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幼女魔王の演武演劇  作者: ホッシー@VTuber
第1章 幼女魔王の演武演劇
3/64

「あれが原因だな……」

 空間の歪みに飲み込まれた彼が目を覚ましたら、幼女になっていた。ついでにエルフが気絶した。

(……わけがわからない)

 魔雪はため息を吐いて周りの様子を確かめてみた。何の変哲もない部屋だった。一つ言えることは窓が一つもないことぐらいである。

「ん?」

 振り返ってみると木製の扉が一つだけあった。あそこが出口らしい。

「……はぁ」

 まぁ、全裸のまま、あそこから出て行く勇気は魔雪になかったのでエルフを起こすことした。

「おーい」

 ぺちぺち。

「う、うーん……」

 頬を軽く叩いてもエルフは目を覚まさない。

「……ぎゃおー、食べちゃうぞー」

 エルフが気絶する寸前にそんなことを言っていたので脅してみた。

「い、いやああああああああああああああああああああ!?」

 すると、エルフは目を見開いて凄まじい勢いで魔雪から距離を取る。

「……おはよう」

「食べないで食べないで食べないで食べないで食べないで食べないで食べないで食べないで食べないで食べないで食べないで食べないで」

 頭を抱えてプルプルと震えるエルフ。挨拶しても返事などなかった。

「いや、食べないから」

「私、痩せてるから筋張ってて美味しくないです! ここの領主さんはデブなので美味しそうです! 食べるならそっちがいいです!!」

 このエルフ、結構、酷い奴だな、と魔雪は呆れてしまう。

「だから、食べないってば! そんなこと、普通の人間ならしないでしょ!!」

「魔王はエルフが好物だって聞きましたよ! だから、私を食べるつもりなんですよね!?」

「食べないって何度も……ん?」

 どうしようか悩んでいた彼だったが、エルフの発言に聞き捨てならぬことがあって首を傾げた。

「魔王?」

「魔王です! 魔王である貴女は私を食べるんですよね!?」

「……俺、魔王じゃないよ?」

 魔雪は幼女になったが、人間を止めたつもりはなかった。

「……ホント、ですか?」

 やっと、顔を上げて魔雪を見たエルフ。しかし、まだ怯えているようで体は震えていた。

「ほら、こんな幼女が人を食べるわけないじゃん」

 ちょっと自虐的になってしまったが、彼女を落ち着かせるためには仕方ないと彼は無理矢理、納得する。

「……可愛いですね」

「ぐはっ!?」

 だが、他人からそう言われた魔雪の心に精神ダメージが入った。膝から崩れ落ちる。

「だ、大丈夫ですか!?」

 四つん這いになって落ち込んでいる魔雪にエルフは走り寄った。

「あ、ああ……」

 エルフに支えて貰いながら何とか、彼は立ち上がる。

「よかったです……あ」

 そこで自分が魔雪に触れているとわかったのかまたエルフが震え出した。

「この魔力……やっぱり、魔王じゃないですかああああああああああああああああああ!!!」

 そして、またエルフを落ち着かせる作業に戻った。







「すみません、取り乱してしまって……」

 やっと、落ち着いたエルフは申し訳なさそうに魔雪に頭を下げる。

「いや、いいんだけど……何か着る物、ない? そろそろ風邪、引きそう」

「あ、はい。では、このローブをどうぞ」

「のわっ!?」

 何もないところから服が出て来て彼は驚いてしまった。

「どうしたんですか?」

 真っ黒なローブを差し出しながらエルフが首を傾げる。

「だ、だって……今、ローブが勝手に……」

「は?」

「……まぁ、いいや。とりあえず、後で説明して貰うね」

 真っ黒なローブを受け取って着た。

「……でかくない?」

 着てみてわかったが、ローブは今の魔雪にとって大きすぎた。袖は余っていて指先しか出ていないし、裾も余りに余って歩いたら引きずることになるだろう。そして何より、ローブの中は全裸なので逆に恥ずかしくなってしまった。何だか、全裸のままコートだけを着て外を徘徊している露出狂にでもなった気分である。

