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幼女魔王の演武演劇  作者: ホッシー@VTuber
第2章 幼女魔王の召使黒狼
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「幼女……ですか」

 老人の言葉を繰り返すルフィア。まさか勇者の目的が幼女だとは思わなかったのだ。

「はい。数日ほど前、散歩中だった勇者がこの孤児院を見つけてしまったのです。そして、たまたま外に出ていた子が目を付けられまして」

「……」

 腕を組んで魔雪は思考を巡らせる。モグボルーツに召喚された勇者の多くは初代勇者から与えられたミッションをクリアし、日本に帰ろうとしている。鎧の勇者もエルガの国王と手を組んで強者を誘き寄せようとしていた。

(でも、例外はある)

 演劇部だった彼は演技のために数多くの本を読破して来た。その中に主人公が異世界に転移してしまう物語もあった。

(異世界に来たらハーレムを作ろうとするクズもいるはず……しかも、勇者として召喚されたから余計、帰りたくない奴は帰りたくないだろうなぁ)

「ねぇ、おじさん。勇者が来たのって数日前って言ったよね?」

「は、はい」

「次いつ来るって言ってた?」

「……今日です」

 老人の返事を聞いた魔雪はすぐに立ち上がってルフィアの腕を掴んだ。

「マ、マユちゃん?」

「ルフィ、急いで隠れて! 今、ルフィがここにいるってばれたら面倒なことになる!」

 魔雪とルフィアは犬耳商人のグリフォードの協力で通行手形なしでマルガに入った。そのおかげで勇者に2人の存在はばれていない。しかし、ここに勇者が直接来てしまったら話は別だ。魔雪ならまだしもルフィはモグボルーツで唯一勇者を倒したランクSSSの冒険者である。そのニュースは新聞を通して全世界に伝えられた。ルフィアの顔もその新聞に載っている。もし、ルフィアが勇者に見つかってしまうと最悪、この孤児院で戦うことになるのだ。

「……ルフィア、こっち」

「え、あ、ちょっ!」

 狼もそれに気付いたようで子供たちがいる奥の部屋に押し込んだ。超弩級変態エルフが魔雪の名前を叫ぶが、彼はそれを無視して老人に向き直った。

「他の子は?」

「奥の部屋にいます」

「……幼女を渡さなかったらどうするか言ってた?」

「無理矢理にでも、と」

 それはそれでマズイ。幼女を渡さなかったらここで戦闘になる可能性が高い。そうなればルフィアの存在もばれるし、孤児院の子供たちに被害が及ぶのは免れないだろう。

(思いっきり吹き飛ばして戦い場所を変える? いや、それだと別の場所に住んでる人たちが危ない)

「その勇者ってどんな勇者かわかる?」

 相手の勇者の情報が少ないので老人に質問する。

「……」

 だが、老人は俯くばかりで答えようとしなかった。いや、答えたくても答えられないらしい。悔しそうに手を震わせている。

「実は勇者が孤児院に来た時、私はここにいなかったのです。その時は狼が追い払ってくれました」

「……えっへん」

 無表情で胸を張る狼の頭を軽く叩いてから魔雪がため息を吐いた。せめて、何を司っている勇者なのか知りたかったのだ。その情報だけでも対策を立てやすくなる。

「って、狼に聞けばいいじゃん。どんな勇者だった?」

「……デブ」

「デブ?」

 狼の情報に首を傾げてしまった。無理もない。特徴が体格だけではどんな勇者なのか判断できないからだ。また振り出しに戻ってしまった。

「……来た」

 どうしようか悩んでいると不意に狼が立ち上がりながら呟く。魔雪と老人も警戒しながら狼の傍に移動する。それからすぐに孤児院の扉が開かれた。

「ぬふふー、お迎えに来たぞー」

 そこにいたのはまさしくデブだった。体重など100キロは軽々と超えているだろう。汗も滝のように流していてそのせいか黒い髪が若干、濡れている。

(こいつが……勇者)

