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幼女魔王の演武演劇  作者: ホッシー@VTuber
第1章 幼女魔王の演武演劇
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「ま、マユちゃん……その姿……」

 男になった魔雪を見てルフィアは思わず、声をかけてしまう。

「俺は大丈夫。あ、そうだ。ルフィ、少しお願いがあるんだけど」

「お、おい! 何だよ! 真の姿って!?」

 ルフィアに頼みごとをしているとやっと勇者が我に返り、そう叫んだ。

「お前、どこから召喚された?」

「は? 日本だけど」

「じゃあ、ゲームとかになかったか? やられそうになったら姿を変えるラスボス」

「……はぁ!? あれと同じってか!?」

「そうだよ。俺は感情の魔王なんだからな」

 そう言って魔雪はルフィアを地面に降ろす。

「さぁ、第二ラウンドと行こうじゃねーか。鎧の勇者さんよ?」

「……ああ、そうしようぜ。感情の魔王さん」

 そんな会話が交わせた直後、2人の姿が消えた。そして、部屋の中央付近で拳と剣が激突する。

「……マユちゃん」

 あんなにぶかぶかだったローブをマントのように着ている魔雪を見てルフィアは無意識の内に呟いた。因みに魔雪はローブの下に学校の制服を着こんでいる。

「……私も頑張らなくちゃ」

 そこでルフィアは震える足に鞭を打って魔雪に頼まれた仕掛けを仕込みに向かった。








「なるほど。幼女だった頃より出来そうだな?」

「決まってんだろ? 最終形態だからな」

 何度も拳と剣をぶつけ合う2人は笑っていた。勇者は強者と戦えることに、魔雪は――魔王を演じられることに喜びを感じているからだ。

「ぐっ……」「ちっ……」

 勇者の剣を受けて吹き飛ばされた魔雪は悪態を吐き、吹き飛ばされただけで済んだ魔雪を見て勇者は舌打ちを打つ。そこで、お互いに睨み合いになった。

「……確か、お前、教えてくれたよな?」

 その睨み合いは魔雪が話しかけて止む。

「何を?」

「スキルだよ。絶壁だっけ? 教えてくれたよな?」

「あ、ああ……」

 突然、そんなことを確認して来たので勇者は困惑しながらも頷いた。

「じゃあ、お返しに俺の秘密も教えてやる」

「……ほう?」

 秘密と聞いて勇者は少し、魔雪の話に興味を持った。




 それが、魔雪の演技の効果だと知らずに。




 勇者は魔雪の演技に飲まれている。話を聞こうと思うように。つまり、勇者は『魔王の話を聞いてやろう』と思うように誘導されているのだ。そう、声音や態度、場の雰囲気を巧みに操って誘導した。

