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幼女魔王の演武演劇  作者: ホッシー@VTuber
第2章 幼女魔王の召使黒狼
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「マリーさん、お掃除終わりました」

「……」

「マリーさん?」

 マリーは目の前に広がった光景を見て自分の目を疑った。今日から新しくヒデのメイドとなった幼女メイド――魔雪の力を確かめるために普段使われていない部屋の掃除を頼んだのだが、ほんの数十分で隅々までピカピカにしてしまったのだ。

「マユキ……貴女、本当に幼女?」

「はい、幼女メイドです」

 くすりと意味深な笑みを浮かべながら答える魔雪。完全に楽しんでいる。おそらくミステリアスなメイドの演技でもしているのだろう。

「マリーさん、次は何をすればいいのでしょうか?」

「そ、そうね……じゃあ、次は――」

 それからいくつかの仕事を指示したが、魔雪は涼しい顔で全てを終わらせた。しかも、マリーですら出せないほどのタイムで。最初は顔を引き攣らせていた兎メイドも途中から呆れに変わって最終的には『もうこの子1人でいいんじゃないかな』と現実逃避気味に笑っていた。

「あら?」

 次の仕事をするために移動していると不意に魔雪が歩みを止める。

「次はお皿洗いでも……って、マユキ?」

 魔雪はマリーの隣ではなく後ろを歩いていた(まるで、主人に仕えるメイドのように)ので魔雪が止まったことに気付かなかったのか慌てて振り返るマリー。

「マリーさん、あの子たちは?」

 そう問いかける魔雪の視線の先には王宮内に作られた公園(おそらく王族の子供が遊べるように作られた)でメイド服を着て遊んでいる魔雪よりも幼い女の子たち。獣人族のようで犬耳や猫耳、熊耳の子など様々な獣耳をピコピコ動かしながら楽しそうに遊んでいた。

「ああ、あの子たちはまだ仕事が出来ない子たちよ。勇者様、気に入った子だったらどんなに幼くても連れて来ちゃうから。一応、建前としてはメイドだけど仕事は私たち大人で何とかなってるから幼いメイドは結構、自由なのよ……マユキは幼いのに私より完璧に仕事してるけど」

「ふふ、ありがたいお言葉です。そうですね……では、私も年相応のお遊びでもしましょうか」

 笑いながら公園へと魔雪が向かう。まさか遊ぶと言い出すとは思わず、少しだけ驚きながらマリーもその後を追った。獣人族特有の気配察知(獣人族の子供は外敵からすぐに逃げるために気配を察知する能力が高い)で子どもたちは向かって来る魔雪を観察し始める。

「皆さん、こんにちは。私は魔雪って言います。今日からここで仕えることになりました。どうかよろしくお願いします」

 子供にしては丁寧すぎる挨拶をする魔雪に対して子供たちは困惑の視線を向ける。無理もない。ここまで丁寧な挨拶をされたことがないからだ。

「おねえちゃんもめいどさんになったの?」

 そんな子供たちの中で唯一、驚かなかったのが犬耳の女の子だった。この子は裕福な家庭の産まれで普段から魔雪がしたような挨拶をされていた。そのため、犬耳の女の子は警戒する事もなく魔雪に質問することができたのだ。

「ええ、そうですよ。私も皆さんの……お友達です」

 危うく『仕事仲間』と言いそうになって魔雪はすぐに言葉を変えた。目の前にいる子供たちはメイドの自覚がほとんどない。自分たちはメイドだと思っているかもしれないがそれはごっこ遊びのようなものだ。そんな子たちに対して『仕事仲間』より『お友達』と言った方が受け入れやすい。そう判断した結果だった。

「じゃあ、おねえちゃんもいっしょにあそぼ!」

 その判断は正しかったようで魔雪の手を握って犬耳の女の子が満面の笑みを浮かべた。

「はい、私も皆さんと遊びたいです。一緒に遊んでくれますか?」

 犬耳の女の子の言葉に頷いた後、少しだけ不安そうに子供たちへ問いかける。その姿は勇気を出して他の子たちに話しかけている人見知りの子供のようだった。

≪いいよー!!≫

 犬耳の女の子が魔雪に懐いたことも手伝ったのかすでに他の子は魔雪を受け入れていた。

「皆さん、ありがとうございます。では、マリーさん、私も遊んで来ますね」

「……マユキ、それ遊ぶって言わないと思うわ。完全に御守りよ」

 マリーは魔雪の考えを読んでいた。この公園は広い上、遊具もいくつか存在している。しかし、どこにも大人がいなかったのだ。その原因はもちろん、メイドの仕事である。ここは王宮内で外敵に怯えることない。だが、獣人族とは言え、まだ子供だ。遊具から落ちたり、喧嘩して怪我をしてしまうこともありえる。それを危惧して魔雪は自ら子供たちの御守りを買って出たのだ。

「ふふ、私、子供が好きなのではしゃいじゃうかもしれません。その時は私の御守り、お願いしますね」

 実際、魔雪は子供好きだった。たまに公園に行き、そこで遊んでいる子供たちを巻き込んで即興劇をすることだって多々あった。彼は近所でもかなり有名な人(演劇の天才や子供と遊ぶ天才として)だったので親御さんたちも安心して魔雪に子供たちを任せることができたのだ。

