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戦いの中の戦艦

第五章 戦いの中の戦艦


「総員、出撃準備!」

「いつでも出られるよう急げよ!」

 国連軍浮き名基地にはいくつもの怒号が飛び交っていた。多数の兵士が急ぎ足で歩きまわり、同じく多数の軍用車両が出撃の準備を急ピッチで進めていた。

 少し浮き上がり最後のバランス調整を行うホバー車両。関節やショックアブソーバの微調整を進める機動歩兵や歩行戦車。

 多数の兵員の搭乗を待つ大型トラック。さらに対戦車を含む地上の掃討を行う攻撃ヘリや攻撃機などの航空戦力も発進の時を待っていた。

「第一目標はテロリストの制圧。第二目標は奪われた超大型ホバー戦車の奪回」

 誰かが怒鳴っていた。事務処理にいそしんでいた大和の目前で起きた爆発は基地のシールド発生装置の破壊活動に伴うものだった。

 しかも一部の兵士がテロリストの手引きをしていた。

 テロリスト達に言わせれば公正に国連行政が行われないための対抗処置だと言うが、だからといって暴力行為が許されるものではない。

 さらにその混乱に乗じ超大型ホバー戦車まで奪われてしまった。陸上戦艦の異名すら持つ大型の破壊兵器。正当な軍以外が手にしていいものではない。

 破滅的な事態が起こるまえに取り戻す必要があった。

「目標は浮き名市中央公園。ホバー戦車は公園中央に現在展開している。戦闘力はかなりのものだぞ」

 大型輸送ヘリ数機によって浮き名基地から持ち出されたホバー戦車は途中でヘリが撃墜されながらも最後は自らのホバー能力によって中央公園に着陸した。

 そして元々潜入していたらしい百名近いテロリストの本隊と合流。捕らわれていた仲間の釈放と周囲のビルに確保していた人質の身代金金の二つを要求。

 自らの武装と人質の存在で追撃していた国連部隊の撤退を余儀なくさせたテロリスト達は現在も浮き名市中央公園を占拠していた。

「全艦隊出撃準備はいいか?」

 国連陸軍の軍服を着た二十九名の戦艦娘の前に大和が立つ。強力な火力を誇る戦艦娘。当たり前だが戦力としての戦艦娘の存在は無視できない。

 基地の指揮系統に組み込まれた統合旗艦大和麾下の国連宇宙軍アジア連合艦隊とアメリカ・ヨーロッパ連合艦隊の両艦隊も出撃の準備を進めていた。

 もっとも破壊力の有りすぎる統合艦隊は、今回後方を固める役割を担わされていたが。

「第四大隊出ます」

「第十四狙撃小隊出ます」

 何台ものトラックや兵員輸送車が重装備に身を包んだ満杯の兵士を詰め込んで次々に浮き名基地を出撃していく。

「第十六戦車中隊出ます」

「第三ホバー大隊出ます」

 キャタピラーの駆動音にホバーのタービン音。耳に刺さるような騒々しい音ともに多数の戦車も基地を離れていく。

 空には遊弋する各種のヘリコプター。輸送に戦闘。様々な用途のヘリが厳しい緊張感を秘めて大空を舞っていた。

 彼等も次々に浮き名基地を離れていく。

「お待ちどう。出撃してもらいます」

 整列していた艦隊娘の横にモスグリーンに塗られた大型トラックが止まった。防弾能力を持つ幌式の軍用トラックだ。

「よし。お前達は荷台に乗り込め。俺は助手席に乗るから」

 大和は素早く前に回る。運転席にいたのは壮年の逞しい男。

「ライス軍曹です。本部との連絡係も務めさせてもらいます」

「大和です。艦隊司令を務めています」

 本人は知らなかったが、かって飛鳥達の指導教官を務めたライス軍曹に大和は頭を下げた。高い戦闘力を誇る戦艦娘を率いていても、大和も元は対人インターフェイスなので正式な軍の階級はない。

