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幼女魔王の演武演劇  作者: ホッシー@VTuber
第2章 幼女魔王の召使黒狼
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 甘い香りが漂う午後。紅茶のカップを置き、そっとため息を吐いた魔雪は椅子の背もたれに背中を預けて周囲を見渡した。そこには完全に修復された図書館があった。ボロボロだった机や椅子、梯子付きの本棚は全て魔雪の手によって作り直されている。本もきちんとジャンル別に分けて仕舞った。埃まみれだった床や壁も綺麗に掃除されて今の図書館は窓から注ぐ日光も含めて絵画のような光景を作り出していてとても美しい。これぞ、ビフォーアフター。匠のなせる業だ。なお、修復するのにかかった時間はたったの1週間である。

 ルフィアたちと離れ離れになってすでに2週間以上経っていた。まだ連絡は取れていない。魔雪本人は焦る必要はないと判断し、今のようにゆっくりと紅茶を楽しんでいるのだが、ルフィアは今も魔雪からの連絡を待ち、そわそわしている。孤児院の幼女を抱き締めながら。ルフィアはどこまでいってもルフィアなのである。

(いいな、こういうの)

 超弩級変態エルフの気持ちなど全く気にしていない彼は幻想的な雰囲気に包まれている図書館で微笑む。たった独りでここまで修復したのだ。達成感を噛み締めているのだろう。因みに基本、図書館は飲食禁止だが本を片手に紅茶を飲んでいるわけでもないので今日だけ特別である。

「……さてと」

 十分、休憩したのでそろそろ本題に入ろう。そう考えて扉付近で待機していたメイド(魔雪に何かあった時のために常に誰か待機している)に紅茶セットを渡した。

「メイド長、いいですか? 無茶はいけませんからね」

「わかっています。私がいつ無茶したと言うのです?」

「2日前の『本棚ドミノ倒し事件』をなかったことにするおつもりですか?」

「……気を付けます」

 『本棚ドミノ倒し事件』とはその言葉通り、作り終えた本棚を運んで元の場所に設置していた時に運んでいた本棚が隣の設置し終えた本棚にぶつかり、倒れてしまった。その後、倒れた本棚が隣の本棚にぶつかってまさにドミノ倒しのように全ての本棚が倒れてしまった事件である。そんな事件があったのにも関わらず、全ての本棚が無傷だった。さすがに作り直すのは面倒だったので頑丈に作ってよかったと安堵のため息を吐く魔雪を見てメイドたちはもう放っておいたら何が起こるかわからないと話し合い、扉の外ではなく中で待機するようになった。

 メイドに釘を刺された魔雪は肩を落として目的の本を探す。探すのはもちろん、勇者や魔王に関する本だ。ルフィアや鎧の勇者から話は聞いているが人伝ではその人の解釈や感情などが混ざって信憑性に欠ける。ルフィアや鎧の勇者を信頼していないわけではない。ただ彼女たちの話の信憑性を高めたいだけ。そして、彼女たちも知らない情報を仕入れるのだ。元々、魔雪が勇者に付いて来たのは孤児院の子供たちを守るためもそうだが、勇者に関する情報を少しでも得るためでもある。まぁ、その勇者と仲良くなったせいでヒデの弱点を探れなくなってしまったのだが。

「魔王……勇者……」

 本を仕舞う時、あえて本を読まなかった。片づけている途中で見つけた漫画を何となく開いてそのまま全巻読破してしまうあの現象を防いだのだ。そのせいで一から探す羽目になるが、本を探すのも図書館で調べ物をする時の醍醐味である。少なくとも魔雪はそれが好きだった。目的の本を探している途中で思いがけない出会い(本)を見つけられる可能性があるからだ。

「……あった」

 まず、彼が見つけたのはルフィアから聞いた勇者伝説が記された物語である。本棚からその本を抜き取りその場で開く。


 この世界は魔王に支配されそうになっていた。

 魔王は魔獣を操り人々を襲った。

 更に力を求めた人には名前と力を与えて眷属にした。

 これが後の魔人族と呼ばれる存在である。

 人々は魔王の悪行をただ見ているしかなかった。

 魔王はそれほど強大な力を持っていた。

 そんな日々が続いていたがある日、とある魔術師が一つの魔法を完成させた。

 召喚魔法――異世界の人を召喚する方法である。そう、勇者だ。

 しかし、この魔法は一種の賭けだった。

 異世界から人を召喚することは可能だが、世界を選ぶことはできなかったのだ。つまり、召喚された人がこの世界――モグボルーツに来て強くなるのか、弱くなるのか。はたまた異世界で暮らしていた時と変わらずに一般人並みの力しか得られないのかわからなかったのである。

