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幼女魔王の演武演劇  作者: ホッシー@VTuber
第1章 幼女魔王の演武演劇
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 真っ暗だ。

 魔雪は最初、そう思った。

 何も見えない。闇の中。吸い込まれてしまいそうな闇。

「……ぐっ」

 その闇に吸い込まれそうになっていると全身に痛みが走り、目を開けた。

「ガハッ……」

「意外に頑丈なんだな、エルフって」

 視線を声のした方に向けるとルフィアが勇者の膝蹴りを受けてその場に蹲っているところだった。

「ル、ル、フィ……」

 起き上がろうとするが、その途中で力尽き、また地面に伏してしまう。

「くそっ……」

 まさか、ここまで勇者が強いとは思っていなかった。魔雪は思わず、目から涙を零してしまう。

(何が、魔王だよ……何が、勇者に唯一対抗できる存在だよ……何が、世界を救うだよ。全力で戦ってこんな体たらくじゃ世界なんか救えるかよ……)

 そして何より、ルフィアが傷つけられているのをただ見ていることしか出来ないのが悔しかった。

 もっと、力があれば。

 もっと、強ければ。

 もっと――

 もっと――。

 もっと――。

 そんな中、魔雪は目の前に自分のギルドカードが落ちているのに気付いた。

(何が、幼女魔王だ……)

 このまま、自分たちは勇者に殺されるだろう。でも、最期くらいギルドカードを見ておこうと思い、魔雪はギルドカードに手を伸ばし、情報を見た。





名前:勇崎 魔雪

性別:女

種族:感情の魔王(人間)

年齢:17歳

ランク:C

スキル:言語変換

    演技

    感情変換

    闇魔法【Lv.50】





「ははっ……」

 まさか、闇魔法のレベルがここまで上がっているとは思わず、乾いた笑いを漏らしてしまう。もう、諦めてしまっているのだ。

(レベルが上がっても勇者は倒せないんだよ……あ、称号はどうなってんだ?)

 そこで、称号を見忘れていることに気付き、のん気にギルドカードを見直した。




名前:勇崎 魔雪

性別:女

種族:感情の魔王(人間)

年齢:17歳

ランク:C

スキル:言語変換

    演技

    感情変換

    闇魔法【Lv.53】

称号:幼女魔王 吸血種キラー 天然ロリ 演武演劇役者




「は?」

 ギルドカードを見て変な声を上げてしまった。

(何で……闇魔法のレベルが3も?)

 一般スキルのレベルは30を超えると上がりにくくなる。しかも、レベルが上がれば上がるほどレベルは上がり辛いのだ。魔雪もそれは身を持って知っている。だからこそ、数秒で3もレベルが上がったことに驚いたのだ。

(見間違い?)

 そう思いながらまたギルドカードを確認する。




名前:勇崎 魔雪

性別:女

種族:感情の魔王(人間)

年齢:17歳

ランク:C

スキル:言語変換

    演技

    感情変換

    闇魔法【Lv.55】


称号:幼女魔王 吸血種キラー 天然ロリ 演武演劇役者




 また、レベルが上がっていた。

(何だ……何だよ、これ)

 困惑しながらも魔雪は思考の海にダイブする。


 何故、闇魔法のレベルが上がったのか?


 何かが原因であると推測できる。


 では、その原因とは何か?


 今のところ、不明。しかし、今までにもこのような出来事があったため、何か因果関係があるはずである。


 なら、その因果関係とは?


 闇魔法のレベルが不自然に上がった時のことを思い出せばいい。そうすれば、共通点を見つけられるはずだ。


 一つ。ギルドカードを貰い、初めてステータスを見た時――。

 二つ。オークキングを倒して、ギルドマスターと出会い、話し合いをしていた時――。

 三つ。勇者にボロボロにされ、最期にギルドカードを確認しようとステータスを見た時――。


 じゃあ、この3つから推測できる共通点とは?


 一つ目は推測不可能。何故ならば、それまでに闇魔法のレベルが上がっていた可能性があるから。

 二つ目……オークキングを倒したからレベルが上がった。


 その推測は否。何故ならば、魔獣を倒してレベルが上がるならもっとレベルが上がっているはずである。


 三つ目……勇者と戦ったから。


 肯定しにくい。不確定要素が多すぎる。


「なら、何なんだよ……」

 自問自答するが、答えが見つからず悪態を吐く魔雪。その視線の先ではまだ闇魔法のレベルが上がっていた。

(これさえ……わかれば、あいつに勝てるかもしれないのにッ)

 そう思った矢先――レベルの上昇が止まった。

「……あれ?」

 闇魔法のレベルは丁度、59で止まっている。先ほどまで凄まじい勢いで伸びていたのにも関わらず、止まっていたのだ。

(何で……)

 そこで、やっと閃いた。


 闇魔法のレベルが上昇していた時と、今の違いを探せば原因がわかる。


 では、その違いとは何か?