 だから曖昧な階級抜きの司令官と名乗るしかない。

「なんか狭いし臭い」

「乗せてもらえるだけでよしとしなさい」

 幌の中には小さな明かりしかなかった。薄暗い光の中に四列に並ぶ薄いクッションの座席。色が車本体と同じモスグリーンなので華やかさなどかけらもない。

 最初に乗り込む両艦隊の序列一位、旗艦である戦艦飛鳥と戦艦キャサリン。心の沈みそうな車内に早速口争いを繰り広げ始めた。

「入り口で止まらないで、さっさと乗り込め。時間は有限だぞ」

 耳に届く聞き苦しい口論に大和の怒声が飛ぶ。実戦態勢で余分な気遣いをする気など大和にはない。

「早くしてください。総司令が怒っていますよ」

「とりあえず座りましょう。これでは出発ができません」

 口を閉ざす旗艦の背中を押す序列二位の副旗艦の定延とゴルドバ。

「座席がほとんど鉄板」

「堅いし鉄臭い」

「いいから座ろうよ」

 後からは続々戦艦娘が続く。堅い椅子に不満を漏らしながらも、ここは座るしかない。「あたし達が最後か」

「センサーで調べるまでもなく男臭いです」

「ろくに洗っていないと見ました」

 最後に乗り込んだのは両連合艦隊の強行偵察艦。若竹と針葉、エリカ等は臭気センサーの精度を少し落とす。

「全員乗ったか?では出撃だ」

 荷台からの戦艦娘の黄色い声が静まるのを待ち、ライス軍曹はゆっくりとトラックを発進させた。

「それでは現場に到着するまで状況の説明を行う」

 大和の声に戦艦娘達の背筋がピンとなる。運転室の鉄板で隔てられた助手席からの声だが戦艦娘の音響センサーにとっては隣席からと大差はない。

「まずは偵察衛星からの画像だ」

 戦艦娘達のメモリー領域に直接画像データがインストールされた。

 一見分かっているようだが大和や戦艦娘達の内部に元の戦闘艦がどう収められているかははっきりしていない。

 容量から考えてそのままと言うことはあり得ないから、次元的に折りたたまれているのでは?とは言うものの、結局ただの言葉遊びのようなもので現実としてどこに頭脳である艦のコンピューターが入っているのか、そもそも身体の内部に入っているのかもすら分かってはいない。

 とにかく実際的に頭脳や武装、センサーが働いているのだから、本人的には問題意識はなかった。

「まずは浮き名市全図だ」

「宿舎と学校の往復。市内を出歩いたことがほとんどなかったのですが、かなり広い市だったのですね?」

 市内のパトロールに出たのは飛鳥の分隊だけ。基地の内のパトロールを担当したアメリカ・ヨーロッパ連合艦隊旗艦のキャサリンが低く呟く。

 市街外縁部に広がる基地施設。学校や寄宿舎は市内に入っていた。そのままではあまりに雑然としているので、画像データーに地図情報を重ね合わす。

「十四の区。一つの区で小さな市に匹敵する大きさ?」

「肝腎の公園は本当に市の中心部にありますのね」

 定延とゴルドバは地図の確認を進めていく。

「現在国連軍は公園の包囲を進めている。ルートは四方にあって基地本体から主力の二本が、輸送ヘリからの空挺部隊が抑えの二本を展開中だ」

 矢印が地図に重なった。

「我々は現時点でこの場所にいて、この方向に進んでいる」

 その矢印の一部分が点滅を始めた。

「そしてここがあたし達の配置される場所?」

 大和の言葉に戦艦娘の一人が頷く。矢印の向かう先にあった広大な空き空間が極限まで拡大されていく。

 地図から生データーに戻され緑の木々の間にホバー戦車が鎮座しているのが分かる。広大な森林の前では超大型といえども、さほど大きくは見えなかった。

「見た目は緑が多くて健康に良さそうな感じ」

 嬉しそうに国連宇宙軍所属アジア連合艦隊の序列十四位、強行偵察艦針葉が口調を弾ませる。

 本来はそんな場合ではないのだが、見たことのない緑の大集団に興味津々だ。

「確かにそのその通りだが公園の守りを考えてのビル配置が今回は仇になった」

 針葉の興奮を大和はあっさりと流す。

 偵察衛星のカメラに写る浮き名市中央公園。

 大きな公園だが警備の都合から通じる道そのものの数が少なく、さらに数十棟のビルが重なり合い中央公園に直線で向かう道は一つもない。

「こちらが動員できる戦闘車両は道幅で規制される上、道なりに進撃する以上、出現位置は簡単に特定されてしまう。確かに巨大ホバーの居場所は特定しているのだが、火力で劣る上、動きながらの攻撃を強いられる分攻撃の精度が落ちる。全体としての情勢は明らかにこちらが不利だ。……ただ」

「目的地に着きました。ご降車を願います」

 大和が情勢分析の続きを言おうとしたときトラックは止まった。ここまで来たら直接目で見た方がいいだろうと大和は思う。

「全員降車。直ちに後方支援に移る」

「みんな降りるわよ」

「こちらも降りますわ」

 大和の言葉に両艦隊の旗艦、飛鳥とキャサリンが応えた。

「早く情報の収集を」

「分析も必要だし」

「何よりこんな狭いところから出たいですし」

 若竹や針葉、エリカ達の強行偵察艦がまず飛び出す。唯一、実際に中央公園を見たアジア連合艦隊序列十三位、強行偵察艦若竹はともかく針葉やアメリカ・ヨーロッパ連合艦隊の強行偵察艦娘達の瞳は物珍しい風景の期待に輝いていた。

