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「ふんっ!」
靄が纏わり付いた魔雪の右拳にゴブリンが吸い寄せられて、魔雪の拳が直撃。その瞬間、凄まじい勢いで吹き飛ばされた。
「よっと」
その束の間、軽く地面を蹴る。もちろん、闇魔法の反発を使ったので3メートルほど跳んだ。
「ギャッ!?」
背後から剣を横薙ぎに振るったゴブリンが驚きのあまり、声を漏らした。驚愕で硬直している脳天に落ちて来た魔雪が着地する。
――ドンッ!!
たったそれだけでゴブリンの頭は砕け散り、即死した。しかし、着地したばかりの魔雪に3匹のゴブリンが一斉に飛びかかる。
「≪カッター≫!」
だが、横から飛んで来た風の刃に3匹共、一刀両断されてしまった。
「……これで全部?」
「はい、殲滅完了です。マユちゃん成分を補給しますね」
ため息を吐き、演技を止めた魔雪にルフィアが抱き着く。
「ルフィ、邪魔」
「そうおっしゃらずにー」
暴走状態になってしまったルフィアはどうすることも出来ないと今までの経験でわかっていたので、魔雪は好きにさせておく。
「それにしてもこのローブ、すごいよねー。何度も引き裂かれたのに次の日には直ってるんだから」
そう言いながら自分が着ている真っ黒なローブを見る。
魔雪が異世界に来てからすでに2週間が過ぎた。その間、ギルドで依頼を受けてお金を溜めている。旅に出るつもりなのだが、旅は何かとお金がかかる。しかも、カルテンは他の町と離れているようなので、長旅になるのだ。ギルドマスターの血を納品する依頼でかなり、稼いでいるのだが、あっても困らないので2人は次々と依頼を受けていた。
その中で魔雪は何度も魔獣から攻撃を受けた。ほとんどは闇魔法の反発で弾き返せるのだが、全てはカバーし切れず、ローブが引き裂かれてしまっていた。初めてローブが破れた日、魔雪は落ち込んでルフィアに謝った。そのローブは魔雪が異世界に初めて来た日にルフィアから貰った物である。友達から貰った物を傷つけてしまったのだからショックを受けてたのだ。
『え? あ、そのローブは自動修復機能が付いてるので大丈夫ですよ?』
しかし、謝った後、ルフィアはキョトンとしてすぐにそう教えてくれた。そして、次の日にローブを見てみるとすっかり、直っていたのだ。
『マユちゃん、どうしてそんなに喜んでるんですか? ただのローブですよ? 私から貰った物だから大切な物? そ、そんなぁ! 嬉しいこと言っても何も出ませんよ! あ、今日の晩御飯はマユちゃんの好きなコーンポタージュにしますね! ふふ、あぁ、マユちゃん……可愛いなぁ』
その日、ルフィアはいつも以上に気持ち悪かったそうだ。
「それ、実は私のお下がりなんですよね。師匠が初めてくれた物です」
「え? そんな大切な物、貰ってよかったの?」
「今の私では少し小さいですからね。まぁ、マユちゃんには大きすぎますが……ですが、マユちゃんのローブ姿、可愛いのでずっとそのローブを着続けてください!」
「……うん、大切にするね」
頬にすりすりして来るルフィアを放っておいて魔雪は改めて、周囲の状況を確認してみた。
(……これ、全部、俺たちがやったんだよな……)
魔雪たちの周りには30を超えるゴブリンの死体があった。今回の依頼は『ゴブリンの集落を滅ぼす』。ゴブリンは繁殖力が高く、放っておいたらとんでもない数にまで増える。そして、一斉に街に攻め込んで来るのだ。そのため、冒険者はゴブリンの集落を発見次第、その集落を滅ぼさなくてはならない。もし、力のない冒険者が見つけた時はギルドに報告し、強い冒険者に依頼として始末して貰うのだ。
「じゃあ、ゴブリンの死体を回収して帰ろっか」