「その違い……」


 なら、その違いとは何か?


「さっきと何が違う?」


 じゃあ、その違いとは何か?


 そこまで自問してふと、ギルドカードに書かれた文字が目に入る。

「……感情の、魔王」

 そう、魔雪は感情の魔王。感情を司る魔王。

「そうだ……俺の気持ちが、違うんだ」

 レベルが上がっていた時は、諦めていた。もう、死ぬんだと絶望していた。

 しかし、今は違う。まだ、負けていない。これさえわかれば勝てる。

 実は、魔雪の頭の中であの勇者に勝つ方法を1つだけ思い付いていた。だが、それを実行する前に倒されてしまったのだ。

「感情が違う……それが違う点」

「おらおらっ! まだ死ぬなよ! エルフ!」

「プ、≪プロテクト≫!!!」

 チラリとルフィアの方を見ると空間を固めて勇者の斬撃を防いでいる彼女の姿があった。直撃は避けているものの何度も地面を転がっている。

「ルフィア……」

 そうだ。魔雪は言ったのだ。まだ、諦めるなと。まだ、負けていないと。だからこそ、彼女は魔雪の言葉を信じて耐えているのだ。最期まで諦めずに戦おうとしているのだ。

「すまん、もう少しだけ耐えてくれ……」

 感情の魔王はたった一人の仲間に謝ってまた、考え始める。

「気持ち……感情……絶望……希望……」

 思い付く単語を口にして魔雪は考える。

「……絶望?」

 そして、ヒットした。


 一つ。ギルドカードを貰い、初めてステータスを見た時――。


 この時は絶望していなかったが、召喚された時、魔雪は幼女になっていて“落ち込んだ”。


 二つ。オークキングを倒して、ギルドマスターと出会い、話し合いをしていた時――。


 この時は絶望していなかったが、オークキングに襲われた時、魔雪は巨大な敵に“恐怖”した。


 三つ。勇者にボロボロにされ、最期にギルドカードを確認しようとステータスを見た時――。


 この時、ギルドカードを見た時、レベルは上昇していなかった。つまり、勇者にボロボロにされる前の出来事が原因。その原因とは?


 少女に小さいと言われて“ショックを受けた”こと。


 ……四つ。ギルドカードを確認している最中――。


 これこそ、勇者に負けて“絶望”していた。


 そう、魔雪の闇魔法のレベルが不自然に上がった時、全て負の感情を抱いていた。


 その負の感情が闇魔法のレベルを上げた?


「いや、違うッ!!!」


 全ての謎が解けて、魔雪はフラフラしながらも立ち上がった。

(何だよ……もうすでに答えは書いてあったじゃんか)

 そう思いながら魔雪はギルドカードに視線を落とす。




名前:勇崎 魔雪

性別:女

種族:感情の魔王(人間)

年齢:17歳

ランク:C

スキル:言語変換

    演技

    感情変換

    闇魔法【Lv.59】


称号:幼女魔王 吸血種キラー 天然ロリ 演武演劇役者




「感情変換」

 感情の魔王専用ユニークスキル、【感情変換】。これは持ち主の感情を力に換えるスキル。しかし、持ち主が持っているスキルに適した感情を抱かなければ変換できない。

 魔雪の持っているスキルは闇魔法。

 闇――負のエネルギー。

 それに適する感情は負の感情。

 悲しみ、苦しみ、怒り、憎しみ、恐怖。そして――絶望。

 そんな感情を抱けば抱くほど魔雪の闇魔法は力を増し、強くなる。絶望の中で成長する。

「何だよ……まるで、主人公みたいだな」

 やっと、謎は解けたがまだ体を上手く動かせない。このままでは、勇者に負ける。

「……主人公、か」

 何か策はないか思考を巡らせている中、自分の呟いた言葉を復唱した。

(俺は主人公になれないな……だって、魔王だし。主人公って言ったら勇者だろ……)

 魔雪は生粋の役者である。

 主人公を演じることもあれば、敵役を演じることだってある。

 そして、魔雪が関わって来た演劇のほとんどがハッピーエンドで終わる物が多かった。

 善である主人公が悪である敵を倒してめでたしめでたし。

「グハッ……」

「あぁ? もう、あの壁は出せないのかよ? つまんねーな」

 とうとう、ルフィアが≪プロテクト≫を使えなくなってしまった。魔力はまだありそうだが、集中出来ないのだ。

「……あれが勇者?」

 おかしい。あれが勇者――善だとは思えない。

「あ、そうか。そうだったのか」

 やっとわかった。

 魔雪は先入観のせいで魔王の自分は敵役。勇者を主人公役として演技していたのだ。

 その認識で何が変わるのか?

