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遅れてすみません。最近忙しくて書く暇がありませんでした……。
こんな感じで不定期に更新して行きますので、気長に続きを待っていてください。
「……つまり、この女は森に行った時にたまたま倒して仲間になりたいと志願した黒い狼、だと?」
「うん、そうだよ。ね?」
「……うん、そう」
魔雪とルフィアの戦いが終わり、何とか今までも経緯を話し終えた。まぁ、まだルフィアは杖を仕舞わず、構えているのだが。
「でも、狼ではありませんよ? 狼の獣人族です」
「だから、昨日の夜までは狼だったの! でも、朝起きたら女になってたの!」
「……聞いたことがありません。獣になれる獣人族など。ましてや、普通の狼が人型になるとでも言うのですか!?」
そう、獣人族は獣のような耳と尻尾が生えているだけで獣に変身は出来ない。その逆も同様で、獣が人型に変身することは出来ないのである。だからこそ、ルフィアは魔雪たちの話を信じることが出来なかった。
「そんなこと言っても本当なのに……ね?」
ルフィアに信じて貰えず、ちょっと傷ついている魔雪は隣で毛布に包まれている元狼の女性に同意を求める。
「……うん、そう」
その女性は眠たそうな眼を魔雪に向けて頷く。
「とにかく、仲間に入れることは出来ません! 元いた場所に戻して来てください!」
「えー、いいじゃんか。今は人型だけど狼になったらものすごくフカフカなんだよ? 昨日、ものすごく気持ちよく眠れたし」
そう、魔雪が狼を手放したくない理由はそこだった。
他にも昨日戦ってみてこの狼は相当強いことは分かっていた。このまま魔雪とルフィアだけで旅の途中に勇者に出くわしてしまった場合、勝利を掴むのはかなり困難である。ルフィアはともかく、魔雪には相手を一撃で沈められるほどの高火力を誇った技がないのだ。魔雪の戦闘スタイルは完全に拳や足による近接戦闘である。だが、幼女の姿ではリーチは短いし、力比べになってしまったらすぐに負けてしまう。ましてや、複数人と戦うことになってしまったら、苦戦するだろう。つまり、演武演劇による補助があったとしても、戦う相手によっては魔雪に勝ち目がないこともありえるのだ。
だからこそ、狼のスピードが欲しかった。前衛が2人に増えればその分、戦闘のバリエーションが増えるし、狼のスピードで敵を撹乱し、魔雪の闇魔法による衝撃波攻撃で確実に仕留めていくことも可能である。
「駄目です」
そのことをルフィアに話したが、それでも彼女は首を縦に振らなかった。彼女自身も狼を仲間にした時のメリットは理解している。だが――。
「では、狼(仮)に質問です。マユちゃんのこと、好きですか?」
「……好き」
「どれくらい?」
「……子供が欲しいくらい。食べたい」
「はい、駄目ー!」
そう、魔雪の貞操が危ない、というデメリットがあるのだ。だからこそ、ルフィアは首を縦に触れないのである。何故ならば、魔雪の貞操を奪うのは彼女の夢なのだから。
「……はぁ」
睨み合う(狼の方は眠たそうな眼差しで見つめ返しているだけだが)2人を見て、魔雪は思わず、ため息を吐いてしまう。
『た、大変だああああああああああ!』
その時である。外の方から男の悲鳴が聞えた。3人は顔を見合わせて窓から外を覗く。村の中心で何か言い争う男数人と村中を人々が走り回っていた。その光景は怪獣が街を襲って逃げ惑う光景に似ていた。
「どうしたんだろ?」
そんな光景を思い出しながら魔雪がそう呟く。何か事件が起きているのは見てわかるのだが、内容まではさっぱりである。
「確認して来ます。少し待っててください。狼(仮)はマユちゃんに触れないでください」
「……(ぎゅー)」
「何で見せ付けるようにマユちゃんに抱き着くのですか!!」
「早く行けよ」
地団駄を踏んで怒っているルフィアと眠たそうな顔で少し勝ち誇った様子の狼を見て彼は呆れてしまっていた。
「どうやら、オーガの軍隊が攻めて来ているようです」
