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第1章と同様、書き終わったら投稿する形になります。
第1章は1日に何度も投稿していましたが、ここからはそこまで更新できないと思いますのでご了承ください。
モグボルーツ。この世界は地球とは全く、違う世界だ。
この世界と地球の最も大きな違いは大気や生物の中には魔力が巡っており、それを利用して魔法を駆使できる出来ることだろう。
そして、冒険者という職業があり、その冒険者にはギルドカードが支給される。ギルドカードには持ち主の情報とスキル、称号が随時、更新されている。ただし、その情報は本人しか見ることが出来ない。唯一の例外は犯罪者になることか、ランクS以上の冒険者になることだ。
そんなファンタジーな世界でも、意外に地球――いや、日本の技術は伝わっている。日用品はもちろん、家電製品も多く一般家庭に普及しているのだ。ただし、たまに間違って伝わっている製品もあるが。
何故、日本の技術が伝わっているのか。それは、この世界に召喚される勇者が伝えているからである。だが、この勇者はよく昔話などに出て来る勇者とは少しばかり違った点を持っている。モグボルーツを平和にするために召喚されたわけではないのだ。
遥か昔、モグボルーツにも極悪非道な魔王がいた。その魔王はモグボルーツを滅ぼそうとしていた。その計画を阻止しようにもモグボルーツの人々では太刀打ちできないほど魔王は強かったのだ。そこで、異世界から勇者を呼ぶことにした。呼ばれた勇者は魔王と何度も戦い、やっと魔王を倒してモグボルーツに平和をもたらしたのだ。
しかし、そこから、勇者の様子がおかしくなった。少しずつ情緒不安定になり、最終的には魔王にも引けを取らないほどの悪人となっていた。
それからだ。勇者が度々、モグボルーツに召喚されるようになったのは。召喚された勇者はミッションを与えられ、元の世界――日本に帰るためにミッションをクリアしようと躍起になった。誰もが日本に帰りたいと願い、やりたくもない悪事を働いた。そのせいで、モグボルーツはめちゃくちゃになり、今のように中途半端に日本の技術や文化が伝えられ、侵略されている。
何より、強制的に召喚されてしまった勇者たちにミッションを与えているのは初代勇者なのだ。勇者は強靭な肉体と強力なスキル、不老を手にしてモグボルーツに召喚される。だからこそ、初代勇者は今でも生きていて、勇者たちにミッションを与えている。その目的は不明。
では、勇者に太刀打ちできないのか。モグボルーツの人々では無理だろう。魔王と同じぐらい強いのだから。
だが――魔王なら、どうなのか?
「ルフィ、後どれくらいで着くの?」
「そうですねー……後、2週間ほどでしょうかね?」
「えー……遠いよ。何で、こんなに街と街が離れてるのさ……」
「ガルガは広いですからねー。他の地域はそこまで広くないんですが、ガルガだけは本当にヤバいぐらい広いですから」
「疲れたー。交代してー」
「前にチャーリーに乗せて貰いましたけど、どうしてそんなに優雅に乗れるんですか? 私には無理です。しかし、ペロペロさせてくれるのなら、考えましょう」
「はいはい、冗談じゃないのは知ってるけど、冗談はやめようねー」
チャーリーに乗って、何もない荒野をただ漕ぎ続けている感情の魔王、改め、勇崎 魔雪。そして、その後ろに乗って魔雪の体を触りながら興奮しているのはランクSSSの超弩級変態エルフのルフィア。
この2人はガルガの西の端にあるカルテンの街で鎧の勇者である勇崎 魔広を見事、内倒し、旅に出た。
あれから、3か月が過ぎ、色々な街に寄りながら適当に旅を続けている。まだ、目的地は決めていない。
