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勇崎 魔雪は困惑していた。
「う、嘘……成功、しちゃいました?」
目の前で中学生ほどの少女がこぶりの杖を両手で握りしめながら震えていた。しかし、それは魔雪が困惑していた原因ではない。
その少女は人間ではないからだ。
思わず、目を庇ってしまいたくなるほど眩しい金髪。
海のような美しい碧眼。
そして――人間のそれとは全く違う長く尖った耳。
そう、彼女はエルフなのだ。
(な、何が……)
魔雪はすぐに彼女がエルフだとわかった。彼は部活の関係で色々な小説を読んでいる。ファンタジー物も例外でなく、彼が知るエルフと彼女の容姿は類似していたのだ。
「ど、どうしましょう……」
エルフは魔雪を見て慌てていた。目には涙が溜まっている。相当、焦っているようだ。
「な、なあ?」
とりあえず、彼は話しかけてみた。この状況を説明して貰うためにも意思疎通が必要だと思ったからである。
「ひ、ひぃっ!?」
だが、エルフは顔を青くして後ずさってしまう。まるで、魔雪を恐れているかのように。
(え、えっと……言葉は、通じてるよな?)
エルフの言葉は理解できるのでそう判断したものの、どうして恐れられているのかわからない魔雪であった。
「おい?」
「きゃああああああああ!! しゃ、喋ったああああああああああああああ!!」
もう一度、話しかけるが彼女は悲鳴を上げながら尻餅を付いてしまう。
「なあってば」
今度は一歩だけ踏み出してみた。
「あ、ああ……私、食べられちゃうんだ……」
それを見たエルフはそう呟きながらぽてっと倒れる。『ゴンッ!』っといい音がしたので後頭部を思い切り、打ち付けたようだ。
「何なんだよ……」
魔雪はそれを見てため息を吐いた。確かに、男である自分が突然、近づいて来たら吃驚してしまうかもしれないが、気絶されるのは少々、傷ついてしまう。それとも、この少女は男が苦手なのだろうか。
そう考えながらふと肌寒いことに気付いた。
「ん?」
首を傾げながら自分の体を見る。
「……は?」
そして、魔雪は見てしまった。
今現在、自分は全裸であるところを。
「うおっ!?」
先ほどまで制服を着ていたのにどうして、自分がこのような姿になっているのかわからず、驚愕の声を漏らしてしまう。それと同時に彼女が気絶してしまった理由も把握した。
(そりゃ、裸の男が近づいて来たら気絶もする……は、ず?)
全裸になっていることすら気付かないほど困惑していた自分に苦笑しながらそう思っていると、何か違和感を覚えた。
「……あれ? 俺、こんなに肌、白かったっけ?」
どちらかと言うとインドア派な彼でももう少し、肌は焼けていたはずである。しかし、自分の手や腕を見ると雪のように真っ白な肌になっていることがわかった。
その時点で、彼の頭には警告音が響いていた。
何か、嫌な予感がする、と。
「……」
おそるおそるだが、魔雪はゆっくりと自分の体を見下ろす。
真っ白な肌。
少しだけだが起伏のある胸。
子供特有のぽてっとしたお腹。
ツルツルの股間。
子供のように小さな手足。
「……はああああああああああああああああああああああああああああッ!?」
彼は子供のような姿になっていた。
いや、“ような”ではなく、子供になっていたのだ。
しかも――。
「な、何が……」
そう震えながら呟き、右手で自分の股間に手を当てる。
――何もなかった。いや、何もなかったわけではないが、男のアレはなかった。代わりに女のアレがあった。
彼はただの子供ではなく、“幼女”になっていたのである。
そして、この日――“感情の魔王”と呼ばれる幼女がこの世界に誕生した、とそう遠くない未来に歴史に刻まれている日でもあった。




