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幼女魔王の演武演劇  作者: ホッシー@VTuber
第1章 幼女魔王の演武演劇
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「ま、待ってください! マユちゃんが魔王ってどういうことですか!?」

 アルは頭を下げているギルドマスターに質問する。

「さっき、血を飲んだ時……私にはわかりました。魔王様は魔王様なのだと。復活、おめでとうございます」

「う、うん……ありがと」

 魔雪がお礼を言った――つまり、魔王だと言うことを否定しない。それだけでギルドマスターの言っていることが正しいのだと理解するアル。だが、理解するのと受け入れるは違う。

「そんな……まさか……」

「あー……ばれちゃいましたね。マユちゃん」

「うん、ばれちゃったね」

 呆然としているアルに追い打ちをかける2人。

「でも、どうしてギルドマスターはそんなに畏まってるの?」

「貴方様が魔王様だからです」

「?」

 全く、わからなかった。

「魔人族の祖先は魔王に仕えていたと言われてます。それは今でも残っているようでよく魔王復活の儀式を行ってるそうです」

「そうです。その中でも私たち、吸血種は魔王様の右腕として働いていました」

「へー……あ、ギルドマスター。大丈夫だった? さっきはゴメンね」

 納得した魔雪はギルドマスターが大変になった時の光景を思い出し、謝る。

「そ、そそそそそんな!? 滅相もございません!! 魔王様の血はとても美味でございました」

 ギルドマスターの言っていることは事実だ。失禁してしまったのも透明な体液が股で迸ってしまったのも魔王の血を飲み、全身で快感を味わったからである。

「美味しかったの? もっと飲む?」

「是非っ……と言いたいところですが、また絶頂してしまうので遠慮しておきます。今は色々と話し合わなければならないので」

 『後で貰えたら瓶詰で貰おう』と思っているギルドマスターだった。

「了解。でも、堅苦しいのは嫌いだからいつも通りの口調でいいよ」

「しかし」

「これは魔王命令!」

「……わかったのー。これでいいー? 魔王様ー?」

 渋々と言ったようにギルドマスターは口調を戻した。それを見て魔雪はうんうんと頷く。

「ストップ!! もう、何が起きてるのかわからない!!」

 しかし、それをアルが止めた。

「アルー? 邪魔しちゃ駄目だよー?」

 笑顔でそう言うギルドマスターだったが、目は笑っていなかった。それを見た3人は思わず、小さな悲鳴を漏らしてしまう。

「そ、そうですね……すみません」

「ではー、話し合いを始め――」

「ちょっと待って」

 今度は魔雪がストップをかけた。

「ねぇ、ルフィア。2人に俺のこと、話しておいた方がいいじゃない?」

「え? どうしてですか?」

「魔王がどんな扱いを受けてるかよくわからないからだよ。しかも、俺の場合、特殊だから2人に意見を聞いておきたいんだ」

 ルフィアが初めて魔雪を――魔王を見た時、恐怖で震えた。

 ギルドマスターは魔雪が魔王だとわかると頭を垂れた。

 アルは魔雪が魔王だと理解しても何も変わらなかった。

 3人が別々の反応を示したので魔雪はこの世界で魔王がどんな扱いを受けているのかよくわからなくなってしまったのである。

「……そうですね。話しておきましょうか」

 魔雪とルフィアの会話の意味が分かっていない2人に魔雪が今までにあったことを話した。

「……ルフィ」

 全てを聞き終わったアルは俯いたまま、ルフィアを呼ぶ。

「ん? 何――」




 ――パンッ!




 返事を返したルフィアの頬を平手でぶった。あまりにも突然のことだったのでルフィアは床に倒れてしまう。

「きゅ、急に何するの!?」

「アンタ……自分が何をしでかしたのかわかってるの!? マユちゃんの人生をめちゃくちゃにしたんだよ!?」

 アルが魔雪の話を聞いて最初に感じたのはルフィアに対する怒りだった。

 まだ研究途中の段階で召喚魔法を発動させ、失敗。しかもその失敗に魔雪を巻き込んだのだ。異世界に召喚されるということは魔雪に今までの暮らしを捨てさせることと同じこと。だからこそ、アルは怒ったのだ。

「ッ……」

 ルフィアはそれについて考えないようにしていた。自分のせいで、魔雪の人生をめちゃくちゃにした。自分のせいで、魔雪が怪我をしてしまった。自分のせいで、魔雪が――死んでしまった。そんな責任からずっと逃げていた。

 自分が召喚魔法を発動させてしまったばっかりに魔雪の――いや、魔雪の周囲にいた向こうの世界の人たちに迷惑をかけているのだ。

「マユちゃんもマユちゃんだよ!!」

「え?」

「何で、そんなに平然としてられるの!? 自分の人生がめちゃくちゃにされたんだよ!? もっと、怒るとか悲しむとかないの!?」

 そして、アルが次に思ったことは魔雪が普通に異世界で過ごしていたことだ。普通ならば、全く違う世界に召喚されてしまったら怒ったり、悲しんだり、憎んだりするはずである。それなのに、彼は普通に生きていた。それどころか非常識な戦闘までしている始末。

「ああ、大丈夫だよ」

 しかし、魔雪は紅茶を啜ってそう答えた。

「何が大丈夫なの?!」




「だって、俺は元の世界に帰るし」




「「……へ?」」

 意味のわからない発言だった。

「俺には夢があるんだ。だから、その夢のための俺は元の世界に帰る。絶対に。だからこそ、今はこっちの世界で生きていけるように勉強してるんだ。元の世界の帰るために、ね?」

