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「全く! マユちゃんに向かって上級級を放つとか何考えてるの!?」
「ご、ゴメン! でも、あのままじゃ私、死んでたかもしれないし!」
「マユちゃんがそんなに強いわけないじゃない!! こんなに小さいのよ!?」
「あのグラウンド、見たでしょ!? 地面を蹴るだけで穴が開いたんだよ?!」
「それはルフィの魔法のせいなんでしょ! マユちゃんのせいにするなんて最低ね!」
「ホントだよ! マユちゃん、見た目以上に強いんだから! オークキングだってマユちゃんが倒したんだよ!」
「そう、それ! アンタ、ランクGの初心者になんて化物、倒させてんの!? アンタがいたから受けられただけで本当ならオークキングはランキBの魔獣! ルフィが倒さなきゃ駄目なんだよ!」
「私だって危険だと思ったら助けようと思ったよ! でも、マユちゃんったらものすごく強くてびっくりしちゃったんだから! あんなに可愛いのに!」
「可愛いのは認めるけど、さすがにオークキングを倒せるほどの実力を持ってるとは思わないの! でも、可愛いよね!」
「うん! 可愛い! 可愛くて強いの! 信じてよ!」
「アンタ、これまでにどれだけ問題を起こしたと思ってるの?! アンタの言葉なんか信じられるわけないじゃない! 可愛いのは認めるけど!」
「マユちゃん、オークキングを1人で倒したよね」
「うん」
「なら、信じるわ!」
そんな会話を続けている間にルフィアは自分と魔雪の傷を全て治し終わった。因みに、アルはギルドカードを調べて魔雪がオークキングを1人で倒したことを知っていたが、ルフィアの言葉に反発していたために勢いで認めないと言ってしまったのだ。
「マユちゃん、痛いところはないですか?」
「ないよ。ありがと、ルフィア」
「元はと言えば私が≪サンダーストーム≫を使ってしまったせいです……本当にごめんなさい」
「いや、俺もちょっと暴走気味だった……こっちこそゴメン」
あえて、演技するのを止めて男口調で謝る魔雪。この言葉は本来の自分の姿で(幼女だが)言いたかったのだ。
「……その様子だと本当にマユちゃんがルフィを追い詰めたみたいだね」
「不意打ちだったけどね」
「それじゃ、手当ても終わった事だし、ちょっと付いて来てくれる?」
立ち上がったアルはそのままギルド内にある医務室から出た。2人も彼女の後を追う。
「これから2人……まぁ、マユちゃんか。マユちゃんにはギルドマスターに会って貰うわ」
歩きながら突然、そう言うアル。
「え? どうして?」
「さっきも言ったようにオークキングはランクBの魔獣。ランクGのマユちゃんが対抗できるような相手じゃないのよ。でも、それを1人で倒してしまった。だから、ちょっと相談したの。マユちゃんのランクを一気に上げられないかって。正直、ランクの高い冒険者って少ないの。才能がないものそうだけど、死にやすいのよね。だから、才能のある冒険者は飛び級でランクを上げてもいい制度になってるの」
「じゃあ、俺のランクも上がるんだ?」
「少なくともランクEにはなるわね……でも、また状況が変わって来てね」
そこでアルはため息を吐いた。もちろん、仕事が増えたからである。
「え? 何で?」
「不意打ちと言ってもあの“ルフィア”を追い詰めたから、よ」
そう言いながら彼女はチラリと振り返ってルフィアを睨む。バツが悪いのかルフィアは視線を逸らして頬を掻いていた。
「? どうして、ルフィアを追い詰めたら状況が変わるの?」
「……ルフィ、教えてないの?」
「あはは……だって、知らなくてもいいことだし」
「ねぇ! 何のこと!?」
ぐいぐいとアルの裾を引っ張りながら魔雪が質問する。その姿はとても可愛らしいものだった。思わず、変態2人は鼻を両手で押さえてしまう。
「る、ルフィは……ランクSの冒険者だからよ」
ギリギリのところで、血を流すことはなかったアルが手短に教えてくれる。
「……S!? ルフィアってそんなにすごい冒険者なの!? 変態なのに!」
「変態は余計です!!」
抗議するルフィアの鼻から赤い液体が垂れていた。