「今、私が持ってる中で一番、小さい物だったのですが……可愛いですね」

「がはっ!?」

 実は幼女になってしまったことを魔雪は意外にも気にしていた。なので、『可愛い』と言われると精神的ダメージを受けてしまうのだ。

「あぁ……可愛い。このまま、持ち帰りたいです……はぁはぁ」

 フラフラしている魔雪に気付いていないのか、エルフは顔を紅くして彼のことをジッと見つめていた。傍から見たら変態としか思えないだろう。

「あ、あのさ……そろそろ状況を説明してくれない?」

「はぁはぁ……ハッ! じょ、状況ですか?」

 魔雪の言葉でやっと我に返ったエルフだったが、何を言っているのかわからないようでまた首を傾げた。

「だから、状況だよ! どうして、俺は幼女になってるの?」

「は? 魔王様は最初から幼女だったんじゃないんですか?」

 それから数秒間、魔雪とエルフは見つめ合う。しかし、何もわからなかった。

「……待って。何か、お互いに変な先入観に捕らわれてるみたい。とりあえず、自己紹介でもしようよ」

「そうですね。私はルフィア……です。エルフ族です」

 エルフ――ルフィアが笑顔で自己紹介した。

「勇崎 魔雪だ」

「……え? それだけですか? 『なんちゃらの魔王である!』とかないんですか?」

「まず、俺は人間だよ」

「またまたー! 冗談はよしてくださいよー! そんな魔王特有の魔力を撒き散らしながら何を言ってるんですかー!」

「……何も考えずに俺の話を聞いてくれない? 魔王がどうとか、関係なく」

 ルフィアは完全に魔雪を魔王と勘違いしている。そう判断して、今までにあったことを話すべきだと魔雪は判断した。

「? はい、わかりました」

 頷いた彼女を見て、手短に空間の歪みに飲み込まれたことを話す。最初は笑顔だったルフィアだったが、どんどんその笑顔を失くして行き、今は困惑の色に染まっていた。

「待ってください……整理しますと、マユちゃんは男の子で『チキュー』の『ニホン』という場所に住んでいて友達と話しているとその空間の歪みに飲み込まれてしまった。そして、目を覚ましたら私がいた、と」

「うん、それと幼女になってた」

「『ニホン』にはエルフはいなかったんですよね? 後、魔力も」

「なかったよ。こんな幼女になる魔法なんてなかったもん」

 相当、幼女になったことを根に持っているようだ。

「じゃあ、マユちゃんは男の時もそんな話し方だったんですか? なんか、あまりにも子供っぽいというか……女の子っぽいというか……」

 ルフィアの言う通り、魔雪の口調は普段のそれとは違い、子供のような話し方になっていた。

「あー……ゴメン。これ、癖なんだよ」

「癖?」

「演劇って知ってる?」

 魔雪もすでにこの世界が自分の知っている世界とは違い場所だと察していたのでそう質問した。

「はい、演劇ならありますよ。演技して物語をお客さんに見せるんですよね?」

 『あれ、見ようとすると高いんですよねー』と苦笑いするルフィア。

「俺はその演劇が趣味だったの」

「ええ!? じゃあ、マユちゃんは女優だったんですか?!」

「俳優だよ!! これでも主役とか何度もやってるんだからね!!」

 どうやら、ルフィアはまだ魔雪が男だったと信じていないようである。

「……話を戻すよ? その演劇で色々な役をやってたんだ。その役毎に口調が違うのはわかるよね?」

「そうですね。全て同じ口調でしたら面白みないですよね」

「で、色々な役をやってたら、自分の格好に合った口調になっちゃう癖が……」

「自分の格好に合った口調?」

「衣装だよ。王子様の衣装とか、盗賊の衣装、騎士の衣装……色々な物を着て演技してる内に演技をしてない間もその衣装に合った口調になっちゃってたんだ……」

 それに気付いたのは一昨年の文化祭である。中学3年生で中学校生活最後の演劇だったため、熱が入り、ずっと練習している間に癖が付いてしまったのだ。それ以来、衣装を着た瞬間、口調が変わってしまっていた。

