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幼女魔王の演武演劇  作者: ホッシー@VTuber
第2章 幼女魔王の召使黒狼
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少し遅れました……。

来週の更新ですが、卒研発表があるのでもしかしたら出来ないかもしれません。

ご了承ください。

 カリカリと部屋にペンの走る音が響く。

「んー……」

 しかし、それも長くは続かない。魔雪はため息を吐きながらペンを机に置いて伸びをした。長時間同じ姿勢のままだったため、体を解したのだ。気分転換の意味も込めて紅茶を飲もうと思い、部屋に置いておいたポットのスイッチを入れる。チョーカーのせいで魔法は使えないが、魔道具には魔石が内蔵されているので魔法が使えない人でも扱えるのだ。

(どうすっかなー)

 ポット内の水が温まるのを待ちながら彼はもう一度、思考を巡らせる。もちろん、ヒデのことだ。ヒデが魔雪の動きに気付いているのと同じように魔雪もヒデが勘付いていることに気付いていた。だからこそ、悩んでいるのだ。十中八九、ヒデは魔雪の正体が魔王であるとわかっている。そのため、ヒデがいつ動いてもおかしくなかった。勇者と魔王は相いれない存在。親友になったとしても襲って来る可能性は十分ある。ヒデのミッションが『魔王を倒すこと』だった場合、必ず襲って来るだろう。

「はぁ……」

 正直言って魔雪1人で勇者を倒せるとは思えない。魔王は魔王でも魔雪は新米魔王なのだ。確かに魔雪には才能がある。ただでさえコントロールの難しい闇魔法を無詠唱で扱い、今まで培って来た演技力を駆使して戦う『演武演劇』。しかし、これらはただの手札に過ぎない。向こうは常にジョーカーを持っているのだ。どんなに良い手札でもジョーカーを使われたらそこで全てが水の泡となる。

「……ジョーカー?」

 勇者の理不尽さを噛み締めていた時、ふと魔雪は思い付いた。

「そうか……これなら行けるかも」

 そのためにはまず、情報が必要だ。これが上手く行けばあの勇者でも簡単に倒すことができる。希望が見えて来た。

 思考回路を再び巡らせながらポットを操作する魔雪。その頬は楽しそうに緩んでいた。








 次の日、買い物から帰って来た彼は情報収集のために王宮内を歩いていた。もちろん、ただ歩いているわけではない。

「あ、すみません。少々よろしいでしょうか?」

 見かけたメイド全員に聞き込みをしているのだ。掃除道具を片づけようとしていたサル耳の大人メイドに話しかけると彼女は首を傾げながら視線で先を促した。無口な人らしい。

「貴女はここに来てどれほどになりますか?」

「……2年ほど、です」

「ふむ……因みに貴女がここに来る前はどちらに?」

「……田舎に、住んでいました。弟と2人暮らし、でした」

「弟?」

 その時、数日前に街でぶつかったサル耳の男の子のことを思い出した魔雪。そのことを伝えるとサル耳の大人メイドは見るからに狼狽した。

「……2人暮らしだったから、孤児院に預けました。でも……元気そうでよかった、です」

「そうですか。もしかしたらまた街でお会いするかもしれません。伝えたいことがあればお伝えしますが?」

「……いえ、お気持ちだけで。弟も私のことなんて、もう忘れているでしょうし」

「そんなことありません」

 少しだけ寂しそうに言った彼女に魔雪ははっきりと断言してみせた。

「私にも妹がいます。今、離れて暮らしていますが一度も妹のことを忘れたことなどありません。きっと……妹も私のことを探しているでしょう。あの子は私のことが大好きなおに――いえ、お姉ちゃんっ子でしたから。貴女は弟さんのこと、好きですか?」

「……はい。私も、忘れたことなど、ありません」

「それと同じです。弟さんも貴女の無事を祈りながら日々を懸命に生きていることでしょう。だから、希望を捨てずに貴女も日々を懸命に生きてください。弟さんの見本となるように」

「……はい!」

 サル耳の大人メイドは笑顔を浮かべて頷く。それを見て満足したのか魔雪は一つ頷いた後、その場を後にした。

(あ……まだ聞きたいことあったのに。まぁ、いっか)

 彼の聞き込みはまだ終わらない。








「――ありがとうございました」

「いえ! メイド長のお力になれたのならば本望です!」

 鹿耳の大人メイドに頭を下げてお礼を言った魔雪は集めた情報をまとめるために自室に戻って来た。

「なるほど、ねぇ」

 余った紙に情報を書き込んだ後、誰にともなく呟く。

 魔雪が聞いたのはヒデがこれまでして来たことだ。まぁ、して来たことと言っても噂話の域を越えられないため、信憑性の低い情報もあった。そんな曖昧な情報の中で確実なものもいくつかある。それは“メイド”についてだ。

 メイドたちの話を整理すると三つのことがわかった。

 まず一つが集めたメイドの傾向。初めの頃はかなり無作為にメイドを集めていたらしい。貴族の娘を呼んだかと思えば、その辺で遊んでいた娘を呼んだりしたらしい。なので、その頃の人々はいつ自分の娘が勇者の目に留まって連れて行かれるか恐怖していたらしい。だが、最近では子供を中心に集めるようになったそうだ。しかも、あまり裕福ではない家の子を集めているらしい。

 二つ目はメイドに対する態度。今では紳士的にメイドと接しているが最初はあまり友好的ではなかったようだ。セクハラまがいのこともしていたと聞く。今のヒデとは大違いだ。

 最後はメイドの待遇。正直言って初めの頃はメイドの待遇は恐ろしく悪かった。まず、給料はなし。住み込みでタダ働きを強いられていた。まぁ、さすがに食事は出て来たそうだが、当時は今と比べてメイドの数も少なかったから倒れてしまうメイドもいた。しかし、今はメイドの数も増えたし、何より給料が貰える。実家に送ることも可。かなり待遇が良くなったのだ。

(んー……ヒデのメイドに対する考え方が変わったからか。それとも別のことが原因か)

 魔雪は紅茶を啜りながら推理する。ヒデの中で何かしらの変化があったのならば良い話で終わるのだが、そうではないとすぐに否定する魔雪。他の勇者は知らないが鎧の勇者も肉の勇者も日本に帰りたいと思っていた。だから、鎧の勇者はエルガの国王と手を組んで強者を呼ぼうとした。なら、ヒデも同じ。何か理由があるのだ。何か。

「……」

 腕を組んで考えていた魔雪はゆっくりと立ち上がり、窓を開けた。部屋に充満していた紅茶の香りが外へ逃げていく。

「しょうがないか」

 まだ、結論は出ていない。もうちょっとで答えが出るのだが、決定的な何かが足りない。しかし、もう情報を得られない。いや、違う。魔雪が集められる情報はほとんど集めてしまったのだ。残る情報源は一つ――いや、一人しかいない。

(勝負は明日だな)

 ヒデに気付かれているから悠長なことをしていられない。だから、全ては明日。明日で全てが終わる。

 魔雪は窓を閉めて小さなメモを机の中から取り出し、ペンを走らせた。


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