「とにかく出ましょう」

「いつ実戦に投入されるかも分からないしね」

 さらに戦艦娘や巡洋艦娘が後に続く。

「案外と殺風景だね。もっと公園に近ければいいのに」

「ここは後方ですから仕方がありません」

 トラックから最後に降りた飛鳥は周囲を見渡し軽く肩を落とし、対してキャサリンは呆れたように肩をすくめて見せた。

「ここでしばらく待っていてくれとのことだ」

 大和は周囲に視線を送ると飛鳥達を改めて見渡す。幅のある超高層ビルが壁のように建っている。手前から奥に、公園に近いほどビルは高くなっていく。

 ビルに阻まれ公園の緑は全く見えない。

 道路そのものにビル付属の庭。多数の車両やたくさんの人影を飲み込んだテントが立錐の余地もなく展開していた。

「一番奥のビル群にテロリストが人質を取って立てこもっている」

「ここからでは全く見えませんが、それが一番頭が痛いところですわ」

「やっぱり人道があるから。単純に潰していいのなら、楽なんだろうけど」

 ひしめく人々の邪魔にならないよう小型のテントの一つに入った後、大和がビルの奥を見通すように視線を険しくさせた。

 キャサリンと飛鳥も大和の視線の後を追う。

「本気で潰すだけなら、攻撃衛星のビームで灼けばいいし」

「地上戦艦と気取ったところで所詮は戦車。一発で殲滅しちゃえますから」

「絞って灼けば多少周りの木が燃える程度で、乗っている人間こそ丸焼けだけど、周囲にそんなに大きな被害は出ないだろうし」

 ダウンロードした超大型ホバー戦車と攻撃衛星のスペックを参照しながら、戦艦娘達は結構非道なことを口にする。

「でもそういう行動に出たら人質もただでは済まないから」

「簡単だけど実行はできないか?」

「そういうことですわ。それにテロリストだけとしてもいきなり衛星からの攻撃は無理でしょう。それぞれに所属する団体やバックアップしている国家もあります。それに人道主義者の存在。問答無用で全員を抹殺では、いくら軍事的には正しくても政治的には大混乱は必至でしょうから」

 仲間の戦艦娘を横目に、さらに言葉を続ける飛鳥に大和とキャサリンも同意をした。

「申し訳ないが奥のビルに何人程度立てこもっているか分かるかな?」

 大和達の問答に割り込むように壮年の兵士が顔を覗かせた。定延達の戦闘訓練につきあったモス軍曹だった。

 訓練で知った知った強行偵察艦、針葉の索敵能力に期待しての来訪だ。

「我々も偵察兵を出しているが敵も軍人。こちらの手の内が見透かされているかも知れないからな」

「分かりました。若竹、針葉、エリカ、クールベ、ローレヌ」

 大和も定延から情報は得ていた。モス軍曹の意図を察し、こちらも素早く集まってきていた強行偵察艦娘達に視線を走らせる。

「分かっているな。手分けをしてテロリスト達の手の内を探ってきてくれ」

「分かりました大和様」

「分担地域の指示を」

「完全にデータはそろえて見せます」

「人質に犠牲は出さないよう」

「ビルの壁に張り付いてでも情報は手に入れてきます」

 大和の要請に力強く応え、若竹達はモス軍曹に視線を移す。

「では彼女達を借りますから」

「うまく使ってやってください」

「では偵察艦艦隊、出撃します」

 モス軍曹の後ろについた若竹やエリカ達、両艦隊の偵察艦娘五人は大和達に手を振るとゾロゾロとテントから出て行くのだった。

「行っちゃった」

「何とかやってくれるとは思いますけど?」

「大丈夫ですよ。こと偵察に関しては専門家ですから」

「ですね。失敗はしないでしょう」

 信頼はしていても実戦では後がない。不安を隠せない飛鳥とキャサリンを定延とゴルドバが思いやる。

「そうそう。千キロ離れた敵艦だって易々見破るんだから」

「たかが数百メートル。それも機動歩兵相手ですから」

「電子戦のレベルも桁違い」

「むしろ間違う方が異常?」

 副旗艦を後押しして残りの戦艦娘が気楽な声を上げた。

「問題は敵の配置が分かっても人質の解放ができるかは別問題と言うことか?」

 見ていた大和の視界に手前のビルに入っていく兵士達の姿が映った。

「どうやら前のビルに配置しておけるほど敵の持ち駒は多くないようですね」

「奥に戦力を集中しているようです」

 強行偵察艦ほどでなくても戦艦娘にもセンサーは搭載されていた。定延とゴルドバが険しくビル群を見つめた。

『勝手な接近をするな。こちらには陸上戦艦がある。たとえ見張りの者を倒しても人質が無事に済むと思うな』

 途端に軍用周波数に割り込みテロリストの声が響く。

「当然ですが敵にも索敵能力があるようです」

「機動歩兵の電子戦能力でごまかせる相手ではないと言うことですね」

 苦々しくキャサリンとゴルドバが呟く。

「これでは強襲は難しいし、たとえ成功したとしても人質ごと敵の主砲で粉砕されてしまうじゃない」

 苦しそうに飛鳥も呟いた。

「人質の安全確保が急務か。こうなったら我々が出るべきだろうな」

「あたし達の電子戦能力なら陸上戦艦のセンサーをだませるでしょうし」

「人質を解放した後もシールドが張れるし」

 大和の言葉にキャサリンと飛鳥も頷く。向こうが戦艦ならこちらも戦艦で立ち向かうのが正解だろうとみんなが思う。

「我々がでるとしたら陸上戦艦もなるべく早く潰すべきでしょう。敵の主砲は人質以外に対しても有効です。我々が人質を確保したら自暴自棄に陥って市街の破壊を企てるかも知れません」