ランクを上げるためには依頼をクリアすればいいのだが、ランクSからは違う。ランクSになるためには国で定められた試練をクリアしなければならない。因みにランクSになるための試練は『ドラゴンを1人で倒すこと』。つまり、ルフィアはドラゴンを1人で倒したことがあるのだ。
余談だが、ランクSSの試練は決まっていなかったりする。例えば、国の危機を救ったとか、魔獣を何万匹も倒したとか、他人が出来ないようなことを達成し、国から認められた場合のみランクSSになることが出来る。
「じゃあ、ランクSSSは?」
そこまで説明を聞いた魔雪は当然、ランクSSSになる方法を聞いた。
「「……」」
しかし、2人は黙り込んでしまう。
「……マユちゃん、ランクSSSになるための試練は――」
やっと口を開いたルフィアだったが、その表情は暗い。
「――『勇者を倒すこと』です」
この世界にランクSSSはいない。何故ならば、勇者を倒せるほど強くないからだ。ルフィアであっても勇者を倒すのは不可能に近い。それほど、勇者は化物なのだ。
「ここよ。マスター、マユちゃんとルフィを連れて来ました」
魔雪が何か言う前にギルドマスターがいるであろう部屋に着いてしまった。
『はーい、どうぞー』
部屋の中から女の人の声が聞こえる。
「失礼します」
それを聞いたアルはすぐにドアを開けて中に2人を誘導した。
中に入って魔雪が目にしたのは――幼女だった。
「あ、いらっしゃいませー。そして、初めましてー。私がギルドマスターですー」
ニコニコと笑いながら幼女が椅子から立ち上がって魔雪の前に移動する。背丈はほとんど魔雪と変わらない。しかし、それ以上に髪が長かった。魔雪も腰まである黒のストレートなのだが、目の前にいる幼女の髪は足元まで伸びている。色もピンクでとても可愛らしかった。
「アナタがマユちゃんねー? 噂通り、可愛らしい子ー!」
幼女の姿を見て困惑していた彼に抱き着く幼女。本当に嬉しそうだ。
「え、えっと……」
「マユちゃん、戸惑ってるみたいなので言いますが、その人がギルドマスターですよ?」
「ええ!?」
ルフィアの言葉を聞いて驚いてしまう。魔雪の想像ではいかついヒゲ男が椅子に座って踏ん反り返っていたのだ。
「あー! マユちゃんも吃驚してるー! これでもギルドマスターになってから長いんだからねー?」
「長いって……」
「私がカルテンに来る前からギルドマスターでした」
「……因みにルフィアがカルテンに来たのはいつ?」
「ざっと80年前でしょうかね」
「ええええええええ!?」
もう魔雪は何も信じられなくなっていた。
「ギルドマスターは魔人族なの」
「魔人族?」
「そうだよー? しかも、魔人族の中でも長生きな吸血種ー!」
「吸血種って……ヴァンパイア?」
「その通りー! それじゃ、いただきまーす!」
抱き着いていた幼女――ギルドマスターはそう言うとガブリと魔雪の首筋に噛み付く。
「いっ!?」
鋭い痛みが走り、声を漏らしてしまう魔雪。それを見てルフィアとアルは苦笑いを浮かべる。吸血種は初めて会う人全員に噛み付いて血を吸うのだ。血を吸うと言っても少しだけで、これは吸血種なりの挨拶なのである。『貴方の血を飲めるほど貴方と仲がいいですよ』と言う意味らしい。
「ッ!?」
でも、今回ばかりはちょっと事情が違った。
ギルドマスターが血を吸った刹那、その体に電撃が走ったのだ。
(な、何これ……)
魔雪の首筋から口を離して数歩、後ずさり、力が抜けて尻餅を付いた。そのまま失禁してしまう。
「「え?」」
ギルドマスターの下で黄色い泉が広がっていくのを見てルフィアとアルは目を白黒させた。今まで、こんなことはなかったのだ。
「にゃッ!?」
ギルドマスターの体内で魔雪の血が吸収された。それと同時にギルドマスターの体が痙攣し始める。ギルドマスターの股で透明な液体が迸った。そして、パタリと背中から倒れてしまう。
「……え、えっと?」
その後、ピクリともしなくなったギルドマスターを見て魔雪はおそるおそる振り返って2人に視線を向ける。
当然のように、後ろにいた2人も呆然としていた。
すみません、次回こそは必ず、闇魔法の説明をしま……あ、無理かもです。
3話以内で必ず、闇魔法について説明しますので少々、お待ちください!