 孤児院に現れたデブを見て魔雪は目を細める。彼は目の前のデブが勇者だと本能的に察知した。魔王だからこそ感じ取ることができたのだ。

「お? おお!?」

 勇者も魔雪を見て目を丸くする。魔王だとばれてしまったかもしれないと警戒した。しかし、それは杞憂に終わる。

「幼女キター!」

「……はい?」

「これこそ幼女! 幼女の中の幼女だああああ!」

 テンションが上がっているのか勇者は力強く拳を握り叫んでいる。魔雪たちは困惑しながらも勇者を睨み続けた。

「お嬢さん、お名前は!?」

 そんな魔雪たちを無視してデブは興奮しながら質問する。魔雪が魔王だとばれていないようなのでホッとしながら魔雪は口を開く。

「魔雪、だけど」

「マユキちゃんかー! 可愛い名前だー!」

 名前を聞いただけで吠える勇者を見てただただ混乱する一同。何故、魔雪を見ただけであそこまで興奮するのかわからなかった。

「ほほう、あの勇者はなかなか見る目がありますね」

 奥の部屋で聞き耳を立てている超弩級変態エルフは納得しているようだが。

「あの……勇者、でいいんだよね?」

「ああ、そうさ。僕はこのマルガを征服した『肉の勇者』さ!」

 魔雪の質問に嬉々として答える勇者。『肉の勇者』と聞いて思わず、感心してしまった。見た目はまさに“肉”だったからだ。

「本当に可愛いなぁ。マユちゃんって呼んでいい?」

「うん、いいよ」

「……魔雪、警戒して」

「いや、いいんだ」

 狼の忠告に笑って首を振る魔雪。彼はすでに気付いていた。勇者の目が“獲物を狩る獣”とは違うことを。

(多分、この勇者は……幼女を性的な目で見ていない。本当に子どもが好きなだけだ)

 魔雪は日頃から実の妹やルフィアに貞操を狙われているので性的な目を見慣れている。しかし、勇者は魔雪のことを妹やルフィアのような目で見ていなかったのだ。おそらく、子供が好きなので手元に置いて愛でていたいのだろう。引き取りたいだけかもしれない。

「ねぇねぇ、うちに来ない? 王宮だから広いよー? 一応、メイドとして働いてもらうけど。大丈夫! 王宮にはマユちゃんぐらいの子がいっぱいいるから!」

「……条件次第だけど」

 勇者の誘いを聞いて魔雪は頷いた。それを聞いて狼と老人、奥の部屋にいたルフィアが目を丸くする。

「おお、ホントに!? その条件って!?」

「もうこの孤児院の子には手を出さないって約束してくれるならついて行く」

「約束する! この孤児院には来ないよ!」

「交渉成立だね。それじゃ、荷物まとめて来る。狼、手伝って」

「……わかった」

 魔雪の目を見た狼は彼が何か企んでいることを察知して了承した。勇者に外で待っているように言って2人は奥の部屋に向かう。老人は勇者が孤児院に入って来ないように監視するつもりのようでその場にとどまった。

「マユちゃん!」

 奥の部屋に入った途端、ルフィアに抱きしめられる魔雪。すぐに狼がルフィアの肩を殴って離れさせた。脱臼したルフィアは回復魔法をかけながら魔雪に詰め寄る。

「何考えてるんですか?! あの勇者にあんなことやこんなことされちゃうんですよ!?」

「大丈夫だって。勇者は俺のことを性的な目で見てなかったから。ルフィみたいな目じゃなかったもん」

「ガハッ……」

 何も言い返せない超弩級変態エルフはその場に崩れ落ちた。

「……魔雪、本当に大丈夫?」

 そんなエルフを蹴って吹き飛ばした後、狼が心配そうに問いかける。蹴られた腹部を抱えながら悶えるルフィアを子供たちが指を差しつつ、笑っていた。

「大丈夫だよ。勇者の弱点とかミッションの内容とかわかるかもしれないし」

 そう、魔雪がやろうとしているのは潜入捜査だ。ミッションさえクリアさせてしまえば、戦わなくても勇者を日本に帰すことができる。そのためにも今は勇者の情報が欲しかった。

「マ、マユちゃん……」

 床を這いながらのろのろと魔雪の傍に来たルフィア。その目には涙が溜まっている。今まで魔雪とルフィアは別々に行動することがほとんどなかった。そのため、彼女は魔雪を心配しているのだ。

「ルフィ……」

「マユちゃん……」

「ここの幼女を襲わないようにね」

 実際は超弩級変態エルフの方が何かやらかしそうなのだが。

「マユちゃん以外、襲いませんよ! 舐めて貰っては困ります!」

「……魔雪、何でこんなのと旅してるの?」

「……時々、俺もそう思う」

 魔雪と狼が同時にため息を吐いた後、涙を流しているルフィアに視線を戻す魔王。

「いい? ルフィアと狼は外で情報を集めて。俺は内部で勇者について調べる。多分、情報の交換はできないだろうけど……どうにかして伝える方法を考えるよ。暗号にするから頭を使ってね」

「暗号ですか? どんな暗号なんです?」

「まだ俺がどんな扱いされるかわからないから決められないよ。ただ頭を使うのだけは確定だね。どうにかして中央広場にある『ラグールタワー』に行くから」

「……わかった。健闘を祈る」

「魔王様、お気を付けて」

 2人の言葉に頷いてみせて魔雪は部屋を出た。心配そうにしている老人に笑って頷き、孤児院の扉を開ける。

「マユちゃん、待ってたよー」

 出て来た魔雪を見て笑う勇者。それだけでボタボタと汗が地面に落ちた。

「それじゃ、行こっか。勇者様」

「ぬふふー、僕のことは“ヒデ”って呼んで欲しいなー」

「ヒデ?」

「そうそう、ヒデ。王宮に着いたら早速、メイド服に着替えてね」

「うん、わかった」

 そんな会話をしながら勇者が乗って来た馬車に乗り込む2人。こうして、魔雪は勇者のメイドとなった。


次回、マユちゃん、メイドになる。

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