモを渡して魔雪にぶつかり、メモを交換して欲しいとお願いしたぐらいだが。その調べた内容も魔雪の情報よりも少なかったからか魔雪のメモを見た彼女は心底、落ち込んだと言う。
「一応、ミッションの内容はわかったんだけど他にも条件があるみたい」
「因みにそのミッションの内容って?」
「……女の子に好きって言われること」
「「……」」
数秒ほど硬直したルフィアと狼だったが、肉団子が近づいて来たため、もう一度魔獣型になった狼に乗り、回避する。因みにそのどさくさに紛れて前に座った魔雪の胸をルフィアが触り、吹き飛ばない程度の威力で殴られた。
「ルフィ、今はふざけてる場合じゃないよ?」
「だ、だって……久しぶりのマユちゃんですよ!? 無意識の内に手が動いちゃうんです!」
「いや、知らんよ」
鼻息を荒くするルフィアに魔雪と狼はため息を吐く。しかし、すぐに狼が右に跳んだ。その刹那、魔雪たちの横を肉団子が通り過ぎた。
「なんかあの肉の塊、早くなってません!?」
「学習するんだよ! 多分、回避された後、すぐに方向転換したんだ!」
その証拠に通り過ぎた肉団子はすでに魔雪たちの方へ向かって来ている。狼はそれを見て肉団子から離れるために走り出した。
「ルフィ、俺の首に付いてるチョーカーって外せる?」
狼が逃げている間に首のチョーカーをどうにかしたい魔雪はルフィアに相談する。闇魔法を使えるようになれば戦術も自然と増えるからだ。それが通用するかどうかは別として。
「このチョーカー……っ!? なんで魔封じのエンチャントがされてるんですか!? 完全に拘束具じゃないですか!」
「勇者の信用を得るために付けるしかなかったんだよ」
「勇者……くっ。なんて、うらやま――いえ、非道なことを!」
「非道なのはお前だよ」
ヒデも申し訳なさそうに頼んで来たので本当は付けたくなかったのだろう。それに比べて超弩級変態エルフは悔しそうに拳を握っている。どちらが非道と言われれば変態に軍配が上がるのも当たり前だった。
だが、そんな彼女の表情を見た魔雪は目を細めた後、口を開く。
「……ルフィ、結構辛かった?」
「……はい。ものすごく辛かったです」
ルフィアは自他ともに認める変態だが、真面目な時は真面目になる。しかし、今の彼女は完全に暴走していた。原因は『魔雪にずっと会えなかった』からと言う何とも子供っぽいもの。その証拠に魔雪を後ろから抱えるルフィアの体は微かに震えていた。出会ってまだ数か月しか経っていないが、ルフィアの様子がいつもと違うことに彼はすぐに気付いたのだ。なお、彼女の震えは寂しさから来るものではなく彼女のなけなしの理性が必死に暴走を抑えているせいである。
(このままじゃふざけてる時に攻撃されそうだな……しょうがない)
「この戦いが終わったら好きにしていいから真面目になろっか」
「……好きに、ですか?」
ぐるりと魔雪の体を回転させて正面から顔を覗き込みながらルフィアが問いかける。その目は完全に据わっていた。彼の背中に悪寒が走る。しかし、ここで嘘だと言えば彼女は更に暴走してしまうかもしれない。魔雪の選択肢に『YES』以外の項目は存在していなかった。
「う、うん……」
「後から『うっそぴょーんぴょん!』とか可愛らしく言っても駄目ですよ?」
「言わないよ」
「じゃあ、この契約書にサインしてください。『言わないぴょん』って約束、してください」
そう言いながら時空魔法を使って契約書を取り出すルフィア。カルテンのギルドマスターが『念のために』とルフィアに持たせたものである。この契約書に約束事を書いてサインをするとギルドマスターが施す契約と同じ効果が発揮するのだ。もちろん、使用する為にはギルドマスターの許可が必要なのだが契約書を発行した時点で許可は下りている。そもそも許可しなければ契約書そのものを発行できない。それほどギルドマスターは魔雪の身を案じていたのだろう。まさか彼女もこんなことに使われるとは思わないだろうが。
「これってギルドマスターがくれたやつ?」
「はい、そうです。あとはマユちゃんがサインするだけです。さぁ、サインを」
契約書とペンを渡すルフィアを見てそっとため息を吐いた彼は黙って受け取り、契約書の内容を確認する。そこには『ルフィアに1回だけ何でも言うことを聞く権利を与える』と書かれていた。だが、その文字はわずかに擦れている。どうやら、随分前からこの契約書を用意していたらしい。おそらくご褒美としてこの契約書にサインして貰おうと事前に用意していたのだろう。“1回だけ”と定義することでハードルを下げる徹底ぶり。
それを読み、『まぁ、一回だけなら』と自分に言い聞かせて魔雪は自分の契約書に書いた。カルテンでも念のために魔雪もカルテンの住人と同じ契約をギルドマスターと結んだので危険性はないと知っている、というのもあるだろう。
「……どうぞ」
「はい、確かに。えー、それでは……ルフィア――頑張っちゃいますよおおおおおおお!」
契約書を大切に収納した彼女は鼻息を荒くしながらチョーカーを外す作業に入った。興奮する彼女を見て冷や汗を掻く魔雪だったが、逃げるように思考の海にダイブする。
(勇者のスキルはミッションをクリアさせない枷だとして……ヒデのスキルはなんだ? あの肉団子と関係があるのか?)
ヒデが暴走したのは魔雪が魔王だと知ったからだ。だが、ヒデのミッションは『女の子に好きと言われること』。魔王と関係がないように思える。
そこまで考えた魔雪は必死に肉団子から逃げる狼の背中を撫でながら後ろを振り返る。そこには血走った眼で両手にドライバーのような工具を持って作業するルフィアとその背後に迫る肉団子。魔雪が魔王だとばれるまで心優しかった。メイドたちとも仲が良く全員が笑顔を浮かべていた。子供たちから『大好き』と言われ――。
「……」
そこで気付く。肉の勇者のミッションは『女の子に好きと言われること』。それ自体が間違いである可能性があることに。そもそもまだ謎が多い時点で決めつけるのは危険だ。もう一度最初から考え直そう。
(待ってろよ、ヒデ)
転がり続ける肉団子から視線を外した魔雪は気分転換の意味も込めて空を見上げる。そこには満点の星空が広がっていた。