「はい!」
元気よく頷いたルフィアだったが、離れる気配はない。魔雪はもう一度、ため息を吐いた。
「ギルドマスターにこれ、渡してください」
「了解ー」
ルフィアがゴブリンを買い取って貰うために別のカウンターに行っている間、アルに血の入った瓶を渡す魔雪。
「それにしても、大丈夫なの? 3日おきと言ってもこんなに血を納品して」
「うん、何か大丈夫みたい」
魔雪の体に異常はなかった。しかし、その代わりにギルドカードに変化があった。
名前:勇崎 魔雪
性別:女
種族:感情の魔王(人間)
年齢:17歳
ランク:C
スキル:言語変換
演技
感情変換
闇魔法【Lv.43】
称号:幼女魔王 吸血種キラー 天然ロリ 演武演劇役者
前、称号についてアルに聞いてみたがあまり気にするようなことでもないそうだ。ギルドカードが勝手に認識して登録するらしい。しかも、かなり適当な部分があるので変な称号も付くことがあるらしい。
因みにルフィアには【超弩級変態エルフ】。
アルには【ロリコンお姉さん】。
ギルドマスターには【魔王の血に魅られし者】。
と、言ったようにとてもじゃないが他人に言えない称号が付いていたりする。称号の話になった時にルフィアは嬉々として魔雪に話したが。もちろん、魔雪はドン引きした。
後、闇魔法のレベルは1しか上がっていない。魔雪のランクがCになった時、ルフィアが言っていたようにレベルが上がりにくくなっているのだ。
「でも、ギルドマスターは大丈夫なの? あんな……大変なことになるんじゃ?」
「うん、掃除が大変なの」
それだけで血を飲んだ後、ギルドマスターがどうなるのか想像出来てしまった。魔雪が魔王だと知っているのはルフィア、アル、ギルドマスターだけなので、ギルドマスターの股から迸った透明な液体を掃除するのは自然とアルになる。アルの話だと失禁はもうしないそうだ。
「俺が旅に出た後、どうするんだろう?」
「そこなのよねぇ……ギルドマスター、その問題に気付いてないみたいなの」
「え? 大丈夫なの? あんなに中毒になってるのに」
「その問題を指摘したらマユちゃんについて行くってまた騒ぎ出すから本人が気づくまで言わないでおくつもり」
「……なんか、血のストックが切れたら俺の居場所を突き止めて飛んで来そうだね」
魔雪の予言に思わず、アルは苦笑してしまう。あの人なら本当にやりそうだからだ。
「ま、血は確かに受け取ったわ。後で、マスターに渡しておくわね。はい、血液料」
「毎度ありー」
アルからお金を受け取った魔雪はニコニコしながらルフィアの元へ急いだ。
「あ、そうでした!」
ゴブリンも無事に買い取って貰い、家に帰る途中、ルフィアは突然、そう言った。
「どうしたの?」
ちょっとだけビックリした魔雪はルフィアの方を見上げて問いかける。余談だが、2人は手を繋いでいた。繋いでいると言うよりも、ルフィアが強引に魔雪の手を握っていると言ってもいい。魔雪は腕を上げていないのだ。親子が手を繋いで歩いている光景を思い出してくれればわかりやすいだろう。普通、子供は親と手を繋ぐ時、腕を上げている。だが、魔雪は全くと言っていいほど上げていないのだ。つまり、ルフィアは中腰になって魔雪の手を掴み、変な姿勢で歩いている、ということになる。
「マユちゃんはいずれ、旅に出るんですよね?」
「そのつもりだよ。元の世界に帰る方法を見つけるためにね」
「なら、移動手段が必要です。まだ暗くなるまで時間があるので少し見て行きましょうか」
「うん」
断る理由もないので、魔雪はルフィアの後について行った。
ギルドカードにランクを表示させました。
今まで投稿して来た方もランクを追記します。




