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幼女魔王の演武演劇  作者: ホッシー@VTuber
第2章 幼女魔王の召使黒狼
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 村に到着した魔雪たちだったが宿を取った矢先、ルフィアが村の人々に気付かれてしまった。

「ささ! ルフィアさん! よく、来てくださいました! こちらに宴会の準備が出来ていますので行きましょう!」

「え? 宴会? 何でですか?」

「そりゃ、ランクSSSの冒険者さんですから! 貴女のおかげで村の人々はもちろん、他の冒険者さんたちもやる気を出し、働いています。なので、その感謝のために!」

「えええ!? それ、私、関係ないですよ!?」

「そんなことはありません! ささ、こちらへ!!」

「ちょっ! いいです! 私は大丈夫ですから!! あ、駄目っ! マユちゃん!! 助けて! 助けてええええええええええええ!!」

 テンションの上がった村人たちはルフィアの話をろくに聞かず、宴会場へ連れて行ってしまった。魔雪は面倒臭そうだったので、ルフィアを見捨てることにした。

「……さて、何やろうかなー」

 村人たちの様子からルフィアは今日、宿に帰って来られないだろう。もちろん、酒を飲まされて酔い潰れるからである。彼女は酒に弱いのである。旅を始めて1か月ぐらい経った日、たまたまお酒を手に入れて、ルフィアが味見をした瞬間、顔を真っ赤にしてぶっ倒れたのだ。

 なので、魔雪は今日1日、フリーである。まぁ、すでに日も落ちているのでそこまで時間はないのだが。

(……あれ、やっておくか)

 しかし、丁度試しておきたいことがあったので誰にも見られないように森の中へ入って行く彼。森は真っ暗だ。明りはない。ランタンはルフィアの異空間収納に仕舞ってあるからだ。

「……」

 そんな暗闇の中、木にぶつからずにスイスイと歩いて行く。前方に闇魔法の靄を飛ばして索敵しているのだ。そのついでに吸収で周囲の匂いを集め、何かいないか確認しながら歩く。この旅の中でルフィアから教わった技術だ。魔雪は風魔法を使えないが、闇魔法を応用することにより、出来るようになった。

「いないなぁ……」

 かなり、森の奥深くまで来たのに何もいない。そう、彼は獲物を探しているのだ。

「ガあああああああああああああッ!!」

 その時、遠くの方で獣のような雄叫びが聞こえる。その直後、木々が倒れる音も聞こえた。すぐにそちらへ向かう。

「お?」

 ずっと暗闇にいたおかげですっかり、目も慣れて月の光だけで周囲の様子が見えるようになった魔雪の前に魔獣がいた。オーガだ。オーガは巨大な刀を持っており、ブンブンと振りまわしている。

「ガルッ!」

 どうして、振り回しているのだろうと魔雪が不思議に思っていると別の声が聞こえた。どうやら、オーガはその声の主と戦っているらしい。

「ガ?」

 その様子を見ていると不意にオーガがこちらに気付く。そして、魔雪の方へ突進して来た。捉えられない敵より、魔雪の方が倒しやすいと踏んだようだ。

「ラッキー」

 さすがに喧嘩中に横から横やりを入れるのは憚れてどうしようか悩んでいたので、突っ込んで来てくれるのは魔雪にとって好都合だった。すぐに演武演劇を使用する。

「ガッ!!」

 開演前のお辞儀をしているとオーガが巨大な刀を横薙ぎに振るう。

「よっと」

 それを軽く後方宙返りで躱し、丁度、足の裏がオーガの方へ向いた瞬間、両足に吸収の靄を纏わせる。

「ッ!?」

 突然、何かに引っ張られるような感覚に驚いたオーガはバランスを崩し、魔雪の足へ引き寄せられる。魔雪自身も両手を地面の方へ伸ばし、こちらには放出の靄を纏わせてダーツのようにオーガの腹に蹴りを入れる。直撃すると同時に両足の靄の性質を切り替えた。

「ガフッ……」

 オーガは思い切り、吹き飛ばされ木に背中を叩き付ける。だが、まだ死んではいないようでフラフラしながらもすぐに態勢を立て直し、再び駆け出した。

「ふむふむ……」

 その間に魔雪は気付いたことを頭のメモ帳に書き、ユニークスキルを発動させる。

「最終形態!!」

 幼女から男の姿になった魔雪。

「ガッ!?」

 それを見てオーガは目を丸くし、足を止めた。その隙に両足に放出の靄を纏った魔雪がロケットのように跳躍し、オーガの懐に潜り込んだ。

「おらっ!」

 そして、靄を纏った右ストレートをオーガの無防備な腹に叩き込む。




 ――ドンッ!!




