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幼女魔王の演武演劇  作者: ホッシー@VTuber
第1章 幼女魔王の演武演劇
19/64

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「これでよしっと」

 ギルドマスターの頬に付いていた引っ掻き傷に手を当てて回復魔法で治した後、ルフィアは頷く。

「ルフィー、ありがとー」

 ギルドマスターは苦笑いを浮かべながらお礼を言った。

 あれからしばらくして魔雪とルフィアがやっと喧嘩している2人に気付き、引き離したのだ。だが、気付くのが遅かったために2人はボロボロだった。すかさず、ルフィアが回復魔法で治療した。

「全く、2人は何で喧嘩してたの?」

 少し魔力を使い過ぎた(まぁ、一番消費したのは魔雪との模擬戦で使った≪サンダーストーム≫なのだが)ルフィアはアルに聞く。

「……その前に、いい?」

 しかし、アルはその質問に答える前に気になる点を指摘する。

「何で、マユちゃんを抱っこしてるの?」

 そう、ルフィアは魔雪を膝の上に乗せていたのだ。魔雪自身も嫌がっていたのだが、無理矢理、乗せられたため、もう諦めていた。

「だって、マユちゃんが可愛いんだもーん」

 そう言いながら魔雪の髪に顔を埋めてすりすりする。もちろん、くんかくんかも忘れない。

「ルフィ、紅茶が飲めない」

 透明な蟠りがなくなった時、魔雪はルフィアに『ルフィ』と呼んで欲しいと頼まれたのだ。拒否する理由もなかったので、彼はすぐに頷いた。

「えー、いいじゃないですかー」

「駄目だよ。ルフィの紅茶は美味しいんだから冷めないうちに飲みたい」

「きゅんっ……わかりました! 大人しくしてますね!」

 すっかり、ルフィアは魔雪に懐いていた。傍から見たら飼い主のことが大好きな子犬に見える。アルにもギルドマスターにもそう見えていた。

「……まぁ、これ以上は何も言わないわ。とりあえず、話し合いに入らない? あれからかなり時間、経ってるの」

 魔雪たちがギルドマスターに会ってからかれこれ2時間は経っている。

「そうだねー。話し合いを始めよっかー」

 魔雪について行くことを渋々だが、諦めたギルドマスターは自分の椅子に座って1枚の紙を取り出した。

「えっとー? 確か、魔王様はー、オークキングを1人で倒したんだよねー?」

「うん、そうだよ」

「んー……本当ならランクDに上げる予定だったんだけどー……」

 しかし、アルの話ではルフィアを追い詰めるほどの実力があるという。ランクDでは少し物足りないのだ。

「あれ? ランクBにはならないんだ?」

 てっきり、ランクBの魔獣を倒したからランクBになると思っていた魔雪はルフィアに質問する。

「まぁ、まぐれってこともありますから。なので、2つほど低いランクを与えるんですよ」

「でも、ルフィを追い詰めるぐらい強いんだからランクDより上なのよね……」

「それではー、ランクSに――」

「ギルドマスター! マユちゃんが魔王でも贔屓はいけません! ランクSはドラゴンを倒した人に与えられるランクですよ!」

「むぅ……知ってるよー。冗談だよー」

 実は本気でランクSを与えるつもりだった。

「じゃあー、魔王様にはランクCを与えますー!」

 そう言いながらギルドマスターは手元にあった紙に何かを書き込んだ後、ポンと判子を押す。これで、魔雪はランクCの冒険者となった。

「じゃあ、受付でギルドカードの更新をしましょう」

 話し合いも終わり、アルは部屋を出ようとする。

「あ、ちょっと待って」

 それをルフィアが止めた。

「ルフィ、どうしたの?」

「意見だよ、意見! マユちゃんが魔王だって聞いてどう思ったか聞いたじゃん!」

「……ああ」

 そう言えば、そうだったとアルは再び、ソファに座る。色々あったので2人の意見を聞き忘れていたのだ。

「ギルドマスターはどう思う?」

 魔雪はまず、ギルドマスターに質問した。

「そうですねー……私は公言しない方がいいと思うよー。魔人族はー、魔王様を崇めてるからー、下手したらボルガに連れて行かれるかもー」

「連れて行くなんて私が許しません!!」

 ギュッと魔雪を抱きしめながらルフィアが断言する。

「私はー、魔王様の幸せを願っているのでー、そんなことはしないよー。後で、血ください」

 しかし、欲望には忠実であった。

「いいよー。でも、あまり吸わないでね」

「大丈夫だよー。このビンいっぱいに血をくれたらー」

 ドン、と机の下から大きなビンを取り出してギルドマスターが笑う。2リットルは入りそうだ。

「……さすがに無理かな」

