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第9話 「マネージャーと誠」


誠は、ホテルに入るとそのままエレベーターに向かった。

「何階ですか?」


留美もホテルに着いたことでほっとした声で答えた。

「7階の702号室です。」


誠は、エレベーターに乗った。

「マネージャーは?」


誠が壁にもたれかかったので、留美は少し潰される様な感じになった。

「あっ! 隣の703です。」


「じゃー、703に行きます。」


エレベーターのドアが開くと、誠は703号室に向かった。


誠は、703号室のドアを少し強くノックした。

「ドンドンドンドン! ドンドンドンドン!」


中からマネージャーらしき声の返事が有った。

「何ですか?」


20代の女性が、不機嫌そうにドアを開けた。

留美は、思わずマネージャーの名前を発した。

「真紀ちゃん!」


マネージャーの加藤真紀は何が何だか解らなかった。

「留美! 何してるの?」


留美が、半べそ顔で答えた。

「足、怪我したみたい。」


マネージャーの真紀は、びっくりした。

「中に入って!」

誠は、留美をおぶったまま部屋に入った。


マネージャーの真紀の頭の中はパニックになった。

どれほどの怪我なのか?

いったいこの男は何者?

この男が怪我をさせたのか?

明日の仕事はできるのか?

出来ないなら、いつまで出来ないのか?

ライブのキャンセルは?

関係各社への対応は?

会社の損失は?

社長の怒る顔がちらついた。


マネージャーの真紀は、思わず声を荒げた。

「ベッドに降ろして!」


誠は、言われたまま留美をベッドに降ろすと、横に立った。

マネージャーのまるで犯人を見るような眼と重苦しい雰囲気に違和感を感じて、早くこの場から消えたくなっていた。


マネージャーの真紀は痛そうな顔している留美を見ると一層不安に感じた。

「一体どうしたの?」


留美は、真紀に会えて、ほっとしていた。

「ジョギングしていたら、階段で踏み外して転んでしまったの。携帯も壊れて、足首が痛くて立てないで困っていたら、この方、野田誠さんが通り掛かって、おぶって来てくれたの。ちゃんとお礼してね。」


マネージャーの真紀は、やっと留美をおぶった男がどういう人なのかが解った。

「それはどうも有難うございました。後ほど改めてお礼をしたいので、ご連絡先を教えてくださいますか?」


誠は、マネージャーの真紀の急な雰囲気の変わりように戸惑った。。

「いいえ、お礼なんて結構ですから。」


誠は、ドアの方に後ずさりしながら、手でいいえのジェスチャーをしたまま、ドアを開けて廊下に出て行ってしまった。

留美は慌てた。

「ちょっと! 待ってください!」


マネージャーの真紀が、止めようと廊下に出たが、誠の姿は無かった。

真紀は、ため息交じりにつぶやいた。

「あーっ、行っちゃった。」


留美は、どうしたらいいのか考えた。

「そうだ、フロントで聞けば分かるかも。真紀、ちょっと聞いてきて。」


「こんな時間、もう誰もいないわよ。それに迷惑よ。明日にしましょう。それより、足は大丈夫なの?」


留美は、時計を見て納得した。

「ん~、痛みは弱くなったけど、歩けないと思う。」


マネージャーの真紀は、歩けないと言われたのがショックで、足首を見てみると、かなり腫れていた。


「折れてるんじゃないでしょうね。病院に行かないと! 救急車呼んだ方が速いわ。明日は、大阪に移動するだけだけど、あさっては、ライブだよ、どうするの? えーっと、電話、電話。フロントは、9だっけ。」

「こんな時間に迷惑じゃなかったの?」

「ばか、そんなこと言ってる場合じゃないでしょ。」


マネージャーの真紀は、フロントに電話をすると、ビニール袋に水と冷蔵庫で冷えた缶ビールの缶を入れて縛ると、留美の腫れた足首に当てた。


「ありがとう真紀。やっぱり、頼りになるね。」

「当り前でしょ! 私を誰だと思ってるの? 日本一の歌姫、鮎川留美のマネージャーよ!」


間もなく、赤いランプとサイレンを鳴らしながら、救急車が到着した。



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