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第89話 「デビュー曲」


鮎川瑠美と野田誠が、アメリカに行っている間に、橘みずきは、デビューに向けて確実に階段を上がっていた。


シャイングループ取締役でプロデューサーの渡瀬充が、2ケ月後に橘みずきをデビューさせることを決めた。

当初、渡瀬充は、1年から2年のスタンスでデビューを見据えていたが、

彼女の音楽的成長は目覚ましく、毎日接している渡瀬充にとっては驚きの連続で、それは彼女の覚醒を目のあたりにしているようだった。


橘みずきは、毎日レッスンを続けながら、出来上がったデビュー曲のレコーディングとPV撮影に追われていた。


そして更に、渡瀬充は、みずきに、難題を命じた。

なんと、アルバムをデビュー1ケ月に発売するから、その収録曲10曲を作れというものだった。

 デビュー曲が売れるか売れないか判らないのに、アルバムの発売を決めてしまうのは、普通は考えられない事だったが、渡瀬充には確固たる自信が有った。


ある日の放課後、みずきが、スタジオに美樹と知佳を呼んだ。

初めて入るスタジオに、2人は興奮気味だ。

みずきは、2人に「ちょっと待ってて。」と言うと、レコーディングルームに入った。

慣れた手つきで、スタッフに合図をすると、聞き慣れないイントロが流れ始めた。

みずきのデビュー曲だった。彼女は、とびっきりの笑顔で2人に歌って見せた。

初めて聞く軽快なリズムに、思わず2人は飛び跳ねながら手を叩いて喜んだ。


歌い終わって、みずきが傍に来ると、美樹が涙ぐみながら言った。

「すごーい! 感動しちゃった! これ本当に、みずきが作ったの?」


嬉しそうにみずきが、答えた。

「何よ、失礼ね。この天才アーチストみずき様が、作ったに決まってるじゃない(笑)」


知佳が、皮肉たっぷりに言った。

「あーら、私は、優秀なゴーストライターが作ったと思ったわ(笑)」


「ひどーい! 『急にデビューが決まったから、デビュー曲を作ってみろ。』とか言われて、1週間ほとんど寝ないで作ったんだからねー。」


知佳が、笑いながら言った。

「それは失礼しました、みずき大天才アーチスト様様(笑)」


美樹が、興味津々に聞いた。

「ねぇー、それで、デビュー曲の題名は?」


「何だと思う? 当ててみて。」


「えーっ・・・。何だろう・・・。スカイ?」


知佳も、うんうんとうなずきながら言った。

「私も、ブルースカイとか、思っちゃった。」


みずきが、口をとがらせて言った。

「ブ、ブーッ! 『TAKE OFF』 でした!」


「なるほどー、みずきが、新しい世界へ飛び立つーって訳ね。」


「まぁーそんなところかな。」


「この曲、きっと売れるよ。今までに無い感じだし。」

美樹が、右手こぶしを握ってガッツポーズをしながら言った。


知佳もうなずきながら言った。

「ソウル&ロックみたいな。インパクトあるし。歌も格段に上手くなったし。」


「ありがとーぅ!」


美樹が、知佳に言った。

「知佳、R&Bじゃないの?」


「いいの! ソウル&ロックで。 私には、そう聞こえるの。」

知佳は頑なに言い返した。


みずきが、割って入った。

「一応、『魂のロック』って、キャッチだから、それで良いと思うよ。」


美樹が、ちょっと悔しげに、話を変えた。

「それで、名前は、どうなるの?」


みずきは、ニッコリして、そばにあった紙にボールペンを走らせた。

「Mizki」


美樹は、意表を突かれたようだ。

「なるほどー、いいかも。」


知佳も、首を縦に振りながら言った。

「国際的で、いいかもー。」


みずきが、丸めてあったポスターを広げて見せた。

「どう? これ、デビュー曲のポスターなの。」


2人が覗きこんだ。

「かわいいー、みずきって、ほんと、化粧すると可愛いよね。」


美樹の言葉に、知佳が反応した。

「ちょっと、美樹。それって、褒めてるの? 化粧しなくたって、可愛いでしょ。」


「そりゃー、そうだけど、プロのメイクは、やっぱ違うなーって思ったの。」


みずきが、照れ気味に言った。

「まー、顔の事は、置いといて。あたし今は、アルバム曲を作ってるんだ。出来た曲からレコーディングしてて、今日もこれからやるんだけど、見ていく?」


「うん! 見る見る!」

「当たり前じゃん!」


発見と感動の楽し日を送った3人だったが、この日から、みずきの曲は、日本中に知られることになった。


デビュー曲を使ったテレビ&ラジオCMのオンエアーが、日本中で開始されたのだった。


確固たる自信を持っていた渡瀬充は、国内シェアナンバーワン清涼飲料水メーカーのニューブランド「ブルーインパクト」のCMに、Mizkiのデビュー曲「TAKE OFF」起用の契約をしていた。


「ブルーインパクト」のCMは、ニューブランドの為メーカー側も力を入れて、そのオンエアー回数も群を抜いており、日本国民は、そのCMを毎日見て、そして聞くことになった。


そして、プロデューサー渡瀬充の作戦が成功の兆しを見せた。

あえて、Mizkiの名と曲名を伏せておいたのだった。


その作戦は図に当たり、テレビ局や清涼飲料水メーカーに問い合わせが、日に日に多くなっていた。

それは、「あの曲は何? 誰が歌っているの?」だった。


対応に苦慮したテレビ局や清涼飲料水メーカーは、渡瀬充に公表するように要請した。

待ってましたとばかりに、渡瀬充は、清涼飲料水メーカーに「ブルーインパクト」の宣伝用ホームページに、CM曲の情報ページを入れてもらうことにした。


そのページは、動画による、Mizkiの自己紹介と、CM曲のレコーディング風景を入れて、デビュー曲「TAKE OFF」とアルバムを宣伝するものだった。


さらに、商品「ブルーインパクト」自体に、Mizkiファーストライブ招待の応募シールを張り付けるキャンペーンページまで作成した。


「ブルーインパクト」もヒットして、ホームページのアクセス数もうなぎ上りになり、ライブ招待の応募数も予想を超え、当初予定していた1000人規模の会場を日本武道館に変更することになった。


デビュー曲発売前に、「Mizkiインパクト」が日本中を駆け巡ることになった。



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