 アメリカ・ヨーロッパ連合艦隊序列三位、戦艦スージーは怜悧な風貌で大和を見据えながら大きく頷く。

「大和殿。軍司令部にあたし達の出撃申請を」

「申し訳ないが君達を後方で使っている事態ではなくなってきた。人質の確保そして敵の手にある大型ホバー戦車の奪還を頼みたいとの基地指令の言葉だ」

 大和達の決意が固まり定延が軍司令部へ出撃許可の申請を要望したその時、まるで機会を窺っていたようなタイミングでモス軍曹が入ってきた。

「我々の出番ですか?」

「この間の訓練で君達の能力の高さは十分に分かっていた。しかし学校や宿舎でしばしば君達はやりすぎていたから。しかし先ほどのテロリストの宣言。私達だけでの作戦の遂行は無理と司令部が判断した」

 大和達の耳に少し痛いモス軍曹の言葉。しかし今はそんなことに構ってはいられない。

「分かりました人質の解放及び、戦車の奪還をお引き受けします」

 ピシッと敬礼をすると大和はモス軍曹に視線を合わす。

「頼んだ。では失礼する」

 大和に敬礼を返すとモス軍曹はテントを出て行く。

「大和、人質の解放はともかく戦車の奪還まで大丈夫なの?」

「そうですわ。集中砲火を浴びせれば潰すのは簡単ですが、取り戻すというのは?」

 モス軍曹がテントから出た瞬間、待っていたように飛鳥とキャサリンが心配そうな表情で大和の顔を見た。

「四方八方から出力を押さえた砲撃でテロリスト達を攪乱する。動きがとれなくなればそのうちに降参せざるを得なくなるだろう」

「そんなにうまく行きますでしょうか?」

 荒っぽい大和の作戦にアジア連合艦隊序列二位の副旗艦戦艦定延が疑念を漏らす。

「所詮は戦車。俺達の攻撃を受け続ければいずれシールドも破綻するはず。そうなったところでエンジンを撃ち抜く。それで終わりだ」

「大丈夫だよ。こっちは二十九隻もいるんだよ。大きくても相手は戦車でしょ。スペックから言えば若竹達強行偵察艦だってパワーは遙かに上なんだから」

 珍しく引かない大和にアジア連合艦隊序列五位、戦艦扶桑が後押しをする。

「大丈夫でしょう。一対一でも互角以上なのに多勢に無勢。負ける要素はありません」

 さらにアメリカ・ヨーロッパ連合艦隊序列三位、普段は物静かな戦艦スージーも大きく頷いて見せた。

「全員出撃、とにかく作戦を遂行する。まずは人質の確保と戦車攻撃に担当を分ける。手が足りないから出ている強行偵察艦も呼び戻してもらおう」

 司令部にリンクを繋ぎながら戦艦娘を引き連れた大和はテントを後にした。


「攻撃班、配置はいいか?」

『展開を完了』   

『いつでもでられます』

『こっちも準備できてるよ』

『戦車の位置。最終確認を終了』

 人質を連れテロリストが立てこもるビルを横目で見ながら大和は戦艦娘達に最後の確認をする。対して戦艦娘からの返答が返ってきた。

 電波を介しての連絡では無意味なのだが、大和も戦艦娘達も自然に声を潜めてしまう。

「奪還班も準備はいいか」

 続いて大和は巡洋艦娘と強行偵察艦娘に連絡を取る。

『人質の位置を確認』

『テロリストの位置も確認』

『突入いつでもできます』

 十人の戦艦娘が戦車の攻撃要員なら、そのほかの戦闘艦娘は人質の奪還要員だ。やはり攻撃力が売りの戦艦娘、当然の配置だった。

「夏も準備はいいな?」

 統合旗艦大和は視線を正面に戻すと、相棒であるアジア連合艦隊序列六位の巡洋艦娘の険しい横顔を伺う。

「大丈夫です。いつでもできます」

 端正な大和に至近距離から見つめられ巡洋艦娘は気押されたように何度も頷く。

「分かった」

 元々が戦艦娘達の気を引くために選抜された大和だ。少し顔を赤くした夏だが大和は気づかず再び横目でテロリストの潜むビルに視線を向けた。

 奪還班は大和を含めて二十名。十のビルに分散していた人質を一気に奪還するため一班二名でタイミングを計っていた。

 全員が非武装だ。下手に武器を携帯すると乱戦で人質に被害が出るかも知れない。どうせテロリストの武器で戦闘艦の装甲を撃ち抜けるわけもないし、武器がない方が動きもよくなる。