狼を睨みながら渋々、村の人々に事情を聞きに行ったルフィアが部屋に戻ってすぐに魔雪たちに報告する。
「……そうなんだ」
「どうも、昨日の夜に森でオーガが何十体も殺されたようでそれを見つけたオーガたちが怒って村に向かっています」
「……へー」
「ですが、誰なんでしょうね? オーガは仲間が殺されると能力がアップするほど仲間を大切にする魔獣としては珍しい固体です。それを逆なでするかのような大量虐殺。そりゃ、こうなるに決まっていますよ。オーガ達がまず目を付けるのはこの村でしょうから攻めて来ることも予想できたはずですし」
「……」
心当たりがありまくる魔雪はそっと目を逸らす。魔雪自身、昨日、どれほどのオーガを血祭りに上げたか覚えてないのだ。
「……マユちゃん?」
「いや、だって知らなかったし。それにオーガって意外にタフだから練習相手に丁度良くて。戦い方の研究も出来るし」
「だからってオーガが軍隊を作って攻めて来るほど殺さなくても! どんだけ戦いに飢えていたんですか!?」
ルフィアの悲鳴を口笛を吹いて流す魔雪であった。
「そ、そんなことより、これからどうするの?」
「……そのことですが村から依頼です。オーガをどうにかしてくれって」
露骨に話を逸らした殺戮者を半眼で見ながらルフィアが言う。
「まぁ、今回は俺が原因だから断れないね」
そう言う魔雪だったが自分が原因でなくても依頼を受けただろう。意外にも魔雪は戦うことが好きになっていた。いや、戦うことを演じることが好きなのだ。
魔雪の答えを聞いたルフィアも頷き、2人は並んで部屋を出ようとする。
「……待って」
だが、それを狼が止めた。
「どうしたの?」
魔雪は振り返って首を傾げる。まさか、止められるとは思わなかったからだ。
「……私も連れてって。一緒に……戦う」
毛布に包まれた狼が小さな声でお願いした。その目はやはり眠たそうだったが、先ほどよりも少しだけ鋭いような気がしなくもない。
「駄目です」
魔雪が答える前にルフィアがバッサリと狼の願いを斬り捨てる。
「……何故?」
「まず、そんな恰好で戦えますか? ろくに武器も持っていないみたいですし、裸のまま、人々の前に出るつもりなんです? それに、私たちと一緒に戦うと言っても貴女は何が出来てどんな戦い方をするのかわかりません。そんな状態のまま、戦闘してしまうと絶対に噛み合わなくなります。危険です」
ルフィアの意見はまさに正論だった。
共闘する時、もっとも重要なのは味方の戦闘スタイルを把握しておくことだ。味方は何が出来てどんな攻撃をするのか。それを理解して自分の立ち回り方を考える。味方の攻撃に合わせて追撃するのも味方の攻撃手段がわかっていないとタイミングを合わせることなど出来ない。味方を守る時であってもどんな攻撃が苦手なのか把握しておかなければ対処のしようもないのだ。
「……それなら、大丈夫。魔雪は……知ってる」
しかし、狼はそんなルフィアの正論を一言で片づけた。
「知ってるってそんなはず」
ルフィアの記憶が正しければ、魔雪と狼が出会ったのは昨日、ルフィアが魔雪と別れてからである。しかも、その時、魔雪は森でオーガを蹂躙していた。そんな中、魔雪の前で戦闘スタイルを見せる機会などない。魔雪1人で大抵の魔獣を処理してしまうから共闘する必要性がないのだ。
「……それに、裸でもこの姿なら、問題ない」
そう言って狼は毛布を床に落として目を閉じる。魔雪とルフィアは彼女の行動を意味がわからず、混乱しているとすぐに狼に変化が現れた。狼の体が淡く光り輝き、その姿が変わっていくのである
「う、嘘……」
先ほどまで女性だった彼女は漆黒の狼に姿を変えて目の前に佇んでいた。あまりにも現実離れした光景にルフィアは目を見開いて驚愕する。今まで、獣人族が獣の姿になったことも、ただの獣が人間の姿になったこともないからだ。
「変身、出来たんだね」
「……バウ(肯定)」
魔雪が確認するように呟いた。それを聞いた狼は右前足を突き出して肯定するのだった。