「アル、ステーキを用意してー。魔王様に食べさせて血を作らせるのー」

「駄目ですよ。マユちゃんが可愛そうです。せめて、これぐらいにしてください」

 そう言いながらポーションを入れる容器を手渡す。小瓶なのでそこまで多くは入らないだろう。

「あ、それぐらいならいいよ」

「むぅ……仕方ないー。ギルドマスターから直接、魔王様に依頼を出して毎日、納品して貰うー」

「マユちゃんの血は高いですよ」

 キッとギルドマスターを睨むルフィア。自然とその腕に力が入る。

「毎日はちょっときついけど、3日おきならいいよ。でも、色、付けてね」

 守銭奴な魔王であった。

「もちろんー! 魔王様の鮮血とかー、どれだけ価値があると思うのー!」

 そう言ったギルドマスターは頬に手を当ててあの時の感覚を思い出す。口から涎が垂れていた。

「でも、魔王ってどんな感じなの?」

 ふとアルが魔雪に気になったことを聞く。

「どうって普通だよ? あ、でも人間の時よりも力とか体力はあったかな? それ以外は何も」

 称号のことは何も言わなかった。

「それで、アルはどう思う?」

 話が大幅に逸れていたのでルフィアが元に戻した。

「私は特に。人種族は魔王よりも勇者を憎んでるから。魔王のことは眼中にないって感じかな? まぁ、言わないに越したことはないと思うわ」

「やっぱり、言わない方がいいみたいだね。あれ? でも、どうしてルフィはあんなに魔王を怖がってたの?」

「……エルフ族は昔、魔王に酷い扱いを受けていたので今でも語り継がれてるですよ。だから、魔王を召喚したってわかった時、私は震えましたね」

「そもそも、儀式召喚魔法で何を呼び出そうとしてたの?」

「ああ、勇者を倒せるほどの強い怪物を召喚しようとしました」

 その時、ルフィアの腕は少しだけ震えていた。

「ルフィ?」

「っ……何でもありません」

「そう言えばー、魔王様は何の魔王様なのー?」

 妄想に浸っていたギルドマスターが不意に魔雪に問いかける。

「俺は感情の魔王みたいだよ」

「感情ー? どんなスキルがあったのー?」

「あ、丁度いいや。2人にも聞いてみようかな? 俺のスキルに感情変換っていうユニークスキルがあったんだけど……どんなスキルだと思う?」

 魔雪の持つスキルの中で唯一、感情変換だけはまだ解明されていなかった。

「感情変換? 聞いたことないスキルね」

「魔王様限定スキルだねー。でも、感情を何に変換するんだろー?」

「……って、そうよ! マユちゃんの闇魔法のレベルがおかしいって話はどこに行ったの!?」

 そこでやっとそれを思い出したのかアルが声を荒げる。

「レベルがおかしいー? どういうことー?」

「マユちゃんの闇魔法のレベルがたった一日だけで13から42になったんですよ」

 ギルドマスターの疑問にルフィアが答えた。

「っ!? 何ですかー、それー!? あり得ないですー!」

「そんなにおかしいことなの?」

「はい、まだレベルが低い頃ならわかりますが、30を超えてからレベルが一気に上がりにくくなるんです。それなのに、30を大幅に突破して42まで上がってるのは異常ですね」

「でも、俺の闇魔法って最初から13だったよね」

「「はぁっ!?」」

 魔雪の言葉を聞いてアルとギルドマスターは更に驚いてしまう。まだ、魔雪が異世界に召喚されたと言う話を聞いていなければここまで驚くことはなかったが、魔雪のいた世界には魔法はなかったという。つまり、召喚された時点で闇魔法のレベルは1でなければならない。一度も使ったことがないのだから。

「最初からレベルが13って!? 本当なの!?」

 アルがルフィアに確認を取る。

「うん、昨日の時点でマユちゃんの闇魔法は13だった。まぁ、無意識で魔法を使ってるからマユちゃんが知らない間に使ってたのかもしれないけど……」

「んー……魔王様はー、不思議な人だねー。でも、魔王様限定スキルの使い方がわかってないのに、なんでそんなに強いのー?」

「ああ、それは――」

 魔雪はユニークスキルである演技を使った戦い方を話した。

「そ、そんな戦闘、本当に出来るのー?」

 引き攣らせたギルドマスターはルフィアに聞く。

「……それで、私は追い詰められたんですよ」

 やはり、魔雪の戦い方は異常だったとルフィアは再認識する。

「とりあえず、マユちゃんの闇魔法のレベルに関しては何もわからないわね……魔王だから他の人より伸びやすいのかもしれないし」

「そっか。色々、聞いてくれてありがとう」

 話し合いはここでお開きになり、受付でギルドカードの情報を更新して貰った後、魔雪とルフィアは帰路についた。


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