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幼女魔王の演武演劇  作者: ホッシー@VTuber
第1章 幼女魔王の演武演劇
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「……ふぅ」

 オークキングがもう動かないことを確認した魔雪はため息を吐きながら尻餅をつく。

「マユちゃん!」

 そこへ上空からルフィアが声をかける。

「ん? あ、ルフィア」

 やっとルフィアに気付いた彼だったが、力が入らないのか手を挙げるだけだった。

「大丈夫!?」

 地面に降り立った彼女はすぐに魔雪に駆け寄る。

「うん……ちょっと疲れたけど何とかね」

 魔雪の言葉は本当のようで軽い擦り傷はあるものの、目立った外傷はない。

「ごめんなさい。無茶な訓練させて……」

 今更だが、ルフィアは後悔していた。そりゃ、一度も戦闘を経験したことのない素人にオークキングと戦わせるなど無謀とも言える行為だ。ましてや、魔雪は魔法を使ったことすらない異世界初心者。生き残ったことはおろか、オークキングを倒すなんて奇跡に近かった。

「まぁ、いいよ。そのおかげでやっとわかったからね」

 シュンとしているルフィアを励ますように魔雪は笑顔でそう言う。彼自身、そこまで気にしていなかった。

「……はい。ありがとうございます」

「それじゃ、帰ろっか。あ、でもその前にギルドに行かなきゃならないのかな?」

 大丈夫とは言ってもさすがに疲労困憊な彼はすぐに家に帰りたかったのだ。

「大丈夫ですよ。明日までにオークキングをギルドに持って行けば。私の異空間収納に入れておけば腐ることもありませんし」

「そっか。本当に便利だよね。異空間収納。じゃあ、後はお願い」

「わかりました!」

 それからオークキングを収納したルフィアに抱っこ(力が抜けて歩けなかった)して貰い、魔雪はルフィアの家に戻った。









「そろそろ説明して貰えませんかね?」

 晩御飯も食べ終わり、テレビを見ていた魔雪にルフィアがそう切り出す。

「ん? 何が?」

 他の国で開かれていた格闘大会の中継に夢中だった彼は適当に聞き返した。

「何がってどうやってオークキングを倒したかですよ!」

「……あれ? まだ言ってなかったっけ?」

「言ってません!」

 魔雪の言葉にルフィアは少しだけ憤慨する。実は森から帰って来てから何度も質問したかったのだが、疲れている彼に説明させるのも悪いと思って向こうから言って来るのをずっと待っていたのだ。

「んー……まぁ、気付いたらすごく簡単なことだったよ」

「? 何かわかったんですか?」

「一般スキルとユニークスキルの違いは?」

「……へ?」

 いきなり、問いかけて来たので呆けてしまうルフィア。

「それは、他人に教えることが出来るか出来ないかと……レベルがあるかどうか、ですかね?」

「なら、俺の持っているスキルでレベルがあるのは?」

「闇魔法だけ……ん? なら、他のスキルはユニーク? じゃあ、演技も?」

「そう。演技もユニークスキルだったんだよ。それがわかれば早かったね。演技を使って戦闘すればいいんだから」

 説明終了、と言ったように魔雪はまたテレビを見始める。

「ま、待ってくださいよ! もっと詳しく!」

 だが、明らかに説明不足だったのでテレビを消してルフィアが更に聞き出そうとした。

「だから、演技すればいいだって」

「何の演技ですか!?」

「戦闘の演技」

「……意味がわかりません」

 どうやら、魔雪は自分が理解していたら良いと思っているようで、かなり曖昧な説明しかして来なかった。

「それじゃ、ルフィアに質問。演技に必要な物って何だと思う?」

「演技、ですか? そりゃ、演技力じゃないんですか?」

「うん。それは当たり前。他には?」

「他……あ! 演じる人とか舞台がないと盛り上がりません」

「お? 良い調子! 他には?」

 演技力、演じる仲間、舞台。そこまで出たが演劇にはあまり詳しくないルフィアは何も思いつかない。諦めて両手を挙げた。

「色々あるよ? 裏方。脚本家。お客さん……でも、それよりも重要な物があるんだ」

「重要な物? それは何ですか?」




「アドリブ」




「……アドリブ?」

 てっきり、すごい物が出て来ると思っていた彼女は思わず、聞き返してしまう。

「アドリブは重要だよ。相手の声音、行動、お客さんの数、周りにいるエキストラの数、ライトの角度。それらって全て毎回、違うんだよ。微妙に、だけどね。だから、俺はそれを見て毎回、少しだけ演じ方を変えるんだ」