 それに状況にもよるが質量慣性制御装置の活用で百トン単位の打撃技を繰り出す戦闘艦娘に、下手な手持ち武器など不必要だ。

「奪還要員はテロリストの位置の最終確認。攻撃要員は合図と同時に行動開始」

 作戦は決まっていた。攻撃要員が主砲で砲撃。動揺したテロリスト達を人質奪還要員が強襲し制圧。

 一気に決着がつくはずだった。

「突撃!」

 陽動もかねる総攻撃。各所のビルの屋上に身を隠していた戦艦娘に大和の指令が飛ぶ。合図と同時に数十メートル離れた戦車が直視できるビルの屋上に向け、飛鳥達、戦艦娘の肢体が宙に舞う。

「敵を発見!」

「撃ち落とせ!」

 途端に巻き起こるテロリスト達の怒号。高く舞う戦艦娘達の姿を国連軍の航空戦力を恐れ見張っていたテロリスト達に発見されたのだ。

「しまった。高く飛びすぎた」

 対戦車ヘリよりも遙かに小さな戦艦娘。まさか発見されるとは思わず狼狽してしまう。

「これでは攻撃できない」

 ビルの屋上に取り付いても主砲を発射するには身体を縦に開き、クワガタムシの角状のビーム発信器を露出しなくてはいけない。

 そんな姿では機動力が発揮できないので通常の姿で空を舞った戦艦娘達。攻撃にはそれなりの時間が必要だった。

「主砲を発射!」

 狼狽する戦艦娘達。しかし全員が見つかったわけではなかった。低く飛んだ何人かがそれぞれ攻撃を始めた。

「反撃だ」

 しかし奇襲はすでに成立していない。猛烈な反撃が起こった。

「全員突入。人質を救え」

 巻き起こる銃声。ビームが煌めきロケット弾が突進していく。テロリストそして人質を問わず耳をふさぎ床に身を伏せた。

 その隙を見逃す大和ではない。身を潜めたビルの窓ガラスを粉砕しテロリスト達の潜むビルに突入していく。

『人質を奪還』

『テロリストを制圧しました』

『人質の保護にシールドを展開しました』

 それは他の突入班も例外ではなかった。次々に作戦の成功が知らされてくる。

「動くな。死にたいか」

 勢いを落とさず対面のビルの窓ガラスを粉砕し、大和はそのまま床に伏せるテロリストに蹴りを浴びせる。

 戦艦娘と同様、大和も本来の艦船の能力を秘めた存在。やろうと思えば超人並みの能力は持っていた。

「抵抗しないで。しなければ殺さずに済ませます」

 恐ろしい言葉をまき散らしながら夏も次々にテロリストを昏倒させていく。

「……大和さん。助かりました」

 人質の中から見知った声を聞き分け大和は思わずたたらを踏む。

「……ゆかりさん?どうしてここに?」

 内気そうな雰囲気の少女立木ゆかりがそこにいた。

「今度大和さんと会う約束をしていたので。……その下見を」

 恥ずかしそうに目を伏せたゆかりに大和は一瞬の感動を覚える。

「統合旗艦殿、今はそんなことをしている場合では」

 夏の固い声に大和はハッと我に返った。

「直ちに撤退します。全員ついてきてください」

「怪我人は助け合って。あたし達はこのテロリストを連れて行かねばなりませんから」

 両肩にテロリストを担ぎ上げた大和と夏はゆかりを含む人質を前後に挟んでシールドを展開。未だ砲声の響くビルを後にするのだった。

『大和、こちら飛鳥です。どうします』

『このまま撃ち合っていたら公園の周囲のビルは全て倒壊しますわ』

『撤退命令を。被害が大きすぎます』

 道を急ぐ大和に飛鳥達の連絡が届く。大和と夏のいたビルに戦艦娘はいないはずだが流れ弾が次々に着弾していた。

 最初からテロ攻撃も想定し強化をしていたビルだが所詮は民間施設。さすがに崩壊は始まっていないが軽く考えられるほど被害は小さくなかった。

「撤退を許可する」

 ……いくら人質の奪還はしても、これでは。

 作戦の失敗を確認し、大和は苦々しい口調で飛鳥達に返答を返す。その間にも公園を取り囲むビルに砲弾の轟音が響いていた。


「結局は作戦は半分成功したわけですな?」

 いつの間にか大和達と司令部の連絡係を任されていたらしいモス軍曹は眉をひそめ軽く嘆息した。

「それにしてもあれだけの砲撃戦を繰り広げて、人的損害が皆無だったのはたいしたものです。人質は全員を救出し、あなた達も無事に撤退。さすがにテロリスト達の損害までは知りませんが」

 皮肉に唇をゆがめると再び嘆息した。

「今は何とか膠着状態ですが。それにしても今後はどうします?」

「とにかく奇襲は失敗しました。これからはテロリスト達は油断を絶対しないでしょう。それに交渉は望み薄。直接対決しか道はありません。人質には悪いですけど、一種のクッションになっていた側面は否定できません」