 それだけ言って再び、紅茶を飲み始める。それを聞いたルフィアとアルはただ放心するだけだった。

「あのー、魔王様ー? 一つ、質問がー?」

 そこへ今まで黙っていたギルドマスターが手を挙げる。

「何?」

「どうしてー、そんなに自信満々なのー? 正直、向こうの世界へ帰る方法などないと思うんだけどー」

「だって、俺には夢があるからね。何としてでも戻るよ」

「だからー、その方法は見つかってないんですよー」

「うん、そうみたいだね。だから、見つけるんだ。自分の手で」

 魔雪がまだ全裸だった頃、目の前にエルフがいた時点で自分が異世界に飛ばされたと把握した。その時点でもう彼の中で答えは出ていたのだ。




“どんなことがあっても元の世界に帰ろう。まずはこの世界の情報を集めよう。そして、元の世界に帰るために努力しよう。”




 だからこそ、彼は今日までルフィアに一度も元の世界に帰る方法を聞かなかった。彼女は召喚魔法について知らな過ぎる。儀式召喚魔法と間違えるほどだ。聞いても無駄だと判断した。だからまずは、この世界での生き方を学んでいたのだ。

「もし、戻る方法がなかったら自分で開発すればいい。ルフィアが持っていた召喚魔法の本みたいな古代文字で書かれた文献があるんだからそれを調べ尽くせば何か思い付くんじゃないかな?」

 それを聞いた3人は魔雪を見つめることしか出来なかった。

「……あ! でも、まずはこの姿をどうにかしないとね。さすがに元の世界に戻った時に幼女だったら大変なことになるから」

「マユちゃん……」

 ブツブツと呟いていた魔雪の両手を掴むルフィア。その目には涙が溜まっていた。

「許して、くれますか?」

「え? 何を?」

「私の失敗のせいで……マユちゃんに迷惑をかけたことです」

「迷惑? ああ、大丈夫だよ。俺の友達の方が迷惑かけてるから」

 魔雪の頭の中に美里の笑顔が浮かんだ。今頃、何をしているのだろうか。そんなことを思っていたら突然、ルフィアに抱きしめられる。

「る、ルフィア!?」

「ありがとう、ございます……こんな私を許して、くれて……」

 魔雪とルフィアが出会った日――あの日、ルフィアは魔雪の話を聞いてまず思ったことは『本当に魔雪が異世界の住人で、それを召喚してしまったのなら私は何てことをしてしまったのだろう』だった。だから、彼女は魔雪の話を信じようとしなかったのだ。だから、儀式召喚魔法だと信じたかったのだ。アルの言う通り、魔雪の話が本当ならば自分はとんでもないことをしたことになるのだ。そんなことない。そんなはずない。そう、自己暗示をかけていた。不安で潰れそうだったから、魔雪をベッドに連れ込んで一緒に寝た。独りで寝ていたら怖い夢を見そうだったから。

「ありがとう……ありがとう」

 その不安は的中した。魔雪は本当に異世界の住人だった。自分が魔雪の人生をめちゃくちゃにした。だから、魔雪に変態的なことをした。気を紛らわすために、自分の失敗から目を背けるために。

「もう、そんなこと、気にしてたの? てっきり、気にしてないんだと思ってたよ」

 よしよしとルフィアの頭を撫でる魔雪。彼自身、すでに気持ちを切り替えた後だったので今更だった。彼の中ではとうの昔に処理されていた事柄なのだから。

「気にするに決まってるじゃないですかぁ……」

 ポロポロと涙を零すルフィアの口元は緩んでいた。

(あぁ……いい匂い)

 まぁ、こんな時でも彼女の思考回路は変態的なのだが。

「ルフィア、お願いがあるんだ」

 魔雪の髪に顔を沈めて泣きながらくんかくんかしていると唐突に魔雪が口を開く。

「な、何ですか?」

 『まさか、匂いを嗅いでいたことがばれた?』と思い、慌てて顔を引き、魔雪の顔を見る。因みにくんかくんかしていたのはアルとギルドマスターにはバレバレである。

「きっと、これから俺は元の世界に帰るために色々な場所に行くと思う。このカルテンの街もいずれ出ることになると思う……でも、俺ってこんな姿だし、この世界のこともあまり知らない……だから、迷惑かもしれないけど……一緒について来てくれる?」

「ッ……もちろんです! 逆に頼まれなくても、嫌がられても一緒に行くつもりでしたよ!」

 ルフィアは満面の笑みで頷いた。

 嬉しかったのだ。自分が魔雪に嫌われていなかったことに。そして、魔王様(お姫様)が自分を頼りにしてくれたことに。何より――魔雪とこれからも一緒にいられることに。

「ありがと! これからもよろしくね、ルフィア!」

「はい! マユちゃん!」

 こうして、魔雪とルフィアの間にあった透明な蟠りはすっかり溶けてしまったのだった。














「……私たち空気ですね」

「魔王様が嬉しそうなので私はいいですー! 魔王様ー! 私も連れて行ってー!」

「ちょ! それだけは勘弁してくださいよ!! マスターがいなくなったら誰がギルドを引っ張っていくんですか?!」

「嫌! 絶対に、魔王様について行くのー!」

「駄目です! 私が許しません!!」

「行くのー!」

「駄目です!」

「アルのわからずやー!」

「ギルドマスターの我儘!!」

「やるのかー!」

「そっちこそ!!」

 魔雪とルフィアが友情を深め合っている裏でアルとギルドマスターが取っ組み合いの喧嘩が始まったのだが、≪サイレント≫が効いていたおかげでこの部屋の外にいる人たちには気付かれることはなかった。


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