 それは今の幼女姿でも同じで幼女のような話し方――子供っぽい話し方になっているのだ。何とか、自分のことは『俺』と言っているが、油断していたら『私』と行ってしまいそうだった。

「へぇ……つまり、マユちゃんは今、幼女の演技をしてるのですか?」

「しようとは思ってないんだけどね……だから、中途半端な口調になってるのかも」

「じゃあ、本気で幼女してみてください」

「……何で?」

「興味があるからです」

「……わかった。でも、一回だけだからね?」

 普通の人ならば断わるが、演劇中毒者である魔雪は『演技して!』と言われると断れないのだ。

 少しだけルフィアから距離を取った魔雪は落ちていた杖を胸に抱える。



「……お、お姉ちゃん。そ、その……雷が怖くて、眠れないの。だから、ね? 一緒に、寝てもいい?」



 そして、ルフィアを見上げながらそう言った。目には涙が溜まっている。目に涙を溜めることなど、魔雪にとって容易いことだった。

「ッ!?」

 そんな魔雪を見たルフィアは衝撃を受けた。

 抱えている杖が枕に。真っ黒なローブが可愛い柄のパジャマに見えたのだ。

(よしよし……幼女役も出来そうだな)

「……ッ!?」

 魔雪が自分の迫真の演技に納得しているとガシッと肩を掴まれて思わず、杖を落としてしまった。

「……る」

「え?」



「一緒に寝るぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!」



「あ、ちょっ! きゃ、きゃああああああああああああああ!?」

 ルフィアは中学生ほどの身長だ。幼女である魔雪でも抱えるのは大変だろう。

 しかし、この時のルフィアは何かに捕らわれていた。火事場のバカ力とでもいうのだろうか?

 とにかく、暴走状態に陥ったルフィアは魔雪を脇に抱えると一つしかない木製の扉をぶち壊して階段を上った。

(俺がいた場所は地下室だったのか!?)

 そう理解した束の間、ルフィアは階段を上り切り、すぐに別の部屋に入った。

「わっ!?」

 部屋に入った途端、ぽいっと投げられる。なす術もなく背中から何か柔らかい物に着地する。

「こ、これベッド!?」

 ベッドに投げられたと思った瞬間、着ていたローブが消える。

「……へ?」

「マユちゃーん! 寝る前にパジャマに着替えましょうねー!」

 振り返ると真っ黒なローブを持ったルフィアがピンクの可愛らしいパジャマを魔雪に差し出していた。

「お、落ち着けって!」

 さすがに癖の口調が消える。それでもルフィアは止まらない。

「雷なんかこわくないからねぇ! 私が一緒に寝てあげるから!」

「や、ちょ、やめろって!」

 パジャマを無理矢理、着させようとするルフィア。必死に抵抗する魔雪。しかし、体格の差でとうとう、魔雪はパジャマを着せられてしまう。

「ちょ、ちょっと!」

 暴れる魔雪を抱えてルフィアはそのままベッドに潜り込んだ。

「大丈夫だよ。よしよし。イイ子だねー」

「だから、さっきのは演技だって、ば……」

 変態エルフから何とか、逃げようとした魔雪だったが、頭を撫でられている内にだんだん、眠くなって行った。

「お、れは……おと、こだって……言って、る、だ……ろ」

「マユちゃんは、イイ子だねー。よしよし」

「や、め……」

 そこで、魔雪は意識を手放してしまう。

「……すぅ」

 そして、すぐにルフィアも寝てしまった。


あ、ルフィアさんはロリコンの変態です。

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