 たったそれだけでオーガの腹は貫かれ、そのままオーガは息を引き取った。

「んー……やっぱり、最終形態になると全体的に戦闘力が上がるみたいだなー」

 そう、魔雪は幼女の時と男の時の戦闘力の違いを確認しておきたかったのだ。こればかりはルフィアのいる前で出来ない。彼女が寝ている間もギュッと抱き枕のように抱きしめられていたので勝手に行動することが出来なかったのだ。

 それから、森の中を彷徨い歩き、見つけた魔獣を手当たり次第に血祭りに上げて情報を収集して行く。

「なるほどー」

 2時間ほどして、やっと情報を集め終わった。

 幼女時は基本的に男の時より吸収や放出の強さが弱い。しかし、その分、小回りが利くようで精密な吸収や放出(周囲の匂いを集める時など)を使う場合は幼女の姿のままが良い。闇魔法で凍らせる魔法は幼女時だと少し難しい。靄を大きくして一気に吸収しなければ出来なかった。つまり、男の時よりも魔力を消費するのだ。その分、男の時は簡単に凍らせることが出来る。やはり、戦闘中は男の姿の方が楽そうだ。

(でも……ルフィアの前じゃ……)

 検証した結果、男の方が楽だと判断したが、ルフィアがいるので結局、幼女のまま戦うことにした。戦闘中に味方に襲われるなど間抜けにもほどがある。

「ッ――」

 その時、魔雪は咄嗟に身を屈めた。幼女の時ならまだ屈まなくてよかったが、今は男なので、屈まなければ躱せなかったのだ。

「ガルッ!」

 魔雪の頭上を黒い何かが通り過ぎる。その黒い何かはすぐに地面に着地してまた魔雪の方へ飛んで来て、キラリと何かが月の光を反射した。どうやら、牙のようだ。それを見た彼は右に転がって牙を回避する。

「グルッ……」

 回避されたことが意外だったのか、黒い何かはそれ以上、攻撃することはなく魔雪のことをジッと観察し始めた。

「……狼?」

 そこでやっと、黒い何かが黒い狼だとわかった。毛が真っ黒なので保護色となり、すぐに狼だとはわからなかったらしい。

「ガル!!」

 魔雪の呟きが合図になったのか、観察をやめて狼がまた魔雪に飛びかかる。口を大きく開けて魔雪の喉を喰い千切ろうとした。

「……へっ」

 今度は躱すどころか右手を握りしめて腕を降ろし、構える魔雪。黒い狼はそんな彼の姿を見て諦めて激痛に耐えるように構えたのだと思い、タイミングを見計らって噛み付く。




 だが、その牙は空を切った。魔雪が最終形態を解除し、幼女になって身長が低くなったことにより、首を捉えることが出来なかったのだ。




「はぁああああ!!」

 そんな声を上げながら魔雪は靄を纏わせた右拳を上に振り上げる。そう、アッパーカットだ。

「ガッ!?」

 腹にアッパーカットをもろに喰らった狼は吹き飛び、地面に転がった。立ち上がろうとするも痛みで動けないのか、その四肢は僅かに動くばかりだった。

「……はぁ」

 今まで散々、戦闘して来たので殺すのが面倒になっていた魔雪は溜息を吐くと踵を返して村に帰ろうとする。

「バゥっ!」

 だが、それを止めたのは黒い狼だった。魔雪が振り返ると黒い狼はゆっくりと立ち上がり、鈍い歩みで魔雪の元までやって来る。その様子からもう攻撃して来ないとすぐにわかった。