 決まっている。どちらが勝つかだ。

 敵役である魔雪が勝ってしまったらその演劇は成り立たない。何故ならば、ハッピーエンドで終わる演劇だからだ。つまり、ハッピーエンドになるためには魔王である自分は負けなければならない。

「何だよ。たったそれだけじゃんか」

 このまま演武演劇を使っても敵役である魔雪は負けてしまう。そう言う宿命だから。魔王だから。



 ならば、魔王が主人公の演劇にしよう。悪に堕ちた勇者を倒す物語だ。



 じゃあ、魔王の自分は魔王らしく、演技しようではないか。滑稽に見えるかもしれないが、俺が魔王を演じてやる。だから、負けろよ。勇者。お前が敵役なんだからな?




「くっ……くくくっ」

「……んあ?」

 魔雪の笑い声が聞こえたのかルフィアにとどめを刺そうとしていた勇者が不思議そうに魔雪の方を見た。

「どうした? 壊れちまったのか?」

「いや……違う。楽しくて仕方ないのだ」

「は? 楽しい? お前、マゾだったのか?」

「お前と戦えることにだよ。勇者」

「何だ? さっきと雰囲気が違うけど? 頭でも打ったか?」

 勇者は魔王を心配する演劇など見たことがない。しかし、魔雪にはどうでもよかった。それも台本の内だと思えばいいのだから。

「なぁ、勇者? 魔王についてどれぐらい知ってるか?」

「魔王について? なんか、強くて悪の権化とか?」

「……はは。あっはっはっはっは!!」

 勇者の答えを聞いて大げさに笑う魔王。

「……ホントに壊れたのか? まぁ、ならいいか」

 涙を流して笑っている魔雪を放置することにしたのか勇者は剣をルフィアに突き立てようとするが、ルフィアの姿がないことに気付いた。

「お前の探してる物はこれか?」

 そう言う魔雪の腕の中にはルフィアがいた。勇者と会話している最中に闇魔法で引き寄せたのだ。彼女はもうボロボロになっていて意識を保っているだけでも奇跡と言える。

「マ、ユちゃん?」

 魔雪を見上げてルフィアが彼の名前を呼ぶ。

「……さて、先ほどの答えを言おうか?」

 そんな彼女を放っておいて魔雪は演技を続ける。それだけでルフィアは彼が演技しているのだとわかり、安心した。魔雪が演技すると言うことは何か策があると知っているから。

「……何だよ」

 ルフィアを殺せなかったことが相当、気に喰わなかったのだろう。不機嫌そうに答えを促した。

「決まってる。魔王は、しぶといんだ。どれだけ仲間がやられようと、どれだけ侵略した国を取り戻されようと、どれだけ傷つけられようと!! 魔王は何度も復活し、勇者を倒すため、何度も戦いを挑む!! それが魔王だ!! そして――魔王には特技があるんだよ」

 感情変換の秘密を考えている間、魔雪はもう一つ、気になることがあった。




名前:勇崎 魔雪

性別:女

種族:感情の魔王(人間)

年齢:17歳

ランク:C

スキル:言語変換

    演技

    感情変換

    闇魔法【Lv.59】


称号:幼女魔王 吸血種キラー 天然ロリ 演武演劇役者




 闇魔法と称号に空白があったのだ。スキル一つ分入るほどの大きさの隙間が。



 そして、その空白は現在、すでに埋まっていた。













名前:勇崎 魔雪

性別:女

種族:感情の魔王(人間)

年齢:17歳

ランク:C

スキル:言語変換

    演技

    感情変換

    闇魔法【Lv.59】

    最終形態

称号:幼女魔王 吸血種キラー 天然ロリ 演武演劇役者 感情の魔王












「さぁ、見せてやろう。これが――」

 そう言った刹那、魔雪の体は真っ黒な瘴気に包まれた。

「マユちゃん!」

 それを見て叫んだルフィアだったが、少し違和感を覚える。

(あれ……私は瘴気に包まれてない? それに……マユちゃんの体が……)

 そこでやっと、魔雪を包んでいた瘴気が消え去り、彼女は目を丸くした。




 幼かった体は10代後半の男の体へ。

 ぶかぶかだったローブはピッタリに。

 ボロボロだった体はすっかり、元通りに。

 ルフィアを支える腕は――逞しかった。






「――感情の魔王、勇崎 魔雪の真の姿だ」







 そう言って笑う魔雪の姿は元の世界にいた頃の――男の頃の魔雪の姿だった。


マユちゃんが魔雪になりました。

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