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幼女魔王の演武演劇  作者: ホッシー@VTuber
第1章 幼女魔王の演武演劇
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「……」

 目の前のオークキングを見上げながら魔雪は放心するしかなかった。

「懐かしいですねぇ……私の師匠もいきなり、オークキングと戦えって言いましたからね。あの時は本当に死ぬかと思いましたよ。まぁ、そのおかげで今の私がいるのですが」

「……ねぇ、ルフィア」

「はい? 何ですか?」

「……今から、俺、あれと戦うの?」

「戦うんではありません! 倒すのです!」

 そんなルフィアの声を聞いてオークキングが動き出した。

「では、後は頑張ってください! 私は消えます!」

「え!? あ、ちょっと待って!」

 魔雪の制止も空しく、ルフィアは風魔法を使って空を飛び、離脱する。

「待ってて!!」

「グルゥ」

「ッ……」

 すぐ後ろから声が聞こえて振り返るとオークキングが魔雪を見てジュルリと涎を啜った。

「い、いやあああああああああああああああああああああ!!」

 すぐに魔雪は走り出してその場を離れた。その刹那――。




 ――ズドンッ!!




「うおっ!?」

 後方からの風に煽らせて転んでしまう。広場の方を見るとオークキングが持っていた棍棒が地面に減り込んでいた。

(後少し遅かったら……)

 ぺしゃんこになった自分の姿を想像してしまい、すぐに頭を振って立ち上がる。

「グルオオオオオ!!」

 そして、オークキングの咆哮。あまりの声量に彼は転びそうになってしまう。

「くそっ!」

 演技するのも忘れて魔雪は再び、走り出した。その後を追うオークキング。

(どうする!?)

 小さな体を活かして木々の隙間を縫うように走って逃げるが、オークキングには関係ない。その巨大な体をぶつけて木を押し倒しながら向かって来る。

(どうする!?)

 ギルドカードに書いてあったスキルの内、内容がわかっているのは言語変換のみ。他の3つはよくわからないものだ。

(使えるとしたら闇魔法……でも、闇がどんな物なのか想像出来てない!)

 それはすなわち、闇魔法が使えないことと同じである。

(感情変換なんかもっての外だ)

 迫り来る敵に魔雪は肝を冷やしながら考え続けた。

(どうする? こんな絶望的な状況を打破する方法は? 何か、何かないのか?)

 これまでにルフィアから教わったことを思い出しながら逃げる。

「ガああああああああああああああああああああッ!!」

 いつまで経っても捕まえられないことにオークキングがイライラし始め、悍ましい声で絶叫。それを聞いてゾッとしてしまう魔雪。

「くっ……」

 足が震える。息が荒くなる。怖い。怖い。そんな気持ちが魔雪の心を蝕む。

(くそっ……何か、何か!!)

 このままでは転ぶか体力が尽きてオークキングに掴まってしまう。それまでにどうにかしてオークキングを倒さなければならない。

(召喚……異世界……魔王……勇者……)

 そこで、魔雪は役に立ちそうな知識を箇条書きにして頭に思い浮かべる。

(スキル……一般スキル……ユニークスキル……)

 しかし、いくら考えてもいいアイディアは思いつかない。

(魔法……水魔法……風魔法……闇魔法……)

「があああああああああああああっ!!」

「わっ……」

 2度目の慟哭にとうとう、彼は転んでしまう。

(言語変換……演技……感情変換……)

 すぐに立ち上がるが、すでにオークキングは真後ろにいた。反射的に右に飛ぶ。




 ――ズドンッ!!




「ッ……」

 直撃は何とか、避けたものの飛んで来た石や木が体に衝突して、全身に痛みが走る。

(……レベル……魔法……スキル……演技……闇魔法……ッ)

 ふらつく体を起こしかけたその時、何かが引っ掛かった。

「一般スキルにはレベルがあって……ユニークスキルにはレベルがない?」

 閃きに夢中になっている間にオークキングは魔雪に向かって棍棒を振り下ろす。

「くっ!」

 奥歯を噛み締めながら彼は前に――オークキングの方へ駆け出した。そして、オークキングの股の下を転がるように潜ってまた逃走を始める。

「俺のスキルの中でレベルがあるのは闇魔法だけ……じゃあ、言語変換、感情変換の他に、演技もユニークスキルなんだ!!」

「ぐがあああああああああああああああ!!」

 怒り狂ったオークキングが乱暴に棍棒を振り回すが、それを冷静に躱す魔雪。

(ユニークスキルである演技を使ってどんな戦い方が出来る?)

 死んだフリは論外。戦闘シーンは演じたことはあるが、戦闘はしたことない。そんなもの、本物の戦闘には何の役にも――。

「……いや」

 魔雪に一つだけ、光が視えた。足を止めて振り返り、オークキングを睨み、深呼吸を一つ。そして、頭を下げてこう言った。




「それでは、これより勇崎 魔雪によります。演劇を開演、致します。皆様、盛大な拍手を」










「……やっぱり、無茶だったかな?」

 少し時は遡り、森の上空。気流を操作して飛んでいるルフィアは誰にともなくそう呟いた。彼女の視線の先にはオークキングに追われている魔雪の姿があった。

(今、冷静に考えるとこれってかなり無茶苦茶な訓練だよね……マユちゃんには悪いことしたかな?)