「どうした?」

 黒い狼の行動が意味不明で首を傾げる魔雪。

「バウ……」

 黒い狼は幼女と目を合わせ、数秒間、見つめ合うとその場で腹を見せた。降参のポーズである。

「あー……うん、降参ね。大丈夫だよ。もう、攻撃しないから」

 先ほどまで戦っていた敵が何とも愛らしい姿(愛らしいと言うには大きい。狼の目線は幼女時の魔雪と同じ目線である)を見せたので思わず、顔を綻ばせてしまった魔雪はそう言って村に帰ろうとする。

「ぎゃんッ!」

 しかし、黒い狼は魔雪の真っ黒なローブの裾を噛んでそれを止める。そのせいで、魔雪は地面とキスすることになった。

「な、何するの!?」

「バウ……」

 鼻を押さえながら狼を睨む魔雪だったが、狼はまた降参のポーズを見せるだけだった。

「降参するのはわかったって! 攻撃しないから逃げていいよ!!」

「バウッ!!」

 魔雪の言葉を聞いて狼は立ち上がり、逃がさないようにローブの裾を噛む。降参する、と言う意味だけではないようだ。

「……むぅ。言葉が通じないって結構、不便なんだねぇ」

 狼の言いたいことがわからずにどうしようか頭を悩ませる。

「バウ」

 その途中で魔雪が思わず、呟いてしまった。それに同意するように狼も頷く。

「……ねぇ、俺の言葉、わかるの?」

 それを見てそう問いかけた。

「バウ」

 魔雪の問いかけに頷く狼。理解しているようだ。

「お、なら話は別だね……いい? 肯定の時は右前足。否定の時は左前足を挙げて」

「バウ」

 狼は頷きながら右前足を挙げた。

「えっと、それじゃ……俺に何か用?」

「バウ(肯定)」

「んー……俺じゃなきゃ駄目?」

「バウ(肯定)」

「次は……って、これ全部、YESかNOで答えられるような質問にしないと駄目なんだね」

 質問を考えるだけでも大変だ。仕方なく、別の方法を探すことにする。

「言葉はわかるんだよね?」

「バウ(肯定)」

「文字は書ける?」

「クゥン(否定)」

「じゃあ、文字は読める?」

「バウ(肯定)」

 それならばと魔雪は地面にモグボルーツの文字を書いて行く。日本でいう五十音だ。

「これでよしっと……じゃあ、お願いね」

「バウ(肯定)」

 狼も魔雪の狙いがわかったのか、文字の上に右前足を置いて行く。こうすれば、狼の言いたいことが文章でわかる、というわけだ。

「な、か、ま、い、っ、し、ょ、に、い、き、た、い……仲間になって一緒に行きたい?」「バウバウ!!(肯定肯定肯定肯定)」

 やっと通じたのが嬉しいのか、狼は右前足を何度も挙げて尻尾を振る。

「一緒にかぁ……んー」

 確かに、この狼は強い。魔雪の攻撃を喰らっても今のように元気よく飛び跳ねられているのがその証拠だ。それに、スピードならば魔雪の全力(靄を纏わせた両足で跳んだ後、両手に靄を纏わせてジェット噴射のように低空飛行する移動方法)を遥かに凌駕している。そして、言葉が通じるのが最も、大きい利点だ。意思疎通できないとお話しにならないのだから。全ての点を踏まえて魔雪は狼が仲間になってもいいと思っている。

「でもなぁ……ルフィがなんて言うかなぁ?」

 しかし、問題はもう一人の仲間である超弩級変態エルフだ。さすがに魔雪の独断で決めていい案件ではない。

「仕方ないから。今日は一緒に連れて帰って明日、ルフィに聞いてみよう」

 気分は捨て犬を拾って母親に飼ってもいいか許可を取りに行く子供だ。

「それじゃ、いこ」

「バウっ!!」

 まだ借りとは言え、一緒に行けることが嬉しいのか黒い狼は嬉しそうに吠えて魔雪の隣を歩く。

 それから、近づいて来る魔獣を狼が暗殺(暗闇に紛れることが出来るので背後を取って一気に頭をかみ砕く)してくれたので魔雪は楽々、森を抜けることが出来たのだった。


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