「子供が好きな子供に御守りが必要だとは思わないけど……でも、本当に助かるわ。前から子供たちが心配だったの」

「私に任せてください。これでもご近所から『演技のお兄ちゃん』として慕われていたので」

「へぇ、そうなん……ん? お兄ちゃん?」

 マリーが首を傾げたのを見てまた意味深な笑みを浮かべる幼女メイド。それを見て兎メイドは考えるのを止めた。どうせ考えても答えなど出るわけがないのだから。

「おねえちゃん! はやく!」

 マリーと会話していたが飽きてしまったのか犬耳の女の子は少しだけ頬を膨らませて魔雪の腕を引っ張った。通常の人種族なら脱臼するほども力で。

「今行きますよ。ですが、もう少し手加減を覚えましょう。私でなかったら肩が外れていました」

 しかし、魔雪は魔王である。体は獣人族よりも丈夫だった。

「かたがはずれるってなに?」

「肩が痛い痛いって泣いちゃうことですよ」

「ええ!? かたないちゃうの!?」

「はい、人種族は皆さんよりも体が丈夫……弱虫さんなので優しくしてあげましょうね」

≪はーい!≫

 獣人族の子供たちが一斉に手を挙げるのを見てマリーは幼稚園みたいだと思った。もちろん、魔雪が園長である。

(本当に不思議な子……)

 子供たちに囲まれて何をして遊ぶか話し合っている魔雪を見てそっと微笑むマリー。幼女なのに自分よりも仕事が出来て、警戒心が高いことで有名な獣人族の子供たちに会って数分で懐かれ、時々意味深な笑みを浮かべる幼女メイド。でも、不思議と仲良くなれそうな気がした。今日は他に仕事もないので最後まで見て行こうと彼女は公園の隅に移動し、魔雪たちを見守る。

「皆さん、鬼ごっこって知っていますか?」

「なにそれ?」

「わかりやすく言いますと魔獣役の人が他の子を追いかけて、タッチしたらその子も魔獣役になり、まだ魔獣役になっていない子を捕まえる遊びです」

 そんなマリーの視線を感じながら魔雪は鬼ごっこのルールをモグボルーツ風に言い換えて説明する。

「例えば、私が魔獣役で皆さんの誰かにタッチするとします」

 そう言いながらポンと犬耳の女の子の頭に手を乗せる魔雪。

「こうやってタッチされてしまったらこの子も魔獣役になってしまいます。そして、魔獣役である私とこの子にタッチされたらその子も魔獣役に……と、このようにどんどん魔獣役が増えて行きます。わかりましたか?」

 説明しながら彼は無意識の内に犬耳の女の子の頭を撫でる。最初は吃驚していた犬耳の女の子も撫でられて気持ちいいのか目を細めた。魔雪は普段から子供たちを遊んでいたため、子供の頭を撫でてしまう癖が付いていたのだ。

≪はーい!≫

 正直、半分もルールをわかっていなかったが子供たちは元気よく手を挙げる。

「最期まで魔獣役にならなかった子にはご褒美をあげようと思います。何がいいですか?」

≪頭撫でて!≫

 獣人族の子供は警戒心が高い。しかし、一度でも心を許せばペットの犬のように懐く。それに加え、目の前で撫でられている犬耳の女の子の顔を見て自分も撫でられたいと尻尾をぶんぶんと振っていた。因みに尻尾が短い獣人族の子供(熊や兎)はピコピコと尻尾を動かしている。

「え? あ、はい。皆さんがそれでよろしければそれでいいのですが……私でよければいつでも皆さんの頭を撫でますけど?」

 魔雪は子供たちが自分に気を使っていると誤解していた。そのため、頭を撫でるという行為の価値を下げて別のご褒美をあげようと思ったのだ。

 しかし、彼は過ちを犯してしまった。

≪わあああああああ!!≫

「へ?」

 目をキラキラさせた子供たちがほぼ同時に魔雪へダイブしたのだ。もちろん、自分が一番に頭を撫でられたいからである。まさか子供たちが飛び込んで来るとは思わなかったようで魔王である魔雪はメイドになってから初めて素に戻って呆け――。

「へぶっ!?」

 ――子供の波に飲み込まれた。それから洗濯機の中に放り込まれたように子供たちにもみくちゃにされる魔雪。先ほどまで微笑ましく子供たちを見ていたマリーも慌てて魔雪たちの元へ向かった。

「ま、マユキ!? 大丈夫!?」

「……け」

「え? 何?」

 子供たちの声で魔雪の声がよく聞こえず、聞き返す。




「た、たす、け、て……しん、じゃう……」




 それを聞いたマリーは急いで王宮に戻り、その辺にいた大人のメイドを集め、魔雪は救出される。救出された彼はボロボロの姿のまま、子供たちに正座させ、1時間ほどお説教した。

 それから頭を撫でる行為は本当にご褒美となり、この日から子供メイドたちは魔雪に頭を撫でて貰うために簡単なお仕事をし始めることになるのはまだ誰も知らない。


感想で言われましたが、魔雪は自分から人の名前を聞きません。

その理由は後で出て来ます。

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