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幼女魔王の演武演劇  作者: ホッシー@VTuber
第2章 幼女魔王の召使黒狼
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「全く……森のオーガを殲滅するなんてどうかしてますよ」

 無事に街道のオーガを倒して帰って来たルフィアが宿で魔雪にため息を吐きながら言う。

「あのまま放っておいたらこの村はオーガに滅ぼされてたよ」

 それに対し、魔雪は当然のことをしたと主張する。

「ですが、もう少しやりようがあったと思いますが……」

「ルフィは街道の開放に行ってて、森に入ったのは低ランクの冒険者だけ。オーガは『敵討』を持ってる。バラバラに倒そうにも森にはたくさんのオーガ。死体を処理する前に戦闘の音で他のオーガが寄って来て、そのまま蹂躙」

「うっ……」

 魔雪の正論に思わず、ルフィアはうめき声を漏らした。確かに、オーガを倒す方法は確立されている。しかし、それは他のオーガが寄って来る前に目の前にいるオーガを倒せるほどの戦闘力があってこその作戦だ。そうしなければ魔雪の言う通り、オーガが寄って来て倒された仲間を発見し、『敵討』が発動するだろう。

「ルフィア……おバカ」

 毛布に包まって肌の露出を防いでいる狼が真顔でルフィアをバカにする。

「狼は黙っててください! いいですか? 私が言ってるのはもう少し目立たないように動いてくださいってことです」

「まぁ、少し暴れすぎちゃったのは自覚してるよ。ゴメンね、ルフィ」

「はうっ……許しちゃいます!」

「……やっぱり、おバカ」

 魔雪の申し訳なさそうな顔(上目使い付き)を見て鼻血を流しながら顔をふにゃふにゃにしている変態エルフを見て狼は少しだけため息を吐きながらそう呟いた。






「――って、感じかな」

 ルフィアの鼻血も止まり、魔雪は森であったことを手短に報告していた。もちろん、『最終形態』の話は一切していないし、狼にも事前に口止めしていたのでばれずに済んだ。

「そうですか。こっちは上級級の魔法を連発して何とか倒したのに……」

 魔雪たちの安定した戦闘の様子を聞いたルフィアは悔しそうに拳を握る。

「どう? 狼、連れて行ってもいい?」

「それは駄目です」

 魔雪渾身のおねだりポーズ(両手を胸の前で合わせる+上目使い+涙目+首を傾げる)でもルフィアは首を縦に振らなかった。

「えー、何でさ」

 まさか、これで落ちないとは思っておらず彼は不満そうに問いかける。

「……いい加減に目的を話したらどうですか?」

 しかし、魔雪の質問には答えずに半眼で狼に質問するルフィア。

「……どういう意味?」

 それに対し、狼は首を傾げて聞き返した。

「あの森で狼型の魔獣を見た人はいないそうです。先ほど、村長に狼のことを聞かれて手短に話した時に教えてくれました。なので、貴女は森に住んでいたのではなく、最近、ここに来た……違いますか?」

「……だったら、何?」

 ルフィアの言葉を聞いて少しだけ目を鋭くする狼。警戒しているようだ。

「たまたまこの森に来た、と言うならば何も問題はありませんでした。ですが、貴女は様子から見て何だかそれは違うような気がしたんです」

 実は魔雪も狼に違和感を覚えていた。例え、狼が強くても真っ暗な森の中、オーガと戦う理由がない。ましてや、狼は気配を消すことが出来るのでオーガと戦わずにやり過ごせるのだ。

「ルフィ、狼は何か目的があってあの森に居たって言うの?」

「だと思います。わざわざオーガと戦う理由があるはずです。そして、私はわかってしまったんです。貴女はオーガを大量に殺して他のオーガに見せ、『敵討』を発動させて村を襲うようにした」

「そんなっ……」

 咄嗟に魔雪が否定しようとするが、実際にオーガは村を襲っているため、口を噤んでしまった。

「だから聞いているんです。目的はなんですか?」

「……」

 ルフィアの指摘に狼は黙って俯く。たったそれだけでルフィアの仮説が正しいことがわかる。

「……確かに、私はオーガに村を襲わせそうと、した」

 数秒の沈黙の後、そっと告白した。

「どうしてそんなことを?」

 狼の目の前まで移動して魔雪は悲しそうに問いかける。

 実は意外にも魔雪は狼のことを気に入っていたりする。戦闘面でもそうだが、ルフィアや妹のようにぐいぐい来るような女の子ではなく、静かな子と接するのが初めて(今まで妹が女の子との接触を防いで来た。美里は魔雪のことを友達だと妹に宣言し、許しを得たので例外である)なので新鮮だったのだ。だからこそ、狼がそんなことを企んでいたと知ってショックを受けたのである。

「……村を守るために、冒険者が出て来ると思ったから」

「「?」」

 魔雪の質問に答えた狼だったが、その答えはイマイチ理解できない魔雪とルフィア。無理もない。狼はまだ答えを言っていないのだから。

「……でも、その計画を実行する必要がなくなった。今回は事故」

「事故、ですか?」

「……だって、マユに会えたから」

 そして、ギュッと魔雪を抱きしめる。

「うっぷ」

 顔を胸に押しつけられて息が出来なくなった彼はもごもごと暴れるが狼は話そうとしない。

「また、マユちゃんを抱きしめて! 変わってください!」

「……いや」

「ぷはっ……俺に会えたって?」

 何度も狼の腕をタップしてやっと解放された魔雪は答えを促す。

「……私は探してた。強い人を」

「っ……まさか、オーガの軍勢を倒せるほどの力を持った冒険者を見つけるために?」

 ルフィアは自分の耳を疑った。まさか、オーガを利用してそんなことをするとは思わかったからである。

「……マユなら十分。私が探してた理想の冒険者。だから、私はオーガを殺すのを止めた」

「え、えっと待ってください」

 幸せそうに魔雪の頬に自分の頬をすりすりしている狼の頭を掴んで離しながらルフィア。

「じゃあ、どうしてオーガが村を襲ったんですか?」

「……マユが殺しまくったから」

 結局、全て悪かったのは魔雪だった。

「でも、何で強い冒険者を探してたの?」

 小さな体を利用して狼の抱擁から脱出しながら彼は興味本位で質問する。因みに聞かれた本人はルフィアにものすごい力で頭を鷲掴みにされていて涙目になっていた。

「……」

 魔雪の疑問を聞いた狼は言いにくそうに視線を逸らす。それを見た魔雪とルフィアは首を傾げながら目を合わせた。

「……お願いが、あるの」

 何度か深呼吸をした後、真っ直ぐ魔雪の目を見て狼が頭を下げる。そして――。




「……勇者を、倒してください」




 ――そんな無茶振りを言い放った。


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