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せ、セーフ!まだ月曜日セーフ!
あとがきで更新日に関して記載しますので必ずお読みください。
「――こ、これは」
魔雪とヒデが友情を深め合ってから数十分後、肉の勇者は目の前に立っている人を見て絶句していた。
「いかがでしょう? こう言った服を着るのは初めてですので上手く“演技”出来ているかわからないのですが……」
そう、メイド服を来た魔雪だ。その表情は少しだけ不安げである。そもそも、魔雪は男だったのでメイド服を着る機会などなかったのだ。さすがに演劇でもメイド役は演じられなかった。
「……」
「ヒデ様?」
沈黙している親友を見て首を傾げる魔雪。無理もない。今の魔雪はあり得ないほどメイド服が似合っていたのだから。確かに彼女は幼女だが、中身は高校生――しかも、演技の天才である。姿勢、言葉使い、表情。その全てが完璧だった。
「魔雪……完璧」
「そうですか? そう言っていただけて嬉しいです」
すっかりメイドの演技に夢中な魔雪だったが、言葉使いなどは結構、適当だったりする。さすがに本格的なメイドを間近で見たことはない上、今までは主役など身分の高い役しか演じて来なかったため、相手を敬うような言葉使いは慣れていなかった。
「ぬふふー、これで家事が出来たら問題ないけどさすがに――」
「――家事なら全般熟せます。ですが、この背丈なのでさすがに高いところの掃除などは苦労すると思いますが……」
実は家で家事をしていたのは魔雪だった。妹の魔智はかなり不器用だったため、怪我をしたり物を壊したりと色々と酷かった。その結果、魔雪がパパッと終わらせていたのだ。
「……逆に魔雪は何が出来ないの?」
ここまで完璧な人間を見たことがなかったヒデは少し顔を引き攣らせて幼女メイドに問いかけた。肉の勇者と言っても日本ではただの一般人。あまりにも現実離れした魔雪のスペックに唖然としているのだ。
「出来ないことは多分、ないと思います……しかしながら、私は結局演技しか出来ないのです」
「出来ないことがないのに演技しか出来ないってどういうこと?」
「言うなれば私がやること全てが“演技”なのです。料理をするにしても、掃除するにしても……私は演技の役に立てるために様々な小説やマンガを読み、ゲームをプレイして来ました。そして、演技に繋がることを全て記憶しています」
魔雪は演技の天才。もちろん、台詞など覚えるのも容易だった。しかし、魔雪はアドリブをとても大事にする役者だったため、アドリブに使えそうな物は全て記憶した。いや、記憶したのではなく勝手に覚えてしまったと言っても過言ではない。スポンジのように知識を吸収し、演技の参考にする。それが魔雪が天才だと言われる要因の一つだった。
「つまり、常に演技をしている私は溜めこんだ知識から必要な知識を引き抜いて見よう見まねで演技しているだけなのです。コピーはどこまで行ってもコピーでしかありません。本物に比べると技術的には劣化しているのです」
「……でも、何でも出来ちゃうのが魔雪なんでしょ?」
「ふふ、それはどうでしょう? 私も試してみたいですね」
幼女にしてはあまりにも艶めかしい微笑みを浮かべ、魔雪はその場でくるりと一回転する。ロングスカートは花が咲くように膨らみ、ヒデを魅了する。
「それでは、これより勇崎 魔雪によります。演劇を開演、致します。皆様、ごゆっくりお楽しみください」
再び、ヒデの方を見た魔雪は丁寧にお辞儀をしてそう言い放つ。
「はは、本当に……魔雪は不思議な子だね。それじゃ、ゆっくり楽しませて貰うよ」
「はい、お任せください。ヒデ様」
少々、ぎこちない笑みを浮かべるヒデと悪戯が成功したような笑みを浮かべる魔雪。
すると、丁度その時、魔雪たちがいる部屋の扉を誰かがノックした。
「ぬふふー、入っていいよー」
「失礼します」
ヒデの許可を得て入って来たのは二十歳前半から後半に見えるとても優しそうなウサ耳の女性だった。もちろん、服装はメイド服である。彼女も魔雪と同じように黒いチョーカーを付けていた。
「魔雪、紹介するねー。この子が指導役のマリー。申し訳ないけど、やっぱり魔雪だけを特別扱いするわけにもいかないから皆と一緒に働いてもらうよ」
「いいえ、気にしないでください。私も全てが新鮮でとても興味深い体験をしていますから」
主に演技的な意味で。
「初めまして、魔雪。私はマリー。勇者様の命により貴女の指導役をすることになりました」
ニッコリと笑いながらマリーが自己紹介をする。
「初めまして、魔雪です。マリーさん、よろしくお願いします」
それに対して魔雪も演技しながらお辞儀をした。それを見てマリーは思わず、目を丸くしてしまう。この王宮ではヒデが気に入った子をメイドとして働かせている。そのため、様々な身分の子が王宮で働いていた。その中にメイドの経験などないご令嬢やまだ文字すら読めない子供もいる。マリーは魔雪を見た時、指導するのが大変そうだと内心、ため息を吐いてしまった。魔雪の見た目は幼女だ。そう思ってしまっても仕方ないと言える。しかし、そんなマリーに向かって魔雪は完璧と言えるほど美しいお辞儀を披露した。先入観も手伝い、マリーの度肝を抜かれた。
「ぬふふー、マリーこの子は本当に天才だから自分と同じくらい……ううん、それ以上だと思って接した方がいいよー」
「……そのようですね」
「そんな私はまだメイドになって数分の身。厳しく指導して欲しいです」
もちろん、演技のためだ。
「それじゃ、僕はこれぐらいで退散するよ。魔雪、大変かもしれないけど頑張ってね。何か相談したいことがあったらいつでも呼んでね」
「ヒデ様も頑張ってください。僭越ながら応援させていただきます」
魔雪の言葉を聞いてヒデは少しだけ悲しそうな顔をして部屋を出て行った。勇者は自分のミッションを人には言えない。そのせいで魔雪は手伝いたくても手伝えない。だからこそ、応援すると言ったのだ。
「随分と勇者様と仲がいいのね」
ヒデがいなくなったからか言葉を崩して魔雪にマリーが話しかける。
「はい。話が合いまして色々お話してしまいました。何かまずかったでしょうか?」
「いえ、気にしないで。普通、ここに連れて来られてすぐの子は落ち込んだりしてるから珍しいなって思って。あ、私には別に敬語じゃなくていいのよ?」
「すみません、今はこの口調が自然なので崩してしまうとかえって気持ち悪いのです」
「……ねぇ、本当に幼女なの?」
「はい、正真正銘の幼女メイドです」
あっけらかんと答える魔雪を見てマリーは顔を引き攣らせてしまう。お前のどこが幼女メイドなのかと。見た目は幼女だが、中身はまるで長年メイドを務めて来たベテランのようだった。
「それじゃ、王宮内を案内するわ。その途中で私たちの仕事について説明するから」
「はい、かしこまりました」
「……私に仕えてるメイドみたいね」
「癖のようなものなので気にしないでください」
そう言ってのける魔雪を見てウサ耳メイドは大変そうだが、退屈はしなさそうだと少しだけ笑い、魔雪と共に部屋を後にした。
更新日ですが、月曜から火曜日に変更させていただきます。
理由ですが、火曜は午前授業なのでその日に更新した方が執筆時間が取れると判断したからです。
勝手ながら更新日を変更してしまい、申し訳ありません。
これからも幼女魔王をよろしくお願いします。