 何とか気を取り直すとモス軍曹は大和の顔を見た。自責の念に駆られた大和は顔色も悪くモス軍曹を見返す。

「ここまで来たら仕方ないでしょう。人質はもういません。ホバー戦車は諦めました。攻撃衛星のビームで一撃ですか。それにしても人型から戦闘態勢に移るまでのタイムラグですか?あなた方にも意外な弱点がありましたな」

「宇宙では距離がありましたし。後はひたすら乱戦ですか?そうなったら敵の投降は」

 こんな戦い方もなかったと言外で匂わせ、大和は話を続けていく。

「戦車に乗っていた乗員は丸焼け。残った者は意地にもなるでしょう。まだ武器を持っています。よほどの被害。全滅しかなくなったら降参もあるでしょうが」

「駄目だよ、そんなの。町中にミサイルやロケットの雨が降るじゃない」

「私達が頭上からビームの雨あられを降らせたらテロリスト達もそれどころじゃないでしょうが」

 こちらも景気悪く飛鳥やキャサリンが会話に参加してきた。

「一人残らず殺してしまうわけですか?世間の目が厳しくなりそうですね」

 定延が皮肉たっぷりに嘆息した。もっとも彼女にもいいアイディアがあるわけでもなかった。

「要するに人死にを出さずに戦車の動きを止めちゃえばいいのよね」

「だと思います。彼等の切り札が手もなく無力にされてしまえば意地の張りようもなくなるでしょうから」

「私達が集中砲火を浴びせれば不可能ではありません」

「最初に言ったようにシールドを過負荷にさせるよう調整しながら砲撃。弱ったところでエンジンに直撃。動きを止めさせる。力の差を思い知らせつつ、乗員も無傷。これなら投降もしやすいわけですが」

「それができないから苦労しているのでしょ。何しろこちらが攻撃モードに入る前に攻撃を受けます」

「落ち着いて砲撃ができないのですから、手加減どころではありません」

 次々に戦艦娘が会話に加わってくるが、全員が頭を抱えたままだ。

「方法はあると思います」

 この場にもっともいるべきではない少女が頭を突っ込んできた。

「方法って何?」

 アジア連合艦隊序列一位の旗艦、戦艦飛鳥はすがるような視線で恋敵になるかもしれない少女立木ゆかりの顔を見た。

「みなさんも見たから知っているじゃ有りません?最初の頃だっけ、軍学校の校庭で飛鳥さんとキャサリンさんが対決をして」

 ゆかりは戦闘艦娘の顔をスウッーと見渡すと、何でこんな簡単なことをと言う表情で話を始めた。


「全艦戦闘配置につきました」

 ビルの谷間にアジア連合艦隊旗艦序列一位、戦艦飛鳥の声が響く。隣には序列八位、巡洋艦来延が付き従っていた。

「こちらも準備は完了です」

 飛鳥から数百メートル離れた位置に立っていたアメリカ・ヨーロッパ連合艦隊旗艦序列一位、戦艦キャサリンの声が大和にも届く。隣には同艦隊の序列八位、巡洋艦アイバンが立っていた。

