表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
82/96

第82話 「母の反対」

みずきは、一応、母親に音楽学校の事を、話しておこうと、母親のスナックへやって来た。


「お母さん、話があるんだけど・・・。」


夜7時頃とあって、まだ、店内は常連客2人の静かな空間だった。


「何かあったのかい?」


「あたし、歌手になるって決めたの。だから、明日から音楽学校に通うことにしたんだけど・・・。」


アルバイトの派手な感じの女の子、さゆりが、口を挟んだ。

「すごーい! みずきちゃん。私、応援するわ!」


さゆりとは、正反対の表情の母は、カウンター越しに、気に入らなそうに言った。

「突然、何言ってるんだい? 歌手? 

今までそんなこと、言ったことなかったじゃないの。

その音楽学校って、いくらかかるんだよ。」


「ん~、1年で、70万円。」


「大学へ行くためのお金なら、出してあげるけど、そんなお金は、うちには無いよ。

大体、歌手なんてそんな簡単になれるものじゃないんだからね。

瑠美に影響されて、言い出した事なら、諦めときな。」


今度は、常連客の1人が、横槍を入れた。

「よーし! みずきちゃん、1日デートしてくれたら、この俺が出そうじゃないの!」


みずきの母親が、言い返した。

「ちょっと黙っててくんない。真面目な話をしてるんだから。」


みずきは気にせずに、母に話を続けた。


「大丈夫。お金は、友達が出してくれるから。後で、ちゃんと返すから。」


「何言ってるんだい。食事を奢ってもらうのとは、訳が違うんだよ。」


「大丈夫。 その人、お金持ちだから。」


「友達に、そんなお金持ちがいたっけ?」


「その人は大学生で、大病院の息子。」


「あんた、いつからそんな男と付き合ってるのさ?」


「違う、ただの友達。」


「駄目駄目。そんな男に、お金なんか借りたんじゃ、ろくなことにならない。」


「大丈夫だってば。そんなひとじゃないから。

それに、もう入校手続きしてきたから。」


「ダメだと言ったら、駄目。音楽学校なんて断ってきなさい。」


「嫌だ。絶対に行く!」


「大体、あんたが、歌手になんてなれる訳ないでしょ。」


「何でよ。お母さんは、瑠美が、人気歌手になってるのが気に入らないから、そんなこと言うんでしょ!」


「そうだよ。たとえ歌手になっても、瑠美に勝てないで、悩むに決まってるからね。」


「そんなことないよ!」


「駄目駄目。そんな大金なんて無いんだから、断ってきな。」


みずきが何度言っても、お金の貸し借りに苦い経験のある母は、許すことはなかった。


ましてや、瑠美と同じ世界で競うことになるのを、黙ってみていることなど出来るはずはなかった。


今までにない母親の強い反対にあい、みずきは、泣く泣く入校を諦めて、明日、断りに行くことにした。



ところが、みずき達が、帰ったカオス・アカデミー音楽学校で、動きがあった。


みずきをテストしていた中年の男性が、受付に来て話をしていた。


その中年男性というのは、実は、飛ぶ鳥も落とすほどの勢いで、ヒット曲を次々に世に送り出している、シャイングループ取締役でプロデューサーの渡瀬充だった。


「さっき、テストを受けに来た橘みずきさんは、入校手続きを済ませたか分かるかな?」


「はい、先程、済ませて帰られました。ただ、学費の分割払いを希望していて、その書類の提出は、後日ということになりました。」


「そーか。お金に余裕が無いということかな。」


「そうですね。親御さんが一緒ではなく、友達同士でしたから。親御さんには、内緒なのか、反対されているのか。こんなケースの場合、後で入校を辞める方も割といます。」


「なるほど。 それじゃー、もし、お金のことで入校するのを断りに来たら、いや待て・・・

入校するのを断らなくても、学費は免除にしてやってくれ。」


「えっ? 免除ですか?」


「うん。奨学生ということで、私のクラスに編入させてくれ。」


「えっ、先生のSクラスにですか。そんなに、凄い子だったんですか?」


「そう、10万人に一人。いや、10年に一人かな。 頼んだよ。」


「はい。」


振り向いて戻って行く渡瀬充の頬は、大物を釣り上げた釣り師のように、ほころんでいた。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