「あーあ……本当に漕いでるだけなんて、暇だよー。魔王の体だから疲れなんて全くないんだけどさー」
「便利ですよね。その体。本当に疲れ知らずじゃないですか」
「でも、疲労はしなくても心労はするよ。なんか、漕がなくても進む方法ないかな?」
勇者を倒した2人だったが、正直、のんびりし過ぎている。魔雪に至ってはチャーリーを漕ぐことに飽きていた。まぁ、3か月以上、チャーリーを漕いでいたら無理もないが。
「……マユちゃんの闇魔法でチャーリーの後ろに向かって放出すれば前に進むのでは? ハンドルも闇魔法で制御すればいいわけですし」
「それだ!!」
魔雪のスキルで唯一の一般スキル。闇魔法。その魔法では吸収と放出を操ることができる。早速、魔雪はチャーリーの後ろに紫色の靄を纏わせ、後方に向かって放出。
「お? おお!!」
すると、ペダルを漕がなくてもチャーリーのスピードが上がった。すぐにハンドルが取られそうになったのでグリップ付近にも靄を纏わせ、性質を何度も切り替えてバランスを取る。
「これは楽だな!! ナイスだ、ルフィ!」
興奮のあまり、幼女し忘れる魔雪。彼は元の世界で演劇部に所属しており、演技をすることが好きなのだ。そして、その特技を活かして魔雪の知っている小説や漫画の中から戦闘シーンを抜粋し、演技して戦う演武演劇、という戦法を使う。演武演劇を使っている最中は魔雪の性格や口調も変わってしまうのが欠点だが。
「……口では簡単に言えますけど、実際に出来るマユちゃんは魔王ですね……」
ルフィアの言う通り、この世界の魔法には呪文などない。つまり、決まった形の魔法がないのだ。その代わり、魔法を使う際、魔法の形を頭の中に浮かべなければならない。自由度は高いが、コントロールが難しいのだ。そこで、ワードという技術が使われる。これは思い浮かべた魔法を杖や紙に登録してその登録した時に決めたワードを鍵に魔法を発動させるものだ。ワードのおかけで、一々魔法の形を思い浮かべずともすぐに魔法を使うことが出来る。
だが、魔雪は魔法を無意識に使える。そう、魔法の形を思い浮かべず何となく扱えるのだ。その結果、事実上、無詠唱魔法が使用可能となる。そして、彼のすごいところはその無詠唱魔法を同時にいくつも使えるところだ。本来、無詠唱魔法は使い慣れた魔法しか使えない。それは普段から使っているので魔法の形が体に染みついているからだ。
しかし、初めて使う魔法でも一瞬にして使えてしまう。正直、演武演劇も含めて化物染みた存在だった。
そんな無詠唱魔法を涼しい顔でいくつも同時発動し、『楽』と言えるのはおかしいのである。
「それにしても……男口調、はぁはぁ」
魔雪を化け物だと思っているルフィアも他の人からしたら化物である。彼女はエルフなので見た目以上に年を取っている。エルフは長寿なのだ。だからこそ、魔法の腕はピカイチで魔力量も凄まじいことになっている。
でも、そんな彼女でも欠点はある。もちろん、変態なところだ。
魔雪と出会った頃はロリコンなだけで、よく魔雪とスキンシップという名のセクハラをしていたが、魔広との戦闘後、魔雪のユニークスキルである最終形態の効果で男に戻っていた魔雪に一目惚れに近い形で恋に落ちた。そして、その時に魔雪の男姿はしばらく見られないと落胆していたところに魔雪は男の姿を見せてしまった結果、変態的な思考回路が『魔雪への愛情表現=襲う』、になってしまい、魔雪はいつでも男に戻れるのに戻るに戻れない状況になってしまった。
ルフィアも魔雪はピンチにならないと男に戻れないと勘違いしているので我慢していたが、この3か月で限界に近いのか、魔雪が男口調で喋るだけで口の端から涎が零れてしまう。その時の表情は誰にも見せられないようなものだった。魔雪はすでに諦めている。
「……はぁ」
