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第92話 「初ライブ&握手会」


デビュー曲発売前に、「Mizkiインパクト」が日本中を駆け巡っていたが、ついに、デビュー曲「TAKE OFF」の発売日がやって来た。


発売イベントとして、横浜赤レンガパークにおいて、ミニライブ、握手会が行われた。

詰めかけた来場者数が予想を超えて、なんと1万人に達した。

会場は、ごった返して、当局の要請も有り、急遽、警備員を増員することになった。


騒々しい会場にアナウンスが響き渡った。

メインステージにライトが入り、いよいよMizkiが登場する時刻になった。

場内のざわつきは、一瞬のうちに消え、全ての視線は、メインステージに向けられた。


ステージの袖では、真紀のアドバイスのもと、バンドメンバーと円陣を組んでいるみずきが居た。

「みなさん、宜しくお願いします。 では、Shall we sing?」

「イェース!」


円陣が崩れると、バンドメンバーが、先にステージに行って準備を始めた。

そしてすぐに、デビュー曲「TAKE OFF」の伴奏を始めた。

聞き慣れたイントロを耳にした観客達から、歓声が上がった。

ステージにカクテルライトが回り始めると、観客が一斉に手拍子を始めた。


そしてついに、Mizkiが、手を振りながらステージ中央にやって来た。

大歓声が、地響きのように湧き上がった。


「瑠美、同じ土俵に立ったわよ。」

心の中で、みずきは囁いた


Mizkiは、思い切り歌った。

観客は、期待通りの歌声に、思い切りの拍手をした。


「みなさん、はじめまして。Mizkiです。

今日は、あたしのイベントに来て頂き、ありがとうございます。

アルバムの為に作った曲、10曲の中から、お気に入りの3曲を、ここでお披露目したいと思います。

歌ってもいいですか?」


歓迎の歓声が、一斉に上がった。


「では、聞いてください。『Deep Blue』」


デビューしたばかりとは思えないほどの歌唱力とクオリティーの高い楽曲に、

観客はすっかり魅了された。


「如何でしたか? あたしは、バスに乗って、外を眺めながら、曲を作る事が多いんですが、次の曲は、たまたま船に乗る事があって、海原を眺めながら作りました。

大好きな曲です。 『潮風』聞いてください。」


伸びやかなバラード調の曲が、場内に鳴り響いた。

人々は、手拍子を止めて、Mizkiの澄みわたる歌声に耳を傾けた。


そして、曲は進み、ラストの曲を迎えた。


「みなさーん! 盛り上がってますか?

 次で最後になってしまいました。

デビュー曲「TAKE OFF」の続編のような曲になっています。

『OVER』聞いてください。」


4曲を歌い終えて、感無量でたたずむMizkiに、アンコールの大合唱が木霊した。


「ありがとうございます。アンコールを頂けるなんて、全然考えていませんでした。

えーと、どうしようかな・・・。ディレクターの中井さん、歌っても大丈夫ですか?」


場内に、笑い声が起きた。

「はい? オーケー? オーケーということなんで、

『TAKE OFF』を、もう一回いっちゃいましょうか?」


拍手が鳴り響いた。


「では、聞いてください。『TAKE OFF』」


聞き慣れたメロディーが流れると、あっという間の30分が過ぎ去った。


「みなさん、今日は本当にありがとうございました。

これからも、頑張りますので、応援宜しくお願いします。」


ステージからMizkiが、居なくなると、案内アナウンスが流れた。

ここで販売しているCD先着200名様に、握手券が付いているので、握手を希望の方は、並んでくださいというものだった。

当然のように、あっという間に、長い列が出来上がった。



舞台裏では、歌い終わったMizkiを、真紀がハイタッチで迎えていた。

「良かったよ、みずきちゃん! 初めてなのに、堂々とした歌いっぷりで、びっくりしたわ。やっぱり、あなたは大物になる器ね。あなたのマネージャーになって良かった。」


「真紀さん、ありがとう。でも興奮しちゃって、地に足が着いてない感じ。何言ったかも、全然覚えてない。」


「次は、握手会よ。頑張って。」


「はい。」


Mizkiは、笑顔で握手会場へ向かった。

そこは簡易テントで、入り口と出口に仕切りが有り、個別に握手と会話が出来るようになっていた。


世の中には、色々なタイプの人達がいる。

歌手にならなければ、絶対に握手なんかしないような苦手なタイプの人、

逆に、歌手になれたから、握手できるような好みのタイプの人。

そのどちらでもない人。


みずきは、誰とでも打ち解けるタイプではなかった。

だから、知らない人と握手なんて、苦痛の時間だと思っていた。

そして、その時間が始まった。

次から次へと、絶え間なく来る人達と、頑張って笑顔で握手を繰り返した。

不思議と中学生から60代、男女も関係なく並んでいた。

どうやらMizkiのファンには壁が無いようだ。


始めは、感情を押し殺して、握手をしていたMizkiだったが、ファンからの励ましの言葉や、自分との握手で喜んでくれることで、次第に心が晴れて来た。


列も終わりに近づいたころ、差し出した握手の手を触らないで、つばの大きな帽子をかぶって、うつむいている女性がいた。

どうしたんだろうと、顔を覗き込むと、女性は顔を上げて、サングラスを外した。


「瑠美!」

「久しぶりね、みずき。凄いじゃない、この人気。あなたに、こんな才能が有ったなんて、びっくりしたわ。」

「そう。」 

「目的は、誠さんね?」

「そうよ。人気が有る歌手だからって、何でも手に入るなんて、許せない! 

瑠美よりあたしの方が凄いって解れば・・・瑠美より人気のある歌手になれば、きっと誠さんは、あたしに戻って来てくれる!」

「やっぱり、そう云う事だったのね。でも、それは違うわ。誠さんはそんな人じゃない。」

「そうかもしれない、でも、あたしには、こうするしかないの。」

「そう、分かった。もう昔みたいに、譲ったりしないわよ。」

瑠美は、歩き出した。

みずきは、鋭い目で瑠美の後姿を追っていた。

瑠美が見えなくなると、我に返り、次の人を見ると、急に胸が苦しくなった。

そう、そこには、誠が立っていた。

「元気そうだね。曲も良いし、歌も凄く良かったよ。」


誠の声を聞くと、みずきは泣きそうになってしまった。

「ねぇー、戻って来て! 悪い所は直すから。何でも言う事聞くから!」


「ごめん。それは出来ないよ。」

誠は、歩き出した。


「行っちゃいやー! お願い!」

みずきは、誠の後を追いかけようとした。

傍にいた真紀が、さっと、みずきの腕を掴んで止めた。

「握手会は終ってないわよ。

あなたの歌手になった理由は、正直言って、ファンを馬鹿にしてると思う。

でも、私は、それで良いとも思う。

あなたが、デビューした事、それ自体が、芸能界にとって宝になったから。


みずきは、目の前のテーブルに両手を着いて、うなだれた。

真紀が、握手会は終ってない事を伝えて、一言二言、檄を入れた。



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