「まぁ、秘密って言っても闇魔法についてだけどな」

「あ? 何だよ。ユニークスキルについて教えてくれねーのか?」

「今は関係ないからな。でも、この闇魔法って結構、面白いんだ。お前はどんな魔法だと思う?」

「引っ張ったり、反発したりするんじゃねーのか? そんな感じがしたぞ?」

 今まで戦って来て思ったことを言う勇者。

「おお、よくわかったな。そうそう、引力と斥力だ」

 魔雪はそれを聞いて思わず、感心してしまう。さすが勇者だと。

「俺もそう思ってたんだよ。引っ張ったり、反発したり……そんな魔法だと思ってた」

「……違うのか?」

「勘違いしてたんだよ、これが。引力や斥力じゃなかったんだよ。勘違いしたまま、よく魔法なんか使えたよな。笑っちまうよ」

「どういうことだ?」

「俺は最初、闇と聞いてブラックホールを思い浮かべた」

 ブラックホールは光さえも脱出出来ないほど重力が強い。光すら抵抗できないからブラックホールを闇だと思ってしまった。それが間違いだった。

「ブラックホールは所詮、重力の塊なんだよ。闇とは無関係」

「それじゃ、闇ってのは何だよ?」

「……俺がお前に斬られて壁に叩き付けられた後、気絶した。そして、次に感じたこと……真っ暗な中、何かに吸い込まれそうな感覚。それが答えだよ」

 そう言って魔雪は右手を前に突き出し、靄を発生させた。

「ッ!?」

 その時、勇者は何かに引っ張られる感覚に陥る。いや、違う。引っ張られるではない。吸い込まれそうになった。

 その証拠に周りに落ちていた石が魔雪の方へ移動している。

「吸収……それが闇魔法の正体だ」

「吸収? じゃあ、あの反発する力は?」

「吸収が出来るんなら、放出することだって出来るだろ? 言っちゃえば、衝撃波だな」

 今まで、使っていた引力や斥力は実際には吸収と放出だった。まぁ、動きはほぼ同じなのでずっと気付かずにいたのだろう。

 しかし、引力と斥力。吸収と放出は全く違う。動きは似ていても全く違う力なのだ。

「……それで? そこまで教えてくれた理由を聞こうか?」

「言っただろ? お返しだって。スキルを教えてくれたことと――今までやられた分のな?」

「……ッ」

 そこでやっと勇者は魔雪の目的に気付き、ルフィアがいた場所を見る。しかし、そこにルフィアはいなかった。

「何だよ、これ!?」

 だが、それ以上に衝撃的な光景がこの部屋全体に広がっていた。





 部屋全体が――氷漬けになっていた。隙間一つなく。





「マユちゃん! オッケーです!!」

「よし! 行くぞ、ルフィ!!」

 勇者がその光景に呆然としている間にルフィアが魔雪の隣に着地した。その体に傷はない。回復魔法で全て治してしまったのだ。

「ちょっと時間稼いでください」

 そう勇者に聞こえないようにルフィアが魔雪に言って目を瞑り、瞑想し始めた。

「……勇者、もう一つだけ教えてやるよ」

「え?」

「正直、引力と斥力。吸収と放出をそのまま、使えば動きはそんなに変わらない。でもな? 吸収と放出は別の用途にも使えるんだよ」

「別の……用途?」

「吸収……物体を吸収。光を吸収。そして――」

 言葉を区切り、勇者の頭上を見上げた。その視線を追って勇者も真上に顔を向けて目を見開く。

「な、何だぁ!?」

 その視線の先には巨大な水の塊が浮かんでいたのだ。

「≪ポセイドン≫!!」

 そう、ルフィアの魔法だ。≪ポセイドン≫は普通、敵が集まっている場所に展開して流してしまう上級級魔法である。それを勇者一人に使ったのだ。

「いっけええええええええ!!」

 叫びながら≪ポセイドン≫を操って勇者に落とすルフィア。

「くっそおおおおおおお!!」

 物理攻撃、魔法攻撃を無効化しても無効化出来るのは物理攻撃の威力や魔法の効果だけだ。つまり、土魔法で作った岩や今のように水魔法で作った水は消すことが出来ない。

 このことを魔雪は知っていた、と言うよりも実験して発見した。

 あの≪アクアバレット≫である。あの時、魔雪は魔法で生み出した水の弾を勇者にぶつけて水が消滅するか確認したのだ。

 だからこそ、勇者は焦った。もし、このまま水を放っておけば勇者は水に飲み込まれて息が出来なくなってしまう。息を止めていても今、この部屋は氷で密閉されている。きっと、あの空間を固める魔法で補強しているはずだ。そんな部屋の中で≪ポセイドン≫を使い続けられたら、いずれこの部屋は水で一杯になり、結局、溺死してしまう。

「ぶっ飛べええええええ!!」

 右手を天井に向けて特大の火球を飛ばす。全ての水を蒸発させようとしたのだ。その結果、火球はほとんどの水を蒸発させ、水蒸気に変えた。そして、蒸発し切れなかった水が雨のように勇者に降り注いだ。

「――熱を吸収する」

 そこへ、魔雪が飛びこんで来た。そして、勇者に向けて両手を翳す。





 ――パキッ!





 その刹那、勇者の鎧が氷漬けになった。

「なッ!?」

「熱を吸収するとな? 物体は凍るんだぜ? ほら、汗を掻いた後、涼しくなるよな? あれは汗が蒸発する時、肌の熱を奪うからなんだ。知ってたか?」

 魔雪の闇魔法は吸収を操る魔法。そして、放出することも出来る。

 更に吸収をする対象を熱とした時、その物体を凍らせることが出来るのだ。

 この時、魔雪は勇者の周囲の熱を吸収した。つまり、勇者の周りだけ気温が氷点下まで下がったのだ。鎧の熱を吸収して氷漬けにしなかったのは絶壁のせいで、その魔法を無効化されてしまうからである。

