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幼女魔王の演武演劇  作者: ホッシー@VTuber
第2章 幼女魔王の召使黒狼
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せ、セーフセーフ!

「はぁ……図書館ですか?」

「ぬふふー、きっと気に入ると思うよー。なんせこの国一番の大きさだからね」

 魔雪がメイド長になってすでに数日経った頃、朝食を食べていたヒデが唐突に図書館の話をした。まだ王宮の全てを把握していない彼は図書館の存在を知らず、首を傾げたが。

「そうですね。私のスキルがあればどんなに古い本でも読めますし」

「本当にそのスキル欲しかったわー。ここに来た頃、言葉が通じなくて大変だったから」

 魔雪の持つ『言語変換』はかなりレアなスキルだった。勇者と言えど『言語変換』のスキルを持っていない者がほとんどでモグボルーツに来てから必死になって言葉を覚えたのだ。今では思い出になっているのかヒデは苦笑している。

「とにかく、わかりました。今夜にでも行ってみます」

「うん、夜更かししないようにねー……そう言えば他のメイドから聞いたんだけどさ。寝る時もメイド服なんだって?」

「はい、何着か頂いたのでそれを着回ししています」

「何で……パジャマじゃないの? 確か渡したはずだけど」

 そう、実は王宮に来た日に寝間着として兎さんパジャマ(フード部分がウサ耳)が配給されていた。魔雪も初日はそれを着て寝ようとした。

「あの兎さんパジャマですが……着た瞬間、兎の演技をしてしまって部屋がぐちゃぐちゃになってしまったのです」

「……ぴょんぴょんはねたの?」

「……ええ、恥ずかしながら。フードを被ったのが間違いでした」

 因みに騒ぎの途中でフードが脱げて正気に戻った。日本にいた頃ならこんなこと起きなかったはずだが、モグボルーツに来て魔雪の演技はスキルになってしまった。そのせいで魔雪本人でもコントロールできない時がある。それが兎さんパジャマだった。現在、兎さんパジャマは部屋のクローゼットの中で魔雪の体を乗っ取る時を密かに待っている。別に兎さんパジャマに意識があるわけではないが、魔雪にとってあれは魔獣以上に恐ろしい存在になっていた。

「魔雪ってなんか面倒な癖持ってるよね」

「言わないでください。それはもう初日に思ったのですから」

「ぬふふー、無地のパジャマ用意するねー」

「あ、いえ……無地だと妙な雰囲気になってしまいますのでこのままでいいです」

 少しだけ顔を赤くしながら断る。その様子を見て首を傾げるヒデ。

「妙な雰囲気?」

「だから、その……艶めかしい雰囲気になってしまうのです。昔読んだ漫画の中にそう言ったエッチな物がありまして……」

「お、おう……なかなか生々しかった」

「初めてそのような本を読んだので印象深くて……男の頃はよかったのですが今は女の体なので勝手にそのような演技を」

「幼女が無地のパジャマを着てエッチな雰囲気を醸し出しつつ這い寄って来る……それなんてエロゲ?」

 演技は便利なスキルだがそれなりの悩みもあるんだな、とヒデは魔雪の疲れ切った顔を見ながら思った。






 ヒデから図書館の話を聞いた夜、水玉模様のパジャマを着た魔雪は懐中電灯のような魔道具を持って廊下を歩いていた。チョーカーで魔法を封じられているが魔力そのものは動かせるので簡単な魔道具なら扱える。あまりにも魔力を消費する魔道具の場合はチョーカーが邪魔して使えないが。

「えっと……ここかな?」

 メイド服ではないのでいつもの幼女の演技をしながら大きな扉の前で立ち止まる。その扉の横に『王宮図書館』とモグボルーツの言葉で書かれていた。すでにメイドたちは自室に戻って各々の時間を過ごしているため、王宮内はとても静かである。照明の類も設置されていない。

(ホラー映画みたいなシチュエーションだな)