 彼女自身、魔雪に危険が迫ればすぐにでも手を出すつもりでいた。だが、彼女の想像以上に魔雪はオークキングから逃げていたのだ。

「さっきのは本当に吃驚した……」

 魔雪がオークキングの股の下を潜り抜けた時は正直、褒めてあげたかった。あの状況で後ろに下がっても結局、オークキングに距離を詰められて殺されてしまう。しかし、オークキングの股の下を抜けることによって、オークキングが振り返る時間を作ったのだ。その隙に魔雪は走って距離を取り、鬼ごっこを再開させた。

(意外にマユちゃんは戦闘のセンスがあるのかも)

 そう思いながらそろそろ助けてやろうと思い、杖を取り出したその時――突然、魔雪が足を止める。そして、頭を下げてこう言った。

「それでは、これより勇崎 魔雪によります。演劇を開演、致します。皆様、盛大な拍手を」

「演劇?」

 魔雪の行動の意味が分からず、首を傾げたルフィアだったが、その間にオークキングが棍棒を振り下ろした。

「あっ! マユちゃん!!」

 このままでは魔雪は棍棒に潰されてしまう。急いでワードを使おうとした。




 ――ズドンッ!!




 しかし、間に合わなかった。先ほど首を傾げてしまった為に間に合わなかったのだ。

「ま、マユッ――」

 あんなに可愛らしい子を助けられなかった。しかも、自分のせいで殺されてしまった。今更になってこの訓練がどれだけ危険な物なのか理解したルフィアが悲鳴を上げそうになった。

「……え?」

 しかし、悲鳴を上げることはなかった。




 何故ならば、魔雪が棍棒を躱していたからだ。しかも、紙一重で。




(嘘っ……)

 棍棒が直撃しなくても衝撃波で吹き飛ばされる。しかし、魔雪は吹き飛ばされることはおろか態勢すら崩していない。放心していると不意に俯いていた魔雪が顔を上げた。

「ッ――」

 その顔は今まで見て来た魔雪とは全く違った。

「オークキング……残念だったな」

 そこでゆっくりとオークキングに向かって歩き始める魔雪。

「お前の攻撃は見切ってるんだ。どれだけ攻撃しようが俺には当たらない」

「がああああああああああああっ!」

 彼の挑発を聞いたからか今度は棍棒を横薙ぎに振るう。魔雪がしゃがんでも当たる高さ。ジャンプしても躱し切れない絶妙な高さで振るわれる。

「あぶっ――」

 それを見ていたルフィアは思わず、そう言ってしまった。でも、言葉を区切った。先ほどまで魔雪がいた場所に魔雪がいなかったからだ。

(マユちゃんはどこに!?)

 オークキングも見失ってしまったのか、棍棒を振った格好のままキョロキョロと辺りを見渡す。

「だから、無駄だって言ってんだろ?」

 その声はオークキングの棍棒の上から聞こえた。そう、魔雪は棍棒の上に立っていたのだ。

「ガッ!?」

 さすがにオークキングも驚いているようだ。その隙に魔雪は棍棒の上をゆっくりと歩いてオークキングに迫る。すぐにオークキングは棍棒を出鱈目に振って魔雪を落とそうとする。しかし、彼は落ちることはなかった。

「何が……」

 あまりにもあり得ない光景にルフィアは呆然としてしまった。

(あんなこと、出来るわけがない。マユちゃん、何かしたの?)

 その時、魔雪の両足に紫色の靄が纏わりついているのに気が付く。

「あれが、闇魔法?」

 その靄から魔力を感じられる。ルフィアはすぐにあれが闇魔法なのだと理解した。

「よっと」

 暴れるオークキングの棍棒から軽くジャンプする魔雪。そして、オークキングの頭目掛けて踵を落とした。




 ――ドンッ!




 すると、オークキングが地面に膝を付く。まだ死んでいないようだが、相当ダメージを受けているようだ。

「もういっちょ」

 地面に着地した魔雪が軽く右ストレートをオークキングの顔に向けて放つ。膝を付いていたから丁度良い高さに顔があったのだ。

「ッ!?」

 咄嗟に躱そうとしたオークキングだったが、躱し切れずに頬に魔雪の拳を貰った。




 ――ドンッ!!




 そして、吹き飛ぶ。その光景は奇妙なものだった。幼女がオークキングをパンチ一つで吹き飛ばすなどあり得ないことだった。

「また、靄が……」

 上空から見ていたルフィアは魔雪の両手に紫色の靄が纏わりついているのに気付く。

(それに……あのタイミングならマユちゃんのパンチを躱せたんじゃ?)

 ルフィアの目からしたらオークキングは魔雪のパンチを躱していたように見えた。だが、結果はご覧の有様。

「グ、グガああああああああああああああああ!!」

 オークキングは怒り狂い、魔雪に向かって突進する。それに対して、魔雪は走って逃げ始めた。いや、違う。逃げたのではない。後ろにあった大きな木に向かって走り始めたのだ。

「よっ」

 大きな木の元へ辿り着いた彼は一気にその木を駆け上がる。垂直に、だ。

「え!?」

 その姿を見てルフィアは目を丸くしてしまう。

「これで、終わり」

 木を登り切った時、オークキングは木の根元――つまり、魔雪の真下にいた。軽く木を蹴って、場所を調節し、靄が纏わりついた両手をギュッと組んでタイミング良く、オークキングの脳天に叩き付ける。




 ――ドンッ!




 その一撃でオークキングの頭蓋骨は粉々に砕け、オークキングは即死。巨大な体がゆっくりと倒れていく。

「ありがとうございました」

 地面に降り立った魔雪は優雅に頭を下げると同時にオークキングの体は地面に伏した。

「……何が、どうなって」

 それを見ていたルフィアはただ放心するだけだった。


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