 勇者が水浸しだったのも原因の一つだ。そのせいで、勇者の鎧には氷の塊がいくつもくっついていて動きを阻害していた。

「氷が何だあああああああ!!」

 だが、勇者は自分自身を炎で包むことで氷を強制的に融かす。

「ルフィ!」

 魔雪はルフィアに声をかけながらジャンプする。両足に靄を纏わせて放出したことにより、部屋の天井付近までジャンプすることが出来た。

「≪ポセイドン≫!」

 ルフィアがワードを唱えると魔雪の目の前に巨大な水の塊が出現する。それに両手を翳して熱を吸収した。

「今度は氷か!!」

 氷山のような氷の塊が落下して来ていることに気付いた勇者は自分を包んでいた炎を火球に変えて氷の塊を壊す。

「吸収」

 氷のつぶてが降り注ぐ中、いつの間にか勇者の背後に回り込んでいた魔雪はまた勇者の周囲の熱を吸収して氷漬けにしたのだ。

「くそっ……面倒な」

 氷漬けにされたなら融かせばいい。すぐに勇者は炎で鎧の氷を融かした。

「≪サイクロン≫! ≪ポセイドン≫!」

 炎に包まれている勇者の周りに突如、竜巻が発生し、その竜巻に水の塊が衝突する。その途端、竜巻に水がまき込まれてしまった。

「吸収」

 そして、その熱をまた魔雪が凍らせる。勇者は氷の竜巻に捕らわれてしまったのだ。

「こんなのっ!」

 火球で氷の竜巻を破壊する勇者。すると、氷の竜巻が崩壊し、勇者の上に降り注いだ。

「こんなのっ!!」

 もう一度、火球を飛ばして落ちて来た氷を吹き飛ばしてしまう。

「――チェックメイト」

 勇者の右隣にいつの間にか立っていた魔雪は勇者の鎧を氷漬けにして詰みを認めさせる。

「……は?」

 ただ氷漬けにされてただけなのに、勇者はチェックメイトと言われて放心してしまった。

「あ、そうそう。逆に熱を放出するとどうなるか。教えてやるよ。ズバリ、温かくなる、だ」

 そう言い残し、左手を勇者の鎧に向けて熱を最大出力で放出。

「あちっ……」

 凄まじい熱気を感じて勇者は咄嗟にその場を離れる。氷が一瞬にして融けてしまうほどの熱気だったのだ。




 ――パキッ!





「……え?」

 その音は勇者の近くで聞こえた。しかし、氷が割れる音ではなかった。氷はすでに融けてしまったのだから。

「な、何で……」

 音の正体を確かめようと自分の体――いや、鎧を見て目を見開いてしまう。

「何で、俺の鎧に皹が!?」

 勇者の鎧に皹が入る音だった。

「金属の熱疲労……金属を温めたり、冷やしたりを繰り返した結果……その金属に皹が入る。それが原因だよ」

 鎧を見て愕然としている勇者に親切丁寧に説明する魔雪はすでに勇者の目の前に立っていた。

「あと、チェックメイトの意味ってさ? 相手が完全に詰みになった時に宣言するんだ。つまり、あの時――すでにお前の負けは決まっていたんだよ。そんな鎧じゃ絶壁、発動しないんだろ?」

「ッ?! くそっ、くそっ!!」

 悪態を吐きながら出鱈目に剣を振るう勇者。それを魔雪は冷静に躱す。

「それじゃ、ゲームセットだ。罪を認めろ、勇者」

 右腕を引いて一気に勇者の胸に向かって拳を突き出す。靄を纏った魔雪の拳は勇者の鎧を砕き、吹き飛ばした。

 だが、それだけで終わる魔王ではない。

 左手を飛んで行く勇者に向けて吸収。その吸引力に逆らうことは出来ず、勇者の体は魔雪の方へ戻り始めた。

「ッ!!」

 両腕をギュッと組んでタイミングを見計らい、勇者に振り降ろす。

「ガッ!?」

 魔雪の攻撃を背中に喰らって、勇者は地面に叩き付けられる。放出による衝撃波が凄まじく、地面が抉れた。そのまま、勇者は動かなくなる。やはり、鎧に皹が入ると絶壁が発動せず、魔雪の攻撃に耐えられなかったのだ。

「……ルフィ」「……マユちゃん」

 地面に倒れている勇者を見て魔雪とルフィアはほぼ同時に右手を挙げる。





「やったな!!」「やりましたね!!」





 そして、勝利のハイタッチを交わした。


部屋を氷漬けにしたのは、水蒸気を外に逃がさないためです。


そこら辺の説明は次回に出来ると思います。

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