 そんなことを思いながら魔王特有の怪力で大きな扉を開ける。その瞬間、中から大量の埃が廊下へ溢れた。ヒデがこの王宮を支配してからこの図書館はあまり使われていなかったので誰も掃除しなかったのだ。そもそもこの図書館の存在を知っているメイドはいない。魔雪がメイドの中で初めての利用者だった。

「げほっ……すごい埃……」

 咳き込みながらあらかじめ用意していたマスクを装着して(埃っぽいだろうと予測していた)中に入る。

 図書館の中はとても暗かった。普段なら夜間に人が図書館の扉を開けたら勝手に点くのだが魔力が充填されていないため点かなかったのだ。そんな装置があることを知らない魔雪は懐中電灯をあえて消した。光源は後ろの扉から漏れる月明かりのみ。しかし、その微かな光でさえ、今の魔雪には邪魔だった。すぐに扉を閉める。図書館内は暗闇に包まれた。

「これでよし」

 だが、魔雪は暗闇の中で頷いて迷いもなく歩き始める。実は魔雪には暗視能力があった。目に魔力を流すと暗闇の中でも見えるようになるのだ。いつもなら闇魔法で探索するのだが、チョーカーのせいで使えないため、暗視能力を使った。まぁ、闇魔法より魔力消費が激しいのであまり使わないのだが、今は大いに役に立っている。少しだけ得した気分になった彼は鼻歌を歌いながら図書館の探索を続ける。

「それにしても」

 ある程度探索し終えたのだが、改めて図書館の大きさに圧倒された。本の数もそうだが、本棚の巨大さが異常だった。魔雪の身長の何倍もの高さがあるのだ。一番上の本を取るためにはとてつもなく長い梯子が必要だろう。そう思いながら周囲を見渡すと本棚そのものに梯子が取り付けられていて、横にスライドできるようになっていた。あれを使って目的の本を手に入れるのだろう。納得しながら梯子に近づき、動かそうと力を込めた瞬間、乾いた音を立てながら折れた。

「……」

 粉々になった梯子の残骸を無言のまま、ぽいっと捨ててなかったことにし、別の本棚へ移動する。同じように梯子をへし折ってそっと溜息を吐いた。あまりにも老朽化が進んでいるのだ。これでは本棚もいつ崩れるかわからない。早急に対処しなければならないだろう。

(どうすっかな)

 正直言ってこの図書館は利用したい。魔雪はモグボルーツに来たばかりの新参者だ。ルフィアからモグボルーツの歴史は何度か聞いたのだが、やはり自分の目で確かめたい。それにここには古い本もあるため、ルフィアすら知らないこともわかるかもしれないのだ。情報は持っているだけで武器になる。魔雪にとって今最も必要なのは知識だった。図書館に来て気付いたのだが。魔雪は勇者や魔王について知らな過ぎる。このまま放っておくわけにもいかない。だからこそ、この図書館を使えるようにしなければならないのだ。

「まずは掃除……後、本棚の修理に、図書館そのものの機能も確認しないと」

 口に出して今後の予定を確認しながら図書館を歩き、頭のメモに図書館の様子を書き込む。行動する前に状況を確認した方が動きやすくなるためである。状況を確認した後は対処方法の確立と必要な資材のリスト作成。そして、人員の確保。

(メイドたちに頼むのはちょっと危ないかな。チョーカーさえなければ魔法を使って何とかなったかもしれないけど……今は普通の女の子だし)

 獣人族の特性――身体能力の高さを考慮せずにメイドへの協力要請をやめた。確かに獣人族は高い身体能力を持つが魔王である魔雪の前では霞んでしまう。人種族も獣人族も魔雪にとっては壊れやすい軟弱な種族なのだ。

(ヒデもあの巨体じゃここで動き辛いだろうし……よし)

「1人でやろう。暇だし」

 こうして、図書館大改造計画が始動された。メイド長になったせいで仕事をしようにも大人メイドに掻っ攫われ、子供メイドの面倒をみようにも最近、子供メイドも仕事をしているから面倒を見る必要がない。幼女魔王メイドは王宮で最も暇なメイドだった。あれこれ理由を付けたが結局、魔雪の暇潰しのためである。


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