後ろで頬を紅潮させ、息を荒くしている変態エルフを苦々しく思いながらギルドカードを取り出して情報を確かめる魔雪。
名前:勇崎 魔雪
性別:女
種族:感情の魔王(人間)
年齢:17歳
ランク:C
スキル:言語変換
演技
感情変換
闇魔法【Lv.60】
最終形態
称号:幼女魔王 吸血種キラー 天然ロリ 演武演劇役者 感情の魔王 狙われし貞操
「やっぱり、闇魔法のレベル、上がらないねー」
一般スキルにはレベルが設定されており、30を過ぎると上がりにくく特徴がある。それは魔王である魔雪もそうで、旅を始めてから3か月以上経っているのにも関わらず、レベルは1しか上がっていなかった。
「はぁはぁ……ハッ。そうですね、最近、気持ちが落ち込むことなんてなかったですから」
やっと我に返ったのかルフィアが魔雪に同意する。
感情の魔王専用ユニークスキル。感情変換。
このスキルは持ち主が抱いた感情を力に変換するスキルである。だが、スキルに適応する感情を抱かなければならない。魔雪の一般スキルである闇魔法に適応する感情は負の感情。絶望や怒り、憎しみなどである。
だが、この3か月の旅の中で事件らしい事件は起こっておらず、負の感情を抱くことはなかった。ルフィアに対しては呆れである。
「まぁ、今のレベルでも相当、レベルは高いですから大丈夫だと思いますよ? それにマユちゃんにはレベル、関係ないですからね」
「そうなの?」
「まぁ、威力などはレベルが高ければ高いほど上がりますが……マユちゃんの戦闘スタイルは靄を纏わせて吸収したり放出するだけなのでレベルが低くても制御できるんですよ。それを無詠唱でやるのとは話は別ですが」
つまり、魔雪の魔法は初級級の魔法なのだ。少し練習すれば誰にでも出来るような魔法。しかし、魔雪がすごいのはその靄の性質をコロコロと変えられる点である。しかも、無詠唱で。
「そうなんだ……あ、だからレベルが上がらないのかな?」
「いえ、魔法のレベルは魔法の複雑さではなく、どれだけ使ったか、なので使い続けていれば上がりますよ。道は長いですが」
「じゃあ、これからこうやって自動運転にすればオッケーだね」
「……魔力は足りるかなどという不躾な質問はしません」
魔王である魔雪の魔力はルフィアのそれを遥かに超えている。
「それじゃ、自動運転にもなったことだし、何かして遊ぼうよ」
「遊ぶと言っても遊び物など何も……ハッ! これは性的に遊ぶと言うことですね! わっかりました! このルフィア、マユちゃんを気持ちよ――」
「違うわ、変態エルフ」
「あふっ!? で、でも、罵られてるのに、男口調のマユちゃんだからかな? き、気持ちいい! もっと罵倒してぇ!!」
「……落とすぞ?」
ルフィアは魔雪の闇魔法で固定して貰っているので、魔雪が闇魔法を解除すればすぐに落ちるだろう。
「す、すみませんでした!!」
魔雪は感情の魔王である。更に演劇をしていたことから、表情や声音、その場の雰囲気を巧みに操り、幼女な姿でも相手に恐怖を与えることが出来る。その証拠にルフィアは涙目になって頭を下げた。
「……はぁ。それで? 何して遊ぶ?」
「そうですね……すみません、何も思いつきません」
「そっか。まぁ、チャーリーに乗りながら遊べる物なんて……」
そこで、魔雪は閃いた。
「……ねぇ、ルフィ」
「何ですか?」
「……TRPGって知ってる?」
TRPG――テーブルトークロールプレイングゲーム。ゲームマスターとプレイヤー、そしてサイコロがあればどこでも出来るゲームのことである。サイコロすらいらないゲームもある。基本的に話しながら進めるゲームで、ロールプレイも演劇の役に立つので、何度か部活の仲間と一緒にしたことがあるのだ。
「何ですかそれ?」
「えっとね――」
2人の旅はまだ始まったばかりである。