「それと今回の話に何の繋がりが?」

「だから、演じたんだよ。オークキングを相手に戦闘シーンを」

「……つまり、マユちゃんはアドリブで戦闘シーンを組み立てつつ、オークキングと戦ったってことですか?」

「うん」

 頷いた魔雪を見てルフィアは愕然としてしまった。

 魔雪の言葉が正しければ、彼は恐ろしいことをしたことになる。

「それって……オークキングの動きを見てから動くことになりますよね? だって、向こうが動かないと戦闘シーンを組み立てられませんから」

「そうだね。主人公が一人で勝手に動いたら演劇は成り立たないから」

「しかも、周囲の状況とかも把握しておかないと駄目ですよね?」

「うん。舞台とかで小道具にぶつかったら危ないし」

「そして……オークキングが次の起こす行動を予測しないと、無理ですよね?」

「そりゃ、辻褄が合わないと、ね」

 例えば、Aのシーン、Bのシーン、Cのシーン、Dのシーンがあったとする。

 AからB、BからC、CからDと言ったようにシーンが繋がるとして、順番通りに演じればきちんと物語の辻褄が合うようになっている。しかし、今回の戦闘シーンは全てアドリブだ。辻褄を合わせるためには土壇場で相手がAを演じた後、自分がBを演じ、次に相手がCを演じて最後にDを自分が演じなければならない。つまり、相手から見ると相手はAの次にCを演じることになる。それを予測してAとCの間にBのシーンを入れる。相手の演じるシーンを予測しないと自分はBを演じることは出来ないのだ。

「……それをあの一瞬で?」

 そう、問題は全てがアドリブと言う点だ。台本通りならあの動きは出来る。何故ならば、自分も相手も台本通りに動くだけなのだから相手の動き、周囲の状況、相手が次の起こす行動の予測は決まっているのだ。それならば、ルフィアにだって出来るだろう。

 でも、アドリブならばどうなのか? 正直言って不可能に近い。相手の動きを見て周囲の状況を確認し、相手が次の起こす行動を予測してから行動しなければならない。これらの処理を一瞬にして終わらせないと辻褄が合わない――戦闘なんぞ出来やしないのだ。

「まぁ、簡単だよねー」

 それを簡単と言ってしまえる魔雪はルフィアからしたら異常な存在だった。あの短い戦闘の中で彼の頭では一体、どんなことが起きたのか。それすら予想が出来ない。

(この子……一体……)

 呆然としているルフィアの手からリモコンを奪い、またテレビを見始めた魔雪。それをただただ彼女は見つめることしか出来なかった。










 実際、魔雪は演技の天才だった。

 もちろん、最初から全てが上手く行っていたとは言えない。アドリブなんて技術は皆無だったと言っても過言ではない。

 しかし、演劇部の活動をしている間に彼は気付いたのだ。




 “台本通りに演じているばかりじゃ、何も面白くない。お客さんに感動を伝え切れない。”




 確かに、台本通りに演じることは大切だ。

 でも、全ての役者が台本通りに演じることなんか出来ないのだ。

 体調、機嫌、舞台の大きさ、お客さんの数――その全てが毎回、同じだとは限らない。体調が優れず、いつもより声が若干、低かったり、機嫌が悪くていつもより演技が雑になったり、舞台の大きさが小さくて立ち回りがいつもより小さくなったり、お客さんの数が多すぎて緊張してしまったり。

 言ってしまえば、同じ台本でも毎回、違うのだ。少しの変化しかないが必ず、違う演劇になる。

 それに気付いた魔雪はその日からアドリブで演じ方を変え始めた。

 相手の声音に合わせた演技。相手の機嫌に合わせた演技。舞台の大きさに合わせた演技。お客さんの数に合わせた演技。

 それを一瞬にして感じ取り、アドリブで演じ方を変える。

 だからこそ、彼は天才と呼ばれていた。彼が出演する演劇はとてもまとまっていて矛盾のない演劇だったからだ。

 彼はまだ知らないことだったが、彼の噂を聞いたスカウトマンが彼の学校の文化祭に行こうとしていた。そして、その演劇を見てスカウトしようと――プロの世界に連れて行こうとしていたのだ。

 それほど、彼は演技に関して天才だった。

 更に、ルフィアには言っていないが、魔雪は知っていた小説や漫画、アニメにドラマなどから適した戦闘シーンを思い出して参考にしていたりする。

 あの木を垂直に登るシーンなど漫画にあった戦闘シーンをマルパクリしていたのだ。つまり、相手の動き見て、周囲の状況を確認し、相手が次の起こす行動を予測して、記憶になる戦闘シーンから参考になる部分を選び、シーン同士を繋げたり、離したりして自分の行動を決めていた。

 他の人には無理な話だ。魔雪だったから出来たこと。

 だからこそ、彼のギルドカードに演技というユニークスキルが現れたのだ。

 演技を使い、あまりにも非常識的であり得ない戦闘が出来ると認識されて――。


次回に闇魔法について話します。

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