 結果的には人々はこの賭けに勝った。召喚された人――勇者はモグボルーツに住む人々よりも遥かに強い力を持って召喚されたのである。

 勇者は魔王を倒すために旅に出た。だが、魔王の住処がわからなかった。そのため、まずは各地を回り魔王の情報を得ようとした。

 それを黙って見ている魔王ではない。

 魔王は配下を勇者に嗾け、滅ぼそうとしたのだ。

 力を持っていた勇者だったが何度も襲って来る魔王の配下に悪戦苦闘していた。それほど魔王の配下が強かったのである。

 しかし、勇者は旅の途中で得た仲間がいた。

 今までの経験を活かし幾度となく勇者たちを助けた人種族の老人。

 鍛え抜かれた肉体で敵を薙ぎ倒した獣人族の戦士。

 凄まじい魔力量を持ち全属性の魔法を使えたエルフ族の魔術師。

 魔王の配下に虐待され命からがら逃げて来たがその秘めたる固有スキルで勇者たちを手助けした魔人族の子供。

 そんな仲間たちと共に配下を討ち取り、魔王の情報を集めて行った。

 集めた情報から魔王の住処はなんと精霊が住むという幻の土地だった。

 その土地はどうやっても辿り着くことのできない不思議な場所だった。見えるのにいくら歩いても辿り着くことができないのだ。

 情報が正しいのか勇者たちが検証した結果、やはりいくら歩いても辿り着くことはできなかった。

 何か仕掛けがあるのと踏んだ勇者はまた旅に出て幻の土地へ入る方法を探した。

 その途中で出会ったのが精霊だった。

 幻の土地にしかいないとされる精霊と出会った勇者はその精霊から幻の土地に入る方法を聞き、魔王の住む城へとたどり着いた。

 その城には魔王の配下が星の数ほどいたが精霊の力を借りた勇者の前では石ころ同然だった。

 そして、勇者たちと魔王の死闘が始まった。

 まず、倒れたのは人種族の老人だった。長い間、旅を続けて来たせいでもう体がボロボロだったのだ。

 その次はエルフ族の魔術師。魔王と魔法を撃ち合っていたのだが、隙を突かれて倒されてしまった。その後を追うように魔人族の子供も息絶えた。

 勇者と獣人族の戦士だけは最後まで立っていたのだが、魔王の不意打ちを受けそうになった勇者を戦士が庇った。

 戦士の犠牲を無駄にしまいと勇者は最後の力を振り絞って魔王を討ち取り、モグボルーツに平和が訪れた。

 だが、本当の地獄はここからだった。

 国へ帰った勇者に待っていたのは元の世界に帰られないと言うあまりにも無情な現実だった。

 その時から勇者の何かが変わってしまった。

 優しい心を持っていた勇者はいつの間にか姿を消した。世界中の人々が勇者を探したが最後まで見つかることはなかった。

 それから勇者と名乗る者たちが次々と現れ、魔王がいた頃と同じように悪事を働き始めたのだ。

 今やこのモグボルーツは勇者に支配され、どうすることも出来ず耐える日々が続いている。


 パタン、と本を閉じて本棚に本を仕舞った。

(ルフィの話はだいたい合ってたか……後、初代勇者が黒幕ってのも十分あり得る。でも、それ以上の情報がないか)

 他にも気になる点はいくつかあった。まず、情報の密度の差が激しかったことだ。勇者の仲間を例えるならば、魔人族以外の人たちはきちんと得意分野が書いていたのにも関わらず、魔人族の子供だけ『固有スキル』としか書いていなかった。更に勇者がどうして魔王を倒そうと思ったのか。幻の土地への入り方なども載っていない。隠蔽工作をされているとしか思えなかった。

(そのおかげで何となく掴めて来たけどね)

「メイド長、そろそろ晩御飯のお時間です」

 腕組みをして考え事をしていた魔雪にいつの間にか近くにいたメイドが話しかける。チラリと窓の外を見るとすでに夕方だった。

「わかりました。では、行きましょう」

 もう少し調べ物をしたかったがまだ時間はある。それに何となくだが、他の本にもこの本と似たり寄ったりな情報しか載っていないような気がした。勇者と魔王に関する情報と言えば先ほど読んだような物語しかないからである。

 後ろにメイドを携えて図書館を後にする魔雪。

「……」

 その姿を見ている存在があったことに気付かずに。


何が掴めたのかはまた後日。

……章を挟んでいつかわかると思います。

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