 ここからは見えないが浮き名市中央公園を一周する円内に飛鳥達を含め十四組二十八人の戦艦娘達が立っているはずだ。

『敵ホバー戦車の位置確認。公園中央に展開。前回より動いていません。シールド出力も安定。今のところ作戦変更の必要はない模様です』

 唯一ペアに入っていない艦艇。アメリカ・ヨーロッパ連合艦隊所属序列十三位、強行偵察艦エリカが状況の報告をしてきた。

『定延及び那智準備できています』

『ゴルドバそしてマツジョーレ配置につきました』

 次々に二十四組の戦闘艦娘から報告が上がってくる。

『オルサとローレヌ戦闘配置につきました』

 最後にアメリカ・ヨーロッパ連合艦隊序列七位、巡洋艦オルサそして同序列十四位、強行偵察艦ローレヌから報告が入った。

「これよりテロリストに奪取されたホバー戦車の奪還作戦に入る。上位艦攻撃態勢に入れ!」

 大和が号令を発する。

「行くわよ。リターンマッチよ」

「今度はとどめを刺します」

 飛鳥とキャサリンの身体に縦線が走った。見えないが定延や扶桑、ゴルドバなど全戦艦娘が砲撃戦態勢に入ったはずだ。

『巡洋艦夏、砲撃の準備よし』      

『ジョティいつでも撃てます』

『オルサ射撃よし』

 そして巡洋艦の内、上位艦も砲撃戦の準備を整えているはずだ。巨大なクワガタムシ状の対になった角が凶悪な姿を現す。

「エネルギー充填開始」

「チャージ完了」

 角の間にエネルギーの塊が形成されていく。ホバー戦車から姿は見えない。これなら確かに敵の先制攻撃は受けないだろう。

 しかしビーム兵器の特性上曲射ができないからこちらの攻撃も届かないはずだ。

「シールド艦展開開始。位置および強度は事前の計画を遵守!」

 再び大和の号令が飛ぶ。

「行きます!」

 瞬間砲撃準備をしていなかった巡洋艦達の姿が消えた。当然だが消えたのではなく素早く動いただけだ。

「こっちです」

 次の瞬間一番公園に近いビルの壁面に巡洋艦娘達の姿が現れた。

「撃てっ!」

 さらに次の瞬間戦艦娘達の砲撃が始まった。攻撃目標は巡洋艦娘。

「曲がれ!」

 強度と位置を計算した巡洋艦娘のシールドにビームは弾かれた。そのまま方向を変えたビームは公園の中に飛び込んでいく。

 軍学校の校庭で飛鳥のビームをキャサリンが弾いたことの応用だった。

「ビーム、敵ホバー戦車に直撃」

 強行偵察艦エリカが大和に報告する。

「計画終了。撤退します」

 低くビル壁面に取り付いた巡洋艦娘は素早く壁面から離れる。戦艦娘と完全にタイミングを合わせたコンマ数秒の早技だ。

 下位は巡洋艦と強行偵察艦のペアだが、調整しての砲撃なら巡洋艦でも戦艦と大差はないのだった。

「何だこれは、攻撃だと?」

 戦車を襲う衝撃に叫ぶテロリスト。

 ホバー戦車のテロリスト達には何も分からなかった。センサーに捕らえられた高エネルギー源はビルの向こう。ビーム兵器は曲げられない。

 移動してと思ったら、次の瞬間だ。結果として直撃されたのだから、いきなりビームが進路を変えだろう。

「急いでシールドの強度を上げろ」

 突き刺さったビームは十四本。シールドがあっという間に不安定になった。これでは反撃に回すエネルギーなどない。

「テロリストを休ませるな。次々に済射を続けるんだ」

 再び戦艦娘からビームが発射された。同時に巡洋艦娘が移動、ビームをシールドで反射し、ホバー戦車にビームを直撃させていく。

 とにかく気づいたときにはビームが飛んでくる。そのたびに反射する場所は違う。

 ときには超高層ビルの屋上近く。ときには人の背の高さと大差ない高度。場所は瞬間的に移動し予想も不可能。

 ホバー戦車の周囲に展開し対空ミサイルを構えていたテロリストは何もできないまま虎の子がボロボロにされていくのを見ているしかなかった。

「右側面にビームが集中し直撃。どんどんシールドが不安定になって、このままではシールドの展開が不可能になります」

「嬲られているんだ。最初より明らかにビームの強度が落ちている。しかし敵が弱くなっている訳じゃない。正確にこちらのシールドの強度に合わせ調整している」

「このままではシールドが消滅してしまう。その後はこっちのエンジンをやって身動きを取れなくさせるつもりだ」

「だからといって防ぐ手段がない」

 ホバー戦車の中のテロリスト達は地団駄を踏んで悔しがる。不吉な予想が開陳された。

 生きながらオオカミに生肉を貪られる大型の鹿。いやな連想ばかりが心の中に広がっていく。

 実態は大型恐竜の群れに襲われていたのだから、ホバー戦車には何の救いもなかった。

「敵ホバー戦車のシールドが消えました。エンジンに直撃可能です」

 強行偵察艦エリカが何度目かの報告を大和にあげる。

「できる限り簡単に修復が可能な場所はどこだ?」

 すっかり余裕のできた大和がエリカに問う。

「継ぎやすいと言えば、戦車中央のエネルギー伝達管ですが?」   

「聞いたか飛鳥?なるべく細いビームで切断しろ」

 エリカの報告を飛鳥はそのまま飛鳥に伝えた。

「ま、待ってください。エンジンが稼働中に」

「主砲を発射しろ!」

 何かを言いかけたエリカだが勝利を確信し浮かれきった誰もエリカの言葉など聞いていなかった。

「分かった。一撃でぶった切る」

 当然のように大和と飛鳥も。

「エンジン稼働中に切断したらエネルギーの行き場がなくなって」

「伝導管粉砕。……行き場がなくなって」

 ビームを発射。少し興奮が収まった。何とかエリカに注意を戻した飛鳥は絶望的な表情のエリカに気づいた。

「行き場がなくなってエンジンが暴走。爆発します」

 何とか言いたいことを言い終えたエリカだが前とは反対の理由で誰もエリカの言葉を聞いていなかった。

「爆発って、戦車がおシャカ?と言うことか」

 天国から一瞬にしての地獄行きだった。大和の表情が暗転する。

「い、いいじゃない。元々ビームで灼いておシャカにする予定だったんだし」

 もはや誰もが忘れていた設定を飛鳥が口にするが、それで場の空気が元に戻るわけではない。

「これまでの苦労を考えなければ、みんなが抱いた希望がなければ、それはその通りなんでしょうけど?」

 消沈の面持ちでキャサリンが飛鳥に同意した。もっともここまで来ては、何の意味はなかったが。

「エンジンの内圧上昇中。もうすぐ爆発します」

 何もかも終わった。淡々とエリカが報告する。

「エンジン暴走。総員待避してください」

 その時戦車の内部でも同じような淡々とした声が響いていた。

「脱出だ。早く戦車から出ろ」

「くそ、陰険な真似をしやがって」

「わざわざシールドを無力したから命だけは助けるつもりかと思っていたら、最後にはこれか」

 口々に悪罵を口にしながら戦車内部をテロリストが走っていた。さすが陸上戦艦。通路は長く、時間に余裕はなかった。

「結局、世の中なんてこんなものです」

 そして戦車の外では定延が総括を終えていた。


「さっさと並べ。ぐずぐずしていたら日が暮れるだろうが」

 若い国連陸軍兵士が目の前の手を挙げた男達に怒鳴る。戦いに敗れ仲間の解放も人質の身代金も、結局、何一つ得るもののなかったテロリスト達だ。

「全くパトロールのはずのお前達がテロリストの一員とはな。どうりで手際よく迎撃してくれるはずだ」

 薄汚れた国連陸軍の制服。飛鳥達も遭遇した第十二パトロール分隊だ。

「これだけテロリストの中に我が軍の兵士が混ざっていたとは。あんな大きなホバー戦車だって奪取できるわけだ」

 そのほかにもかなりの数の国連軍兵士の姿。元の仲間を拘束せざるを得ない国連軍兵士の表情も複雑だ。

「結局、戦車はこれか」

 目の前の大破したホバー戦車に小さく肩を落としたモス軍曹が呟く。

「まだ原型は残っていますし」

 大和はできるだけ軍曹と目を合わせないようにして答える。

 ホバー戦車の後ろ半分はまるで蒸しパンのよう膨れ、装甲がひび割れていた。疲弊したエンジンにそれほどのパワーは残っていなかったらしく、戦車全体が吹き飛ぶほどの損害は出なかったのだが修理にはかなりの日数を要しそうだ。

「それは確かにそうなのだが。途中での君達の活躍にもう少し被害が少ないかと?」

 再び肩を落とすとモス軍曹は今度は戦艦娘達に視線を移す。

「確かに被害は大きかったのですが、ホバー戦車に乗っていたテロリストの命に別状はありません。バックの追求に何の問題もないでしょう」

「そうです。リーダーは一番安全なところにでしょ?衛星のビームで灼いていたら今頃困ったことになっていたはずです」

 自分達に矛先が向けられた。慌てて弁明に走るキャサリンと飛鳥だった。

「あれだけ壊れては、新しく作った方が金がかからないかも知れないな?」

 モス軍曹の恨めしそうな視線に戦艦娘はさらに慌てた。

「だいたい飛鳥さんは落ち着きがなさすぎます。ちゃんとエリカの言葉を聞いてから行動に移せばこんなことにはなっていません」

 我が身に累は及ぼさない。ならば原因に責任を取ってもらおう。飛鳥に皮肉な視線を向けるとキャサリンは肩をそびやかす。

「もっとはっきり言ってくれればよかったのに。あんなトロい娘が強行偵察艦なんかやっているのが問題じゃない」

 逆ギレ気味に飛鳥は叫び返す。飛鳥自身も自分の責任を痛感してはいたが、他人にはっきり言われるとやはり腹が立つ。

「ひどいです。人の言うことを無視したのは誰です?」

「あなたはアジア連合艦隊の旗艦でしょ。自分の非を棚に上げて」

 エリカは当然だが反論に出た。キャサリンもアメリカ・ヨーロッパ連合艦隊の旗艦としてエリカの肩を持つ。

「何ですって」

「やめろ、お前達。飛鳥は確かに悪い。しかしあのときは全員が興奮していて」

 今にも主砲を撃ち合いそうにボルテージをあげる戦艦娘に大和は危機感を覚え、両者の間に割ってはいる。

「何を他人事のように言っているのですの。そもそも最初にエリカに後で楽に直せる箇所をなどと、大和様が余計なことを聞かなければ」

「そうだった。あのとき大和が何も言わなければ、あたし達がそのままエンジンを撃ち抜いて終わりだったのに」

 冷たい瞳のキャサリンと恨みのこもった視線の飛鳥。まさに藪をつついて蛇をだす、を地で演じてしまう大和だ。

「大和様って本当に頼りになるの?」

「なぜか逆に足を引っ張っているような?」

「ビーム反射作戦を考え出したのもゆかりさんだったし?」

「やっぱり兵器は実戦で使えてなんぼよ。カタログスペックだけじゃ?」

 大和を横目で見、ヒソヒソと話す戦艦娘。

「ど、どうせ俺は駄目な奴だよ」

 集中する戦艦娘達の冷たい視線に耐えきれず統合旗艦大和は喚いてしまい、さらに戦艦娘の冷たい視線を集めてしまうのだった。



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