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大変長らくお待たせしました。
詳しくは後書きに書いてますのでそちらを読んでください。
「どうぞ」
孤児院に入った2人はソファに座り、老人から紅茶の入ったカップを受け取った。狼は孤児院に住んでいる子供たちに顔を見せに行った。奥の方で子供たちの楽しそうな声がいくつも聞こえて来る。
「狼は慕われてるんだね」
「ええ、そのようです」
「まぁ、あの子が一番、年上で古参ですから」
『子供たちからすれば姉のような存在です』と嬉しそうに語る老人。それを見て魔雪は少しだけ目を細めた。
「あの……狼が言ってたんだけど、助けて欲しいってどういうこと?」
魔雪はあえてタメ口で質問する。ここは孤児院だ。下手に敬語を使って変に思われたら面倒である。だからこそ子供っぽい話し方を使ったのだ。
「……少し長い話になりますがいいですか?」
魔雪の質問を聞いて少しだけ俯いた老人はそっとため息を吐いた後、ルフィアの目を見ながら問いかける。
「ええ、構いません」
「どこから話しましょうか……まず、お二方は獣人についてどれだけ知っていますか?」
「えっと、魔力がほとんどなくて力が強い。後、耳と尻尾が生えてるだっけ?」
「他にも体力が多い。繁殖力は人種族の次に高いなどがありますね」
老人の質問に魔雪とルフィアが交互に答えた。それを聞いた老人は腕を組んで頷いている。
「だいたい合っています」
「含みのある言い方だね。あの狼が普通じゃないことと何か関係でもあるの?」
魔雪は老人の表情や仕草を見て何かを感じ取ったのだ。アドリブを得意とする彼は人の表情や仕草で考えていることを読み取ることができる。さすがに全て読み取れるわけではないが、何となくわかるのだ。今回の場合、老人は一瞬だけ狼がいる部屋のドアを見た。魔雪の観察眼であればそれだけですぐに察することができたのだ。
「……マユちゃんはすごいですね。その歳ですでにそんな表情ができるなんて」
「まぁ、色々とあったからね。ルフィアさんとの旅は飽きないよ」
「はは、いやはやマユちゃんの将来が楽しみですね」
旅というのは死と隣り合わせである。いつ魔獣に襲われるかわからない。食料がなくなるかもしれない。盗賊に襲われる可能性だってある。そんな旅を『飽きない』と言ってのけた魔雪を老人は感心してしまった。
「はい、楽しみです!」
老人の言葉にルフィアは満面の笑みを浮かべて頷く。それを魔雪はため息を吐くだけでスルーした。
「さて……お二方が言ったことは合っています。ですが、ほとんど知られていないこともあるのです。因みにあの子の戦う姿は見ましたか?」
「見ました。ですが、あの狼は色々とおかしいことが多すぎます。獣人族なのに動物型に変身できたり、魔力があったり」
「そう、そこなのです。あの子は他の獣人族とは違う。では、ここで昔話をしましょうか」
老人はそっと息を吐いて天井を仰いだ。昔のことを思い出そうとしているかのように。
「昔……王妃様は散歩のために家来を連れて国の外に出ました。王妃様はとても強く王様でさえ敵わないほどでした。ですが、その日……黒狼と呼ばれる魔獣が王妃様の前に現れたのです」
「こ、黒狼!?」
老人の話の途中でルフィアが叫んだ。黒狼は伝説の魔獣の1体で人前に現れることはおろか存在しているかもわからない幻の魔獣だった。勇者が魔王を倒す物語で登場しており、勇者でも追い払うのがやっとなほど強いと言われている。だからこそ、ルフィアは驚愕した。まさか黒狼の名前をこんなところで聞くとは思わなかったからだ。
(黒狼……あの狼も黒い狼だ)
魔雪も魔雪で眉間に皺を寄せて思考を巡らせていた。偶然にしては出来過ぎている、と。
「黒狼はまず家来を皆殺しにしました。その間、王妃様も黒狼を攻撃しましたが、全く通用しませんでした。結果、王妃様だけが生き残り、黒狼と対峙することになったのです。王妃様は死を覚悟しました。ですが、黒狼は王妃様を殺さずに自分の住処に連れて行きました。ところでお二方は何故、魔獣を魔獣と呼ぶか知っていますか?」
唐突に質問されて魔雪とルフィアは同時に首を横に振った。
「……魔獣の繁殖方法はいくつか存在しています。同じ種族同士で交尾する。他の魔獣の体に卵を産み付ける。分裂する……」
そこで老人は言葉を区切る。いや、言うことを躊躇した。だが、一度深呼吸して言葉を紡いだ。
「獣人族と交尾する」
「獣人族と……交尾、ですか?」
ルフィアは確かめるように言葉を繰り返した。声が震えている。
「はい。他の種族には伝えられていないことなのですが、獣人族と魔獣は子を成すことが可能です。後、同種族ではないので成功率は下がります」
「あ、あの……それ私たちに言ってもよかったのですか?」
この事実が他の種族に伝われば獣人族を滅ぼそうとする可能性があるからだ。この世界では勇者という共通の敵がいるおかげで戦争は起きていない。しかし、モグボルーツの就任にとって勇者だけが敵ではない。魔獣の被害も大きいのだ。そんな魔獣と子供を残せるとわかった時点で他の種族が獣人族へ総攻撃を仕掛けてもおかしくない。それほど魔獣はモグボルーツの住人にとって脅威なのだ。
「いいんですよ。貴方たちはそんなことする人ではないとわかっていますから」
老人の言う通り、魔雪たちは獣人族を滅ぼそうと思っていない。2人には『魔雪を元の世界に帰す』という目的があるのだ。
「では、話を戻しましょう。魔獣と獣人族の間に出来た子は基本的に獣人族の姿のまま成長します。ですが、他の獣人族とは違って動物型――いえ、親の魔獣に変身でき、魔力をある程度、持っています。そして、その子の種族を『魔獣人族』と言います。魔獣が魔獣と呼ばれる理由はそこから来ているのです」
「……そう言うことか」
そこで魔雪は気付いてしまった。グッと拳を握って顔を歪めている。
「ま、マユちゃん?」
ルフィアはその様子を見て彼の名前を呼んだ。
「おじいちゃん。俺が説明してもいい? 辛いんでしょ?」
「……すみません。お願いします」
魔雪の提案に老人は頭を下げた。それを見て彼はルフィアの方を向く。
「ルフィ、思い出してよ。王妃様の話、黒狼、魔獣人族……あの狼」
「っ……そ、そんなまさか」
ただでさえ混乱していたルフィアは顔を青くして魔雪を見つめる。彼の顔を見て冗談ではないとすぐにわかった。普段のルフィアなら魔雪に言われる前に気付いていただろう。だが、老人の話があまりにも突拍子がなくて思考回路がさび付いてしまったのだ。
「あの狼は王妃様と黒狼の間に出来た魔獣人族だよ」
魔雪の声は静かに部屋に響いた。
3か月ほど投稿が空いてしまってすみませんでした。
私の場合、期限を決めないと書かないようなので
今週から毎週月曜日に更新しようと思います。
ですが、試運転的なものなので無理そうならまた別な案を考えます。
これからも幼女魔王